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第42話 星の下で

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「これも、定期的に王宮医院からの発注のおかげさ」
「そうなのよ。フィリアのお友達の皆さん、本日はうちに泊まっていって」
「ママ、友達なんて……この方はこの国の第三王子なのよ!」
「まぁ! なんてことなの! 貴方が嫌味な上司なのね……」
「くっ……」
「あ、 あと、元第一王子」
「あはは、元ですよ元!」

 まさかの人物の登場に、両親は、唖然としている。さらに一行の紹介をすると腰を抜かした。それはそうだろう。この国の皇太子候補、元王子、その従兄弟、上級貴族がこんな田舎の村に来たのだから。

 この日は結局、フィリアの家に泊まることになった一行。夜の食事はマシルが腕によりをかけて作ることになった。マシルが仕込みをしている間、フィリアとクルードは犬のジョンの散歩に出かける。ロワンも当たり前のように同行しようとしたが、それはルーディアスによって阻止された。

「ねぇ、クルード殿下」
「二人の時に殿下はつけなくて良い」
「……ねぇ、クルード様」
「なんだ」
「私ね、初めてクルード様に会った時、本当にあなたのことが嫌いだったの」
「そ、そうか。相変わらず手厳しいな」

 そこで会話は途切れ、二人の間を歩くジョンが、二人の顔を見上げる。

「ねえ、クルード様」
「なんだ」
「魔女の嫌疑を掛けられた私をなんで助けてくれたんですか?」
「……星の呪いを解決するためにだな……」
「クルード様、本当のことを言ってください」
「何を言う、本当に……あの時は星の呪いが……」

 再び沈黙は続く。ジョンは川で遊びたいのか、フィリアの顔を見上げている。

「いいよ。ジョン。遊んでおいで」

 嬉しそうに、川に飛び込み走り回っている。その姿を見ながら、土手に腰を掛けるフィリアとクルード。

「犬……お前に似ているな」
「え? どこらへんがですか?」
「無邪気に自分の思いのままに飛び込んでいくところとか」
「あはは。たしかに。似てるかもしれませんね」
「溺れないか、居なくならないか、つい、目で追ってしまう……」
「私のこと、犬だと思ってるんですか?」
「いや、そういう意味ではない」

 いつの間にか、日は落ち、一番星が空に輝き始める。

「さて、そろそろ料理もできている頃だろう。もどろうか」
「……はい。そうしましょうか。ジョン!帰ろ」

 川の水でずぶ濡れになったジョンが二人のものとへ戻って来る。体を震わせ水しぶきを飛ばす。

「わっ! この犬!」
「あはは、冷たいっ」
 
 空は一段と暗くなり、フィリアの家が見える頃には満天の星空となっていた。

「ねぇ、クルード様。王都と違って、この村、星が綺麗でしょ」
「ああ、そうだな」
「私、王都って星が見えないから嫌いだったんです」
「そうか」
「いつも、この村に早く帰りたいって思ってたんです」
「そうか」
「星が見えない王都なのに、なにが星の呪いって思ってたんです」
「そうか」
「でも、いつの間にか、王宮でクルード様と一緒に仕事してるのが楽しくなってたのかもしれないんです」
「そうか」

 もうすぐ、フィリアの家に到着する。ジョンは家に向かって駆けていった。

「私、クルード様のこと、好きです」
「……そうか」

 クルードが立ち止まる。

「フィリア、私は……幼くして母を亡くし、マシルと一緒に奴隷のような生活をしていた」

 言葉に詰まりながら、クルードは、言葉を選びながら話す。

「私は……愛というものがわからないん……だ」

 空を見上げながら話すクルードの目に、星のきらめきが反射する。

「その愛という物を、これから、私に教えてくれないか……」

 フィリアはクルードの手を握りしめ、家へと走っていく。
 二人が家に入ると、皆はテーブルに着席していた。
 
「お、やっと帰ってきましたね! もう食事の準備ができておりますよ」
「ん? クルード、花粉症か? 目が真っ赤だぞ」
「フフン」
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