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魔法剣士予選大会編

第四十三話 フィン・ホワイトスの実力

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 ――なっ! フィンが先鋒?

 誰もが、大将は四つ星のフィンだと思っていたはずだろう。
 余裕の表情を浮かべながら、黒い剣士の衣に身を包んだフィンが登場する。

 オーレスの街のスタンピードの時と比べて、彼の表情から、幼さが消えたような雰囲気を感じた。

 父上やフィンの性格からすると、この数ヶ月の間に何もしてなかったわけがない。

 きっと、なにか対策を練ったてきたに違いないだろう。
 トマスさんが明らかに空気に飲まれて固くなっているのが心配だ。

 開始の合図とともに、何かが一瞬、光った気がする。
 次の瞬間、トマスさんは上体を反らし倒れかけたが、なんとか持ちこたえた。

「……」

 トマスさんは無言でフィンを睨みつけている。
 一方のフィンは、見下すような視線で不敵な笑みを浮かべていた。

「『絶対零度』――撒菱まきびし

 フィンが下段を剣で水平に薙ぎ払うと、トマスさんの周りの地面から氷のとげが生える。
 身動きが取れないトマスさんに向かって、間髪を入れずに氷の刃で追撃する。

 魔力を込めた双剣で防ぐが、トマスさんは勢いに押され撒菱まきびしを踏んでしまうと、彼の足から血が滲《にじ》み出た。

「……」

 トマスさんは声を出さずに、苦悶の表情を浮かべている。

 その後もフィンの一方的な攻撃は続くが、トマスさんは、それをなんとか耐え凌いでいた。

 いつの間にか彼の足元には足の血が湖のように広がっている。
 フィンは、氷の撒菱まきびしを踏ませようと、いたぶるような攻撃を続けていたのだ。

 トマスさんが耐えられず、膝を付くと地面から生える氷の棘が膝を貫く。これで勝負がついてしまった。ここから形勢を逆転するのは困難だ。

「もういい! トマスさん! 降参して」
「……」

 トマスさんは一瞬、僕の方を見たが降参を宣言しない。

「トマスさん! これ以上やっても意味がない。後は僕にまかせるんだ」
「……」

 フィンが身動きが取れなくなったトマスさんに近寄り、剣を振り上げる。

「あーあ、早く降参すればいいのに。きっと無口な人なんだね」

 トマスさんは、二本の剣を水平に構え攻撃を防ごうとするが、フィンの斬撃は二本の剣を折り、そのままトマスさんに袈裟斬けさぎりを食らわせた。

 ――な! マウラさんの作った剣が折れた。

「勝者! フィン・ホワイトス」
「僕ね、双剣の奴を見るとムカつくんだよ」

 フィンは、担架で運ばれるトマスさんを見下ろし残忍な目つきで言う。

「なんで降参しないんだ!」

 駆け寄る僕は、トマスさんの状態を見て驚愕する。
 トマスさんの口は全体が、透明度の高い氷で覆われていたのだ。

 ――これじゃ、降参を宣言できないじゃないか……。

「なんて卑怯で残酷なことをするんだ……フィン」

 僕の中に、怒りが沸き上がる。

「ケカスさん、棄権して僕にまかせてくれないか」
「教官……嫌です。あんな卑劣な輩、私は許せません」

 怒りをあらわにしているのは、僕だけではなかった。

 ケカスが闘技場の中央へと向かう。
 審判員の前でケカスさんとすれ違う時に、彼の鞘とフィンの鞘とがぶつかる。

「貴様!」

「おっと、これは失礼な事をした。詫びよう騎士殿」

 騎士の家の者は剣の鞘同士がぶつかる事を極端に嫌う。
 それを知っていたかのように挑発するフィン。

 怒りに我を失うケカスさんは、開始の合図と同時に居合い斬りの態勢に入る――しかし。

「ぐっ、剣が抜けぬ」

 鞘が凍りついて抜刀ができなくなっている。
 試合前の鞘をぶつけたとき、既にスキルを発動させてたのだろう。
 
 その隙を突いて、『絶対零度』の魔力を纏った剣で、静止するケカスさんの剣と鞘ごとで足に斬撃を振り下ろす。

 その刃は、ケカスさんの太ももの骨まで達する。

「あはは、騎士が剣を抜かずに斬られるって、屈辱じゃない?」

 足の太い動脈が断裂したケカスさんは間もなく意識を失った。

「勝者! フィン・ホワイトス」
「さて、次は『土』の筋肉男だったかな? 早くおいでよ」

 フィンの挑発に怒り荒れるオッツマーミさんが叫ぶ。

「もう許せん! クソガキが! 捻り潰してやるわ」

「おお。間近で見ると大きいんだね」

 ◇◇◇

 オッツマーミさんとフィンの試合は長引いていた。
 『絶対零度』の魔力を宿したフィンの斬撃を、オッツマーミさんの岩を纏った剣が受ける。

「あれ? 折れないな。ねぇ、あんたたちの剣、なんか異常に硬くない?」
「だまって潰れてろ『土』――岩石落とし」

 フィンの頭上から大きな岩が落下するが、それを難なく真っ二つにする。

「うん、岩は切れるな。やっぱり剣が硬いのか。さっきも剣越しだと体も足も切断できなかったもんなぁ」

 フィンの興味はオーレスの剣士たちの持つ剣に向いているようだ。

「それ、普通の剣じゃないでしょ。ホワイトスの剣士たちにも、その剣を装備させたいな」


「お前らなんかに鍛冶神様が、お作りになるわけねぇだろ!」

 オッツマーミさんの水平斬りをフィンが身をかがめて避けると同時に体を反転させ、足先に蹴りを食らわす。

「ぐあぁっ」

 オッツマーミの足先は、フィンの革靴に仕込まれた刃によって切断されていた。

「『絶対零度』――口無し」

 フィンは、先程トマスに使ったであろうスキルを発動した。
 
「~~~~! ~~~!」

 オッツマーミさんが、声を奪われ悶え始めるのを確認すると、フィンは意地の悪い笑みを浮かべる。

「さぁて。いたぶらせてもらおうかな」
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