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魔法剣士予選大会編

第四十六話 完全決着

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 フィンの剣にぶつかり折れた二本の刃は、宙を回転しながら地面に落下する。

「なっ」

 ◆◆◆

「マウラよ、そろそろ独り立ちだな」
「はい。お師匠さん」
「最後に四聖獣の素材の武器にする方法を教える」

 まだ髭が生えていない若き日のマウラと、師匠のドワーフが鍛冶場の椅子に座り話している。
 
「四聖獣ってのは、もういなくなってしまったんじゃ?」
「この数百年お姿は見ないが、いつかお前も四聖獣の素材に出会うかも知れないからな」

「お師匠さんは作ったことがあるんですか」
「ああ、白虎様の爪でな。刀身がすべて白虎様の爪で鍛えた本焼きよ」
「俺もいつか作ってみたいものです」
「わしらドワーフは長命じゃ。長く生きていれば出会うかも知れないな」
 
 ◆◆◆

 マウラ、遠い昔の事を思い出すように言う。
 
「やはり耐えられなんだか……」
「鍛冶神様、なんでですかい? 教官の刀だって同じ白虎様の爪なのに」

 マウラの横にいるトマスが不思議そうな顔をしながら質問した。
 
「ライカの刀はな、刃の部分だけが白虎様の爪なんじゃ。それに対して、相手のガキの剣は刀身すべてが白虎様の爪でな……」
「単純に強度の違いってことですかい?」

「ああ。ライカがもっと早く決着をつけてればよかったんじゃがの」

 ◇◆◇

「あは……あははは。運だけは僕のほうが強かったみたいだね、兄上」
「『絶対零度』――氷槍」

 僕に向かってくる氷の槍を折れた二本の刀に魔力を付与して、なんとか防ぐが、勢いに押され折れたを手放してしまう。

「あはは。形勢逆転だね」

 僕はニャーメイドさんのような動きを真似しながら、なんとか避け続けるが体力の消耗が激しく、これが長く続かないことを悟った。

 が、不思議とこの状況に危機感を感じない。
 
「逃げるのに必死だね。さっきまでの偉そうな態度はどうしたんだい? 兄上」

 フィンが剣に大量の魔力を込めはじめた。

「兄上、これでお別れだ。明日からまた兄上の席のテーブルの上の花に話しかけてあげるよ。あはは」

 ――うん。たぶんこれでいける。
 
「死ね! 『絶対零度』――千本槍」

 フィンの攻撃に合わせて、僕は魔力を集中しはじめる。
 
「『ダウジング』――除外、氷の槍!」

 無数の槍は軌道を変え、闘技場の壁へと突き刺さった。

「フィン、千本槍って言いすぎだよ。三百本程度しか無いじゃないか。そういう虚勢を張るところだぞ。お前の悪いところは」

「なん……で、何だよそれ」

 僕の両手にはダウジングロッドがトンファのように握られている。

「これが僕の本来の得物えものさ。こういう使い方じゃないけどね」

「あーくそっ! しつこい! うざいんだよ……腕ごと叩き斬ってやる」

 怒りに任せて斬り込んでくるフィンの攻撃を、美技のダウジングロッドで防ぎ、もう片方を回転させて脇腹を強打する。

「ぐはぁ」

 右脇腹を押さえ膝をつくフィンの顔面をダウジングロッドで殴打すると、数メートルほど吹き飛んだ。

 歯が折れ、頬を腫らし剣を杖に立ち上がるフィン。

「兄上……参りま」

「ダメだ! 逃さない『ダウジング』――急所」

 僕はダウンジングロッドを投げつけると、 勢いよくフィンに飛んでいき、みぞおちと喉に突き刺さる。

「あ……あがっ……」

 フィンは白目を向き、大量の失禁とともに気を失い倒れた。

 ◇◇◇

 フィンが意識を失うと、審判員の口を覆っていた透明の氷が砕け落ちる。

「勝者! キョーカン・オーレス」

 高らかな勝利宣言とともに会場が沸き立った。

 残りの四試合の相手となるホワイトス領の剣士たちは、フィンの敗北を見ると戦意を喪失し、全員が棄権することとなる。

「予選大会優勝、及び本戦大会進出はオーレス子爵領」

 会場中に紙吹雪が舞い、オーレス領の仲間たちが駆け寄る。
 皆にもみくちゃにされたあとの胴上げは、数分間にも渡たり、地面に降りた頃には目が回っていたのを覚えている。
 
