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第25話 謀反
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湯治場に向けて進む一行、トラブルもなく順調な旅が続いている。それは当たり前だろう。綿密に立てられた計画に、これだけの完璧な警備体制なのだから。
「温泉かぁ。大浴場なのかな、露天風呂もあるのかな」
「フィリアさん、随分と浮かれてますね」
「はい。本当に楽しみで。ねぇマシル様、サウナもあるのかしら?」
「サウナ? それはどういうものですか?」
「んー。暑い部屋があって、水風呂もあって」
「蒸し風呂浴場のことですね。前に湯治場の設計図を確認したのですが、ありましたね」
フィリアの育った村にサウナなんて言うものはない。前世、医大生時代に課題追われながら、たまに行くサウナが唯一の楽しみだったのだ。研修医になってからというもの、サウナに行く時間など勿論なかったので、前世からの時間を計算に入れると、実に、約二〇年振りのサウナに心を踊らせるフィリアであった。
湯船で体を温め、サウナに入る。一〇分程度、サウナの熱を我慢しながら汗を流し、水風呂へ数分間。体に付いた水滴を拭き取り、外気に当たる。この一連の動作が交感神経と副交感神経をスイッチさせる。日々、ストレスフルな生活を送っていたフィリアの前世には唯一のご褒美であったのだ。
「村に戻ったら、ニコラス先生に出資してもらってサウナ施設を作るのもいいな」
「お前の村の、あの医者か。平民なのに、そんなに金を持っているのか?」
「はい。聖女印の特効水で一財産築いたので」
「たしかに、フィリアさんのあの特効水の売れ行きならば、王都の豪商と肩を並べそうですね」
「村にある娯楽施設は、ほとんどニコラス先生がお金を出したんです」
「それは、ご立派な人ですね」
「はい! 尊敬してます」
「ふん、私だって蒸し風呂を作るくらいの金は持っているぞ」
ニコラスを褒めるフィリアに不服そうな顔をするクルードにマシルは大笑いしている。そういった雰囲気の旅に、久しぶりに旅行感覚で心の底から楽しむフィリアであったが、すぐに、その楽しさをひっくり返すで出来事が起きる。
なにかあったのだろうか、国王が乗る馬車が騒がしい。急いで馬車に駆け寄りあたりの様子を見回すとフィリアは驚くことになる。なぜなら、国王が頭を抱えて倒れ込んでいるからだ。
「陛下! 陛下! しっかりなさってください。医官! 医官! 早く参れ」
慌てふためく王妃が倒れ込む国王を支えながら叫んでいる。駆けつけた医官は国王の脈と熱を測る。この暑さだ。心労で伏せっていたこともあり、熱中症の恐れがある。
すぐに対処すれば、大事には至らないはずだ。液体の類は重くて嫌だが、荷物に大量の経口補水液を入れておいて良かった。フィリアはそう思っていた。
フィリアは経口補水液の準備し、国王に飲ませようと近づいた。
「待てフィリア! 解毒薬だ! 血清を打て!」
クルードは経口補水液を飲ませようとするフィリアを制止し、血清を打つように指示を出すと、馬車に飛び乗る。フィリアが指示通り血清を注射器に入れ再び国王に近寄ると、クルードは王妃を羽交い締めにし、左手首をがっしりと掴んでいる。その光景に驚いたフィリアはクルードに向かって叫ぶ。
「ク、クルード様! なにをしてるんですか」
「無礼者、近衛兵、この者を斬れ」
叫ぶ王妃にかぶせてクルードが吠える。
「動くな近衛兵ども、これは謀反だ! 王妃が王殺しを企てたのだ」
「戯言だ! 何をしている、早く私を守るのだ」
王妃の命令で、王妃付きの近衛兵一〇人が一斉に剣を抜き、クルードの背後から襲いかかる。彼らは、精鋭中の精鋭、その動きは突風のような素早さであり、確実に、そして迅速にクルードの全ての急所に狙いを定めた攻撃となる。
近衛兵の刃がクルードに刺さる寸前、人影が素早く割って入る。マシルだ。彼は襲いかかる何本もの剣を捌き、結果、クルードにその刃が届くことはなかった。だが、捌ききれなかった二本の刃がマシルの胸部と腹部に深々と刺さっている。
マシルは国王の近衛兵に、王妃とその近衛兵を捕らえるように叫ぶが、その口からは大量の血が溢れていた。マシルは先程の鬼の形相から、いつもの優しい顔に戻り、クルードに話しかける。
「お怪我はありませんか? クルード様」
「マ、マシル! お前……」
「どうやら、無事のようですね。良かった」
クルードの無事を確認すると、マシルは、力なく、馬車から落下した。マシルの傷口からは大量の出血がある。クルードが足をもつれさせながら駆け寄るが、いつものような堂々とした顔つきではなく、狼狽え、顔面蒼白で震えていた。国王に血清を打ったフィリアは、すぐに、マシルの処置に向う。
