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魔法剣士予選大会編

第四十話 死闘の行方

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 森で初めて白虎と会った時、オーレスの町のスタンピードの時。
 僕が、白虎の戦いを見たのはこの二回だ。

 あのとき、腕を一振りすると、白虎の爪は、固く図太い魔獣を豆腐のように切り裂いた。
 伝説の四聖獣である白虎の爪を、僕は人間に向けようとしている。

 『治癒』スキルを持った王都の治癒士たちでも治せないかも知れないほど暴力を、僕は今から人間相手に振るう。
 
 オーガ・コーエンの周りに等間隔に並んで浮かぶ無数のナイフは、まるで尾羽を広げた孔雀を彷彿ほうふつとさせた。

 攻撃態勢に入るオーガ・コーエンは僕を中心に時計回りに走りながら、ナイフを発射する。

 僕がすることは、そのナイフ全てを『ダウジング』でターゲティングして、破壊すること。
 そして、作戦通り二〇本のナイフを破壊した。

「おいおい、なんだぁ? その異常な切れ味は! すげーなぁ」

 そう叫びながら、次々とナイフ連射してくる。

 防戦一方だが、構わない。オーガ・コーエンの周りに浮いている全てのナイフを、破壊するまでの我慢だ。
 オーガ・コーエンは笑い声を上げる。

「すげぇな! 合格だ! 合格だよ! おまえ。カーハッハ」

 間髪入れず、ナイフの群れは僕に襲いかかる。

 そのうちの一本にターゲティングが間に合わなかったが、僕はギリギリのところで直撃を避け、ナイフは僕の頬をかするだけだった。

 動きを止めたオーガ・コーエンが、一瞬だけ考え込む。
 
「ん? あ? そうか」

 オーガ・コーエンがニタリと笑う。

「なぁ、おまえのスキルのターゲット、三〇本が限界だろ」

 ――バレた。今の僕の『ダウジング』でターゲティングできる数は三〇個が上限だ。

「くっ」

「図星だな。カーハッハッハ。俺の残りのナイフは三四本だ。俺の勝ちだなぁ。おい」

 ――絶体絶命だ。どうする。


「優勢だと嬉しくなっちゃうね。俺は絶対外さねぇぞぉ」

 オーガ・コーエンは両手を広げ、ナイフを一列に並べる。

 「もっと楽しみたかったけど、終わらせよう」

 ナイフが発射準備に入る。
 なにか、手を考えなければ……いま僕にできること。被害を最小限にする方法を。
 
「ジ・エンドだ」

 広げた両手を僕の方に振ると、三四本すべてが一斉に僕をめがけて飛ぶ。

 ――最初の二本はスキルを使わずに自力で破壊する!

 最初に飛んでくる二本のナイフをめがけて、剣を振り下ろすと同時に剣に魔力を付与する。
 
 ――良し! ここで『ダウジング』を発動!

 三十二本のナイフを破壊した。ダウジングの効果を失った刀の間を二本のナイフがすり抜ける。
 僕はこのナイフを避け――られなかった。

 燃えるような熱さに遅れて、激痛が襲ってくる。
 ナイフは、僕の両足の太ももに深々と突き刺さっていた。

 だが、これでいい。
 オーガ・コーエンにナイフを回収される前に、太ももから引き抜き、白虎の刀で叩き割る。

 両足を犠牲にしたが、これで相手は丸腰だ。こちらから攻撃はできなくても、迎撃は可能な状況になった。

「あーあ、武器が無くなっちまった。あの数を作るのに金がいくらかかると思ってやがるんだよ」

「どうする? 僕はまだ武器を持っているぞ」
「へぇ、その足で戦えるのかい?」
「あんたを斬るくらいはできるさ」

 ――ハッタリだ。本当は痛みで踏み込むことができない。

「そうかぁ。打つ手なしかぁ……悔しいなぁ」

 オーガ・コーエンが頭を掻きむしって、悔しがる。

「なんてね」

 瞬間――僕の脇腹に激痛が走った。
 見てみると、破壊したナイフの柄が僕の脇腹にめり込んでいる。

「あのね、破壊したって無駄なんだよ。ナイフが鉄のつぶてになっただけさ」
「くっ」

「きれいに真っ二つにしてくれちゃったから、全部で単純計算、四〇〇個の鉄つぶてが、おまえの周りにあるんだよ」
「ぐっ!」

「ピーンチだね! なにか策はあるかい?」
っ!」

「降参しちゃう?」
「ぐあっ」

 オーガ・コーエンは手負いの獲物をいたぶる獣のように、一言につき一つの鉄つぶてを僕に飛ばす。
 
「おまえのスキル、ターゲットにできるのが三〇個だったよな」
「ぐあぁ」

「俺のターゲットにできる数ね、一〇〇〇個なんだ」
「な!」

「絶望しただろ? というか、なんでお前さっきから地面に落ちてる鉄つぶてで俺を攻撃しないの?」

 ――できるわけないじゃないか。手が届かなきゃ魔力を付与できない……。

「ふーん。じゃ、俺と同じ『磁力』じゃないのか。じゃぁ、なんのスキルなんだろうなぁ」

 痛みで途切れそうになる意識の中で考える。

 オーガ・コーエンは多分『磁力』スキルの斥力せきりょくを使ってナイフを飛ばし、引力を使ってナイフを回収しているんだろう。

 たしかに僕の『ダウジング』に似ている。ダウジングは引力……ということは、斥力は……ああ、『除外』みたいなもんか。

 ――そうか……。

 「じゃぁ、終わりだね。残りの鉄つぶてを全部めり込ませたら、治癒できないかもだけどさ」

 地面に散らばる鋼鉄のつぶてのすべてが宙に浮き、オーガ・コーエンの手の動きに合わせて、僕に迫りくる。

「ほら! ひき肉になれぇ!」
「『ダウジング』――除外、鉄つぶて!」

 特定の物を除外しての『ダウジング』を戦闘に使用するという発想は、この直後に誰もが予想しない結果を生むことになる。
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