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第27話 王妃の指輪

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「……終わりました」
 
「ん?」

「だから、無事、手術が終わりました。クルード様、胸の方の処置をするのでどいてください」
「……は? マシル兄さんは……」
「もう大丈夫ですよ。二週間もすれば動けるようになるはずです」
「いや、だってあの傷とあの出血量は……助かるはずないだろ」
「戦場の魔女の実力を侮らないでください」
「は、ははは……あははは……フィリア。ありがとう。本当にありがとう」
「ちょ、柄でもないこと言わないでくださいよ」

 クルードが笑いながら涙を流している。フィリアの目にも涙が溢れていた。感謝されたことも、クルードとマシルの絆のこともあるけれど、自分がいることで救われた命がそこにあることを実感すると、前世からの想いが込み上げてきたのだ。

 国王の一〇〇人近い一行が歓声を上げる。国王の命を救い、謀反の真犯人を捕まえ、その功績者の命をも救ったフィリアを聖女と崇めることとなる。しかし、その前に王宮には、もう一波乱起きそうだ。

  王妃の謀反むほんが起きたことにより、国王の一行は湯治場へは行かず王宮に戻ってきた。それはそうだろう。王妃が真犯人で国王を亡き者にしようとしたのに、のんびり温泉になんて浸かっていられるわけがない。

 王宮は荒れに荒れてた。主に第一王子ルーディアス派の貴族にとって、なぜ、星の呪いの真犯人が王妃だったのか、理解が出来なかったはずだ。しかし事の真相は、王妃の自白で明らかになる。

 ***
 
「ねぇ。なんでクルード様は王妃様が真犯人だとわかったのですか?」
「ああ、フィリア。ロワンを覚えているか?」
「クルード様と同期の貴族ですね。クルード様より身分の高いあの方」
「まったく、お前は一言多いな……そうだ。あいつのことは勿論、大嫌いなのだが、国を想う心や能力に関しては信頼している」
「そうだったのですね。嫌いなのに信頼してるって、クルード様っぽいですね」
「第二王子の主治医でザインという王宮医院の副院長が王妃と通じている情報がロワンからと、匿っていた貴族の証言でわかったんだ。お前が村に戻っているときに星の呪いで亡くなった貴族の首に針の痕を見つけてな。もしかしたらザインも注射器のような物を持っているのかと思ったんだ」
 
「実際、その予想は当たっていた……これを見ろ」
「これは……指輪?」

 クルードがフィリアに見せたものは王妃の左手の指に着けていた指輪だ。指輪の付いている小さい宝石を押し込むと反対側から細い針が複数本出てくるカラクリとなっている。これだけ細い針ならば、痛みを感じにくいはずだ。

「宝石の裏側には毒袋があってな、そこにヘビ毒を入れていたということだ」

 ヘビ毒の入手経路は不明だが、ザインが手配したのだろう。王妃は日頃から第一王子の派閥の貴族の肩に手を置いたり、手を握ったりしていた。本来、王族に触れることは、同じ王族か医官にしか許されていないのにだ。そんな王妃なら貴族たちに毒針を刺すことは容易だろう。

「で、でも、なぜ自分の息子の……第一王子派の貴族を殺す必要があったのですか?」
「そうだな。それには王妃なりの理由があったのだろう」

 執務室の扉が開き、外から吹き込む心地の良い風がフィリアの髪を揺らす。

「マシル様! もう動けるようになったんですね」
「はい。聖女フィリア様のお陰です。本当にありがとうございました」
「具合はどうだ? マシル」
「おや、マシル兄さんとは呼んでくれないのですか?」
「か、からかうな……」
「あはは。感情丸出しでしたもんね。もう一回呼んでみてください。マシル兄さんーって」
「お、お前まで私をからかうのか!」
「死んではダメだ! マシル兄さんーー!」
「やめろぉぉぉぉ!」


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