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魔法剣士予選大会編

第三十四話 開幕

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 王都の闘技場。円形に設計されたこの闘技場は階段状の客席で、収容人数は一万人を超える。 
 オーレスの街の住人、五個分の人が入るほどの大きさだ。

「ここに王都魔法剣士大会、西の地予選大会を開催する」

 この大会の開催責任者である、元帥が、高らかに開催宣言をする。
 
 ホワイトス領
 オーレス領
 ハチオージ領
 タチカワス領
 アーサガヤ領
 オクボ領
 新オクボ領
 ミタカーシ領
 オーギクボ領


 闘技場には、西の地、九つの領地領主と、各五名の魔法剣士部隊が整列してた。
 予選大会はトーナメント制で、三日間に渡って開催される。
 一日目の今日は、領主が引き、くじ引きで決まった四部隊の対戦が開会式の後に始まる。
 
 前回大会、本戦に出場したホワイトス家は、このトーナメントを勝ち上がった部隊と決勝をするという習わしらしい。

 僕たちオーレス領の部隊は第四試合、今日のトリだ。
 第一試合が行われた。ハチオージ領対タチカワス領は、先鋒が全ての相手を撃破し、タチカワス領の圧勝。

 開幕戦にふさわしい、圧勝に会場が湧き上がった。

 
 第二試合、オクボ領と新オクボ領。

 ここの領地は、親子の内部紛争によって領地が二つに別れた、言わば骨肉の争いである。
 オクボ男爵の長男が子爵の爵位を授かったときから、領地の分断が始まった。
 ホワイトス公爵の仲介により、内戦にはならなかったものの、領地を分割することで決別してしまったのだ。
 
 いきり立つ、二つの領の領主たちは、選手たちよりも白熱している。
 拮抗した両部隊は遂に、大将戦に突入する。

 目を見張るのは、新オクボ領の大将、テス・オクボのレアスキル『霧』だ。
 先の試合で、オクボ領の副将を圧倒したスキルを発動する。

「『霧』催涙」

 剣から噴霧される霧は闘技場全体を包む。
 霧の粒子を吸い込むと、目に染みる涙が止まらい、咳き込んで息もできない。

「目がぁ、目がぁ、あぁぁぁぁ」

 結局、剣を交えることなく勝敗が決まった。
 オクボの領主は息子に負けたことに憤慨し、闘技場を後にする。
 
 選手が控える闘技場の袖から見学していた僕らも、このスキルには危機を感じた。

「『霧』か……あのスキル、やばいね」
「ウニャ、マタタビの匂いの霧を出されたら、白虎に戻ったニャレでも危ニャいかも知れニャいニャ」
「ワタシも焼きアカマツタケの匂いの霧を出されたら、負けてしまうかもしれまセン」

「食い意地ーーーーっ!」

 第三試合は見ものだった。ミタカーシ領とオーギクボ領の戦いは、色眼鏡を掛けたニヒルな風貌の、ミタカーシの大将、ジブリー・モリ・ミターカシの活躍に歓声が沸いた。

 ジブリーのちからの前に、逃げ惑う相手選手に容赦なく攻撃を繰り出す。
 
「見せてあげよう!ミタカーシの雷を『雷』天の矢!」

 闘技場に暗雲が立ち込め、ジブリーの剣先からレアスキルの雷撃が放たれる。

「 旧約聖書にあるソドムとゴモラを滅ぼした天の火だよ。ラーマヤーナではインドラの矢とも伝えているがね」

 逃げ惑うオーギクボ領の大将

「はっはっは、どこへ行こうと言うのかね」

 追い詰められたオーギクボ領の大将にジブリーが言い放つ。

「跪け、命乞いをしろ!三分間待ってやる」

 壁際に追い詰められたオーギクボ領の大将は、遂に観念した。

「ま、参った」
 
 遂に、僕たちオーレス領とアーサガヤ領との試合の順番が回ってきた。

 先鋒、トマスさん。
 次鋒、ケカスさん。
 中堅、オッツマーミさん。
 副将、アテイラズさん。
 大将、僕、ライカだ。

「なんで、オイラが先鋒なんですかい?」

「一つ星だからさ」

 騎士の家系の魔法剣士、サー・ケカスがバカにしたような口調で言う。

「ケッ、一つ星をバカにしやがって、よーし! 俺が相手の大将まで五人抜きしてやらぁ」
 
 トマスさんのその言葉は、有言実行であった。
 魔力を双剣に纏わせたトマスさんは、スキルを一度も発動せずに、相手の副将まで、次々と撃破してみせたのだ。

「先鋒トマス対、大将ゲーニン・アサガーヤ! 開始!」

 五人目の相手との試合が始まる。
 開始の合図と同時に、敵の大将がスキルを発動した。

「『土』砂の鎧」

 相手の身体に地面から吸い上げられた砂が纏わりつく。
 ギシギシと音をたて、高密度の鎧となった。

「この鎧は、剣や槍などでは傷一つ付けられない鉄壁よ」
「へっ! ご丁寧にご説明ありがとよ!」

 トマスは、地面が抉られるほどの踏み込みを発端に、疾風の如き速さで、相手に連撃を喰らわす。
 目で追えるだけでも一〇連撃は浴びせただろう。

 しかし、砂の鎧を纏った相手は、一歩も下がらず「ニィ」っと口角を上げた。

 「トマスといったか、魔力維持の双剣。その技術は素晴らしい。だが、相性が悪かったな」

 相手の大将ゲーニンは勝利を確信したように、余裕をみせる。

「おい、アンタ。この大会の誓約書にはサインしましたかい?」
「ああ、それがどうした?」
「そいつぁ、良かった。どんな致命傷を負っても王都の治癒魔法部隊が即座に治してくるらしいじゃねぇか」
「ああ、なんだ。怪我の心配か」

 ゲーニンは呆れた表情で返事をする。
 
「その通り。お前ぇさんのな」

 トマスさんは双剣を交差させて構え、魔力を収縮させていく。
 この後の顛末てんまつが、一つ星の双剣トマスの逸話となるのであった。
 
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