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魔法剣士予選大会編

第三十六話 スキルの相性

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 予選二日目。僕は料理長さんに渡されていた仮面を着けている。
 ホワイトス家にはまだ正体を知られないほうがいいという料理長さん助言によるものだ。

 大会運営に提出する剣士名簿も偽名で登録した。
 ホワイトス家の妨害工作を受けないためだ。

 料理長さんは、ホワイトス家が過去にも汚い手で勝ち進んで成り上がってきたことを知っていたのだろう。

 第一試合、ミタカーシ領とタチカワス領の熾烈しれつな戦いは大将戦へと、もつれ込んだ。
 ジブリー対ファーレの三つ星レアスキル『雷』対決。

 暗雲が立ち込める闘技場に、ほとばしる稲妻が激突する。
 タチカワス領のファーレが持つ槍に雷を纏わせ、突きを繰り出す。

 ジブリーは、大剣を盾のようにし、それを防ぐが嵐のように襲いかかる槍の連突に、大剣がついに砕けた。

 ファーレは、それ以上の攻撃をやめ、沈黙し槍を構える。

「負けたよ。ファーレ。今回はおまえの勝ちだ」

 数十分に及ぶ長い試合に終止符が打たれ、闘技場は歓声が上がる。

「三つ星のレアスキル同士の戦いはやっぱり派手ですな」
「ああ、俺もレアスキルを授かりたかったぜ」

 僕らの部隊の中堅オッツマーミさんと副将アテイラズさんが盛り上がっている。

 先程の戦いで、穴だらけになった闘技場の地面を整備する大会運営の職員たちの手際は良くあっという間に元通りとなった。

 僕たちオーレス領たい新オクボ領の戦いが始まろうとしている。

「さて、今回もオイラが五人抜きしてやらぁ」
 
 トマスさんが、双剣を振り回し自分を鼓舞する。

 圧倒的な剣技で新オクボ領の剣士たちを叩き伏せていくトマスさんは観客の声援を背に受け、あっという間に四人を撃破した。

 そして、トマスさん対新オクボ領の大将テス・オクボの戦いが始まる。

「『霧』濃霧」

 濃い霧が、トマスさんと大将テスを包む。霧はどんどんと濃度を増し、僕らや観客からは二人の姿が完全に見えなくなった。

「どうなったんだ!」
「見えないぞ!」

 しばらくすると、霧が晴れていく。そこには気を失ったトマスさんが倒れていた。

「勝者、テス・オクボ」

 審判の声が闘技場に響き渡る。今まで次々と相手を撃破してきたトマスが一瞬で敗れたことに驚く観客は声を失う。

「すいやせん、手も足もでなかったでさぁ」

 係員に担がれて戻って来るトマスさんが、謝罪する。

「相性が悪かったのさ、トマスさん気にしないで休んでて」

 魔法剣士同士の戦いの勝敗には相性に左右される。
 トマスが『霧』を蒸発させるほどの、三つ星ならば、戦えたのだろうが、一つ星の『火』では成すすべがなかった。

「オーレス領の次鋒、ケカス。前へ」
「さて、ついに私、サー・ケカスの出番だな」
「頑張ってケカスさん。霧に気をつけてね」

「ふふふ。教官殿、お任せください。勝利を獲って参りましょうぞ」

 開始の合図と同時に『霧』を発動する敵の大将テス。
 魔法剣士同士の戦いの勝敗には相性に左右される。

 今回はこちらに分があるはずだ。だって、ケカスさんのスキルは『風』なのだから。
 ケカスさんは、風のスキルを剣にまとわせると、回転する。カケスさんを中心として円状に広がる風が霧を消し飛ばした。

「さぁ、テス・オクボ殿。ご覚悟を」
「くっ。風か……」

 テスは霧を連続して出現させながら、距離を取る。
 風を纏ったケカスさんの剣が次々と霧を消し去りながら距離を詰める。
 苦し紛れにテス・オクボは最大出力で霧を出す。

「『霧』毒の霧! この量の霧をおまえの風で吹き飛ばしてみろ! 観客にまで被害が出るぞ」

 カケスは、距離を取り、剣に纏わせた風を解除した。

「ははは。形勢逆転だな」

 ケカスの表情が変わる。こんなに冷静で、冷徹な視線は初めて見る。
 ケカスは剣を鞘に収めると、鞘と剣両方に魔力を込める。

 次の瞬間、ケカスが水平に放った居合い切りは広範囲に鋭い風の刃を発生させる。
 その刃は、霧ごとテス・オクボを切り裂いた。

 一瞬の出来事だった。毒が霧散した後には斬撃に倒れるテス・オクボが転がっていた。

「勝者! ケカス」
「ふん。領主のくせに、騎士道のかけらもない輩め。恥を知れ」

 それは、いつも格好つけているだけのケカスさんが、本当にかっこよく見えた瞬間だった。

 次の試合は、タチカワス領との戦いだ。
 王宮の治癒士たちが、両部隊の治療をする間、しばしの休憩を挟む。


 ◇◇◇
 
 僕たちは、客席から控室に来た小白虎たちや、部隊のみんなと、料理長さんの用意したお弁当を食べた。

「トマスの小僧が頑張っておるせいでライカは高みの見物じゃな」
「高みの見物ってわけじゃないけど、トマスさんもケカスさんも、本当にすごかったよ」

「ウニャ。客席からみてると、ライカはお面被ってる子供みたいニャったぞ」
「うるさいな、しょうがないだろ。正体を隠してるんだから」
「ニャハハハ、しかも猫のお面って……」

 爆笑している小白虎に、料理長さんが申し訳無さそうに言う。
 
「これ、猫さんをモチーフに作ったんですが……」
「ニャんだと! 料理長……ニャレはこんな不細工じゃないニャ」

 和やかな雰囲気のなか、ニャーメイドさんが口を開く。
 
「アノ、ライカ様」
「ん? なんだい? ニャーメイドさん」
「次の対戦相手の雷に気をつけてくだサイ。ライカ様との相性は最悪デスので」

 ちょうど、さっき同じことを考えていた。
 
「うん。僕もそれが心配なんだ。ニャーメイドさんくら速く動ければ避けられるんだけどな」
「無理デスね。ライカ様は鈍亀どんがめのように遅いデスから」
「口撃……鋭いって」

 しかし、心配は的中する。ニャーメイドさんの言った通り、僕たちはタチカワス領との試合に大苦戦することになるんだ。

『強さは星の数だけではない』そう豪語ごうごしていた僕だけど、それ以上に『スキルの相性』が勝敗を分けることを、僕は次の試合で思い知ることになる。
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