 ◇◇◇

 それから、王都の治癒士による治療が終わると、閉会式が行われ、休憩する間もなく王宮にて国王への謁見が催された。
 各地の領主と出場選手が一同に整列し、表彰と国王からの言葉を賜る恒例行事だ。

「余が国王カイリーン12世である。皆のもの此度の予選大会、ご苦労であった」

 領主たちと剣士たち全員が、膝をつき頭を垂れている。

「長年、決勝に進んでたホワイトス公爵領が遂に敗れたな。勝利したオーレス子爵領の者たち。素晴らし戦いであったぞ」
「ありがたきお言葉、恐悦至極に存じます」

 オーレス子爵が一歩前へでて、感謝の言葉を口にする。
 
「オーレス子爵領のスタンピードを討伐した四つ星の者が、まさか敗れるとはな」
「国王陛下、お言葉ながら申し上げます」

 オーレス子爵領は、頭を下げたまま国王への発言の許しを乞う。
 
「申してみよ」
「我が領を救ってくれたのは、ホワイトス公爵家のフィン殿ではなく、こちらにいる兄のライカ殿なのです」

 いきり立つ、父上がオーレス子爵の言葉を遮り叫んだ。
 
「オーレス子爵! 何を言う! 貴殿の領地を救ったのは我が息子フィンであるぞ」
「発言を許してないぞ、ホワイトス公爵。余はオーレス子爵と話しておるのだ」
「ぐっ……」

 国王は父上を一喝すると、穏やかな表情で話の続きを求める。
 
「して、オーレス子爵領を救ったのは本当に、そのライカという者なのだな?」
「はっ。証人がたくさんおりますゆえ」

 それぞれの領主たちがどよめき出す。

「おい、あれだけ息子自慢をしておいて嘘だったのか?」
「自分が追い出した方の息子の手柄を横取りか。ホワイトス公爵らしいな」
 
 父上が他の領主たちを睨むと、どよめきは収まったが国王の一言で恥をかくことになる。
 厳しい表情に変わった国王が、父上を睨みつけながら図太いこえで訪ねた。
 
「ホワイトス公爵、そなたは王宮に虚偽の報告をしたということになるな」
「い、いえ……おいフィン! どういうことだ! お前が救ったのではないのか?」

 黙って目を伏せるフィン。

「い、いえ……そ、そうです。ライカも我がホワイトス家の長男です。虚偽の報告では決してありません」

「勘当したと聞いておるが。書類も届いているはずだが」
「いえ、これはなにかの間違いで……」

 怒りの頂点に達した国王は、父上を怒鳴りつけた。
 
「ええい、黙れ。調査と処分は後日しっかりと通達する。ホワイトス領の者たちはすぐさま出ていけ」

 強制退場を余儀なくされた父上は顔を真赤にし、僕を睨みつけながら謁見の間を後にした。

 その後、僕らは国王から激励の言葉を賜り、滞在している宿屋へと戻ると、待っていた仲間たちに出迎えられる。
 
 ◇◇◇

「さぁ、今日は盛大な祝勝会じゃな」

 マウラさんが鼻息を荒くして、祝杯を楽しみにしている。

「よし! みんな! 思いっきり楽しもう!」
「「おーーーーー!」」


 バンッ!

 激しくドアが開き、いつも冷静なニャーメイドさんが、珍しく焦って部屋へと入ってくる。

「ライカ様……大変デス。ルシアさんの姿が見当たりません!」
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