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魔法剣士予選大会編

第三十話 ルシアの生い立ち

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 公爵令嬢のルシアが上品さを失うくらいに、料理に夢中になっているのは、空腹なのと、料理長さんの腕前によるものだろう。

 食事の後、ルシアは静かに語り始める。

「去年、神託の儀の時に、ライカ様に助けられて、私は五つ星の『癒やし』スキルを授かりました」
「うん。みんな大歓声だったね」
「はい。私は、タートリア公爵領に戻ってからが大変だったのです……」

 五つ星のレアスキル『癒やし』を授かったルシアは、タートリア公爵領でもてはやされた。
 始めのうちは、重症を負った剣士たちの治癒を行っていた。

 先々代の国王依頼の五つ星スキル。更には『癒やし』というレアスキルは、単なる水を回復薬にすることが判明すると、タートリア公爵は豹変したのだ。

 ルシアを暗い部屋に閉じ込め、毎日毎日、ひたすらに『奇跡の秘薬』の精製をさせられることになったらしい。

 この『奇跡の秘薬』は北の地全土に高額で取引され、タートリア公爵家は莫大な富を築いた。
 優しかった両親も、金に目がくらんでしまったのか、ルシアを道具としてしか見なくなってしまったんだとか。

「うう。なんとひどい仕打ちでしょう……ライカ坊っちゃんの境遇と被ってしまって、私、涙がとまりません」

 料理長さんは、腰に巻いたサロンエプロンで涙を拭っている。

「そんな時、タートリア公爵領で幅を利かせている山賊団が、私の誘拐を企てたのです」

 その山賊は、僕らが森で出会った三人組だろう。
 緻密な計画により、その山賊団は、見事にタートリア公爵領に侵入し、ルシアの誘拐に成功した。

 屋敷から連れ出すことに成功したが、太った山賊がその時に、重症を負ったらしい。
 ルシアは『癒やし』のスキルを、その山賊に使い、一命を取り留めた。

 命を救ったルシアに気を許した、その山賊の隙を見て、逃げ出すまでは良かったのだが、途中、気を失って今に至る。

「そ、壮絶だね……」
「ライカの生い立ちも可愛そうだニャと思ってたけど、こいつも相当だニャ……ドン引きしたニャ」

 一同が、暗い表情になった。
 手足が包帯だらけの僕を見て、ルシアが心配そうに言う。
 
「ライカ様、もしかして私を助けるために、その怪我を?」
「ああ、ルシアの倒れてたところのやぶがさ、トゲがすごくて……」
「ちょっと、お見せください」

 ルシアは僕の傷口に手を当てる。

「『癒やし』傷口の治癒」

 優しい緑色の光が僕の傷に吸い込まれていく。
 ズキズキとした痛みは、和らいでいき、消えていく。

「あれ、傷が跡形もなく消えた……これがルシアのスキルか」

 包帯を外すと、傷跡すら残っていない。
 以前、『奇跡の秘薬』使った時以上の効果だ。

「すごい! ルシア、すごいよ! ありがとう」
「ルシア様は、これからどうするのですか?」
「料理長さん、聞くまでもないでしょ。行くところないんだから」

「……」

 ルシアは気まずそうな表情でうつむいている。
 
「ねぇ! ルシア! ここで一緒に暮らそうよ」
「え? 良いのですか」
「勿論さ! いっしょにのんびりスローライフしよう」

 ルシアの表情は明るくなる。
 
「よろしいのですか?」
「ウニャ! ニャレが許可してやるニャ」

 こうして、半ば強引にルシアが僕らの屋敷で暮らすことになった。
 元々、控えめな性格だろうから、これくらい強引な方がいいのかな、と思っていた。

 それが間違ってはいなかったことは、すぐに皆が理解することになる。

 ◇◇◇
 
「折角のティータイムなので、焼き菓子を作りました」
「へぇ、ルシアはお菓子作りも出来るんだ」
「いい香りですね。私もご一緒させていただきましょう」

 ルシアの作った焼き菓子を食べると、一同、驚愕の美味しさに悶絶する。
 一番驚いていたのは、料理長さんだ

「ルシアさん……このカヌレは絶品です! 素晴らしい出来栄えだ」
「まぁ、さすが料理長さん。北の地のカヌレをご存知なんですね。美味しい卵と、ミルクがあったので、作ってみました」

 あまり、甘いものを食べないマウラさんが、口いっぱいにカヌレを頬張りながら言う。
 
「おい、嬢ちゃん。これ、わしの火酒つかったじゃろう」
「ええ、サトウキビの火酒があったもので。勝手に使ってごめんなさい」
「いくらでも使ってええ! こんな美味い焼き菓子は初めてじゃ!」

 更には、紅茶の知識や淹れ方も料理長さん以上だ。
 それ以降、皆の大好きな、ティータイムの質が格段と上がって、僕のスローライフはより一層、充実した物になったのは、ルシアのおかげだ。
 
 ◇◇◇
 
 オーレスの街から帰った僕らは、しばらく、のんびりとした生活を満喫していたのだが、そろそろ、オーレス子爵領の魔法剣士部隊の訓練に参加しなければならない。

「ねぇ、ルシア」
「なんでしょう? ライカ様」
「あ、その『ライカ様』ってのやめない? 同い年だし」

「じゃ、じゃぁ……なに? ライカ」

「僕ね、今度、魔法剣士大会の予選に出るんだけど、一緒に訓練についてきてほしいんだ」
「はい……あ、うん。いいよ。私がいれば、訓練で怪我しても大丈夫だし」
「そうなんだ。それをお願いしたくて」
「うん! まかせて」

 ルシアの『癒やし』のスキルが有れば、ちょっとやそっとの激しい訓練も可能になる。
 これは、また一歩、魔法剣士大会の予選突破の現実味が帯びてきたぞ。
 翌日、僕らはオーレス子爵領に向けて出発した。

 ルシアの存在が、僕にとって、思わぬ災難になることを、この時の僕は予想すらしていなかった。
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