「温泉かぁ。大浴場なのかな、露天風呂もあるのかな」
「フィリアさん、随分と浮かれてますね」
「はい。本当に楽しみで。ねぇマシル様、サウナもあるのかしら?」
「サウナ? それはどういうものですか?」
「んー。暑い部屋があって、水風呂もあって」
「蒸し風呂浴場のことですね。前に湯治場の設計図を確認したのですが、ありましたね」
フィリアの育った村にサウナなんて言うものはない。前世、医大生時代に課題追われながら、たまに行くサウナが唯一の楽しみだったのだ。研修医になってからというもの、サウナに行く時間など勿論なかったので、前世からの時間を計算に入れると、実に、約二〇年振りのサウナに心を踊らせるフィリアであった。
湯船で体を温め、サウナに入る。一〇分程度、サウナの熱を我慢しながら汗を流し、水風呂へ数分間。体に付いた水滴を拭き取り、外気に当たる。この一連の動作が交感神経と副交感神経をスイッチさせる。日々、ストレスフルな生活を送っていたフィリアの前世には唯一のご褒美であったのだ。
「村に戻ったら、ニコラス先生に出資してもらってサウナ施設を作るのもいいな」
「お前の村の、あの医者か。平民なのに、そんなに金を持っているのか?」
「はい。聖女印の特効水で一財産築いたので」
「たしかに、フィリアさんのあの特効水の売れ行きならば、王都の豪商と肩を並べそうですね」
「村にある娯楽施設は、ほとんどニコラス先生がお金を出したんです」
「それは、ご立派な人ですね」
「はい! 尊敬してます」
「ふん、私だって蒸し風呂を作るくらいの金は持っているぞ」
ニコラスを褒めるフィリアに不服そうな顔をするクルードにマシルは大笑いしている。そういった雰囲気の旅に、久しぶりに旅行感覚で心の底から楽しむフィリアであったが、すぐに、その楽しさをひっくり返すで出来事が起きる。
なにかあったのだろうか、国王が乗る馬車が騒がしい。急いで馬車に駆け寄りあたりの様子を見回すとフィリアは驚くことになる。なぜなら、国王が頭を抱えて倒れ込んでいるからだ。
「陛下! 陛下! しっかりなさってください。医官! 医官! 早く参れ」
慌てふためく王妃が倒れ込む国王を支えながら叫んでいる。駆けつけた医官は国王の脈と熱を測る。この暑さだ。心労で伏せっていたこともあり、熱中症の恐れがある。
すぐに対処すれば、大事には至らないはずだ。液体の類は重くて嫌だが、荷物に大量の経口補水液を入れておいて良かった。フィリアはそう思っていた。
フィリアは経口補水液の準備し、国王に飲ませようと近づいた。
「待てフィリア! 解毒薬だ! 血清を打て!」
クルードは経口補水液を飲ませようとするフィリアを制止し、血清を打つように指示を出すと、馬車に飛び乗る。フィリアが指示通り血清を注射器に入れ再び国王に近寄ると、クルードは王妃を羽交い締めにし、左手首をがっしりと掴んでいる。その光景に驚いたフィリアはクルードに向かって叫ぶ。
「ク、クルード様! なにをしてるんですか」
「無礼者、近衛兵、この者を斬れ」
叫ぶ王妃にかぶせてクルードが吠える。
「動くな近衛兵ども、これは謀反だ! 王妃が王殺しを企てたのだ」
「戯言だ! 何をしている、早く私を守るのだ」
王妃の命令で、王妃付きの近衛兵一〇人が一斉に剣を抜き、クルードの背後から襲いかかる。彼らは、精鋭中の精鋭、その動きは突風のような素早さであり、確実に、そして迅速にクルードの全ての急所に狙いを定めた攻撃となる。
近衛兵の刃がクルードに刺さる寸前、人影が素早く割って入る。マシルだ。彼は襲いかかる何本もの剣を捌き、結果、クルードにその刃が届くことはなかった。だが、捌ききれなかった二本の刃がマシルの胸部と腹部に深々と刺さっている。
マシルは国王の近衛兵に、王妃とその近衛兵を捕らえるように叫ぶが、その口からは大量の血が溢れていた。マシルは先程の鬼の形相から、いつもの優しい顔に戻り、クルードに話しかける。
「お怪我はありませんか? クルード様」
「マ、マシル! お前……」
「どうやら、無事のようですね。良かった」
クルードの無事を確認すると、マシルは、力なく、馬車から落下した。マシルの傷口からは大量の出血がある。クルードが足をもつれさせながら駆け寄るが、いつものような堂々とした顔つきではなく、狼狽え、顔面蒼白で震えていた。国王に血清を打ったフィリアは、すぐに、マシルの処置に向う。
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