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第二十七話 ドワーフの剣と出場への決意

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「急に剣を作ってほしいなんて、どうしたんだ?」

 マウラさんは、僕の依頼に驚いている。

「今日ね、僕の剣がマウラさんが作った剣に折られたのさ」
「ああ、あの小僧に作ってやったアレか。そりゃそうじゃろ。ライカの使ってるのはナマクラじゃもん」
「え? あれ、一応、名工が作ったやつなんだけど」

 マウラさんは、呆れ顔で鼻をほじる。
 
「何が名工じゃい。あんな物、剣とも呼べんわ。剣の形をした金属よ」
「ひどい言われようだな……だから、僕の剣も作ってほしくて」
「なんじゃ、わしの作った剣が欲しいのならもっと早く言えばよいのに。変なやつじゃな」

 いや、いつも農機具や斧を作っている野鍛冶のマウラさんが、まさか僕の剣より良いものを作れるなんて思ってもいなかったから。

「あ、それとね、トマスさんに作った剣だけど、あと三〇本くらい作れる?」
「ああ、あんな適当な剣で良ければこの街を発つまでに作ってやるぞい」
「え? あれで適当につくったの?」

 僕の剣を軽くへし折るほどの剣を適当に……。
 やばい、本当にすごいドワーフだったんだ。
  
「うむ。そこら辺のクズ素材だからな。ライカの剣もクズ素材でええのか?」
「え……僕のは、ちゃんとしたのが良いな。えへへ」
「がはは。現金なやつじゃ。ほいじゃぁ、お前のやつは本気で作ってやるか」
 
 マウラさんの剣をオーレス子爵領の魔法剣士が使えば、魔法剣士大会でも通用するかも知れない。
 よし。オーレス子爵に報告しよう。喜ぶだろうな。
 僕はその足で、オーレス子爵の屋敷に向かった。

 ◇◇◇

「ライカ殿、一緒に夕食に参加してくれるなんて、ありがたい。して、なにか粗相そそうでもあったのでしょうか」
「いえ、ちょっとご提案がありまして……」

 僕は、王都の魔法剣士大会の本戦を本気で目指すという計画を話した。

「な、なんですと? 我らが本戦出場を目指すですと!」
「はい」
「さすがに、それは。三ヶ月後の予選で、ホワイトス公爵領の魔法剣士を倒さなければならないってことですぞ」

 西の地で、ホワイトス公爵領に勝てるものなどいない。
 これは長年続いていることで、もはや誰もが最初から諦めているのだ。
 
「ええ。剣士たちは僕が鍛えて、マウラさんが作った剣を使えば行けると思います」
「なんとマウラ様が……わが剣士たちのために。なんという幸福だろうか」
「僕、ホワイトス公爵領の魔法剣士として、本戦で優勝するのが夢だったんです」
「そうだったのですか」

 そう。いつか出たい。そして優勝するのが夢だった。
 
「ええ、今となっては叶わないけど、僕が鍛えた人たちが代わりに僕の夢を叶えてくれたらうれしいなって」
「それなら、ライカ殿がわが領の魔法剣士として出場すれば良いではないですか」
「え? そんなことできるんですか?」

 公爵家を勘当され、平民の僕が。そう思っていた。
 
「できないわけ無いでしょう。私、領主ですもの」
「あ、そうか。あはは……僕、出られるんだ。魔法剣士大会に」

 諦めていた夢が、彩りはじめる。

「ではお願いしますよ。我が部隊の大将として」
「え? 大将? 僕が?」
「当たり前でしょう。一番強いのだから……」

 ◇◇◇

「教官! 今日の訓練、いつもよりキツくねぇっすかい?」
「何言ってるんだよトマスさん。当たり前さ。魔法剣士大会予選を突破しなくちゃならないんだから」
「ああ、そういうことですかい。予選突破ね……え! 予選突破? 何言ってやがるんですか」

 一同が驚き、どよめいているが、僕は活を入れる。
 
「皆なら出来る! 絶対勝つよ! だから訓練訓練さ!」
 
 それからというもの、魔法を剣に維持させることの出来る剣士が増えてきた。
 さすがは、長年剣士をやってきただけのことはある。

「まだ、維持できない人は、引き続き練習。できた人は、実践やるよ」
「「はいぃぃ」」

 厳しい訓練に必死に喰らいついてくる、仲間にも愛着が出てきた。
 剣に魔法を纏わせた状態での剣技で、特に秀でていたのはトマスであった。

「なんだか、トマスのくせにやるなぁ」
「一つ星のくせにな。あはは」
「うるせぇやい! オイラは一つ星の星になるんでぃ」
「あはははは。なんだよ。一つ星の星って」
 
 一週間に渡る、僕の指南は終わりを迎える。
 最初は魔獣の討伐指南であったが、ひょんなことから、魔法剣士大会本戦出場が目標になった。

 これは精鋭ばかりホワイトス公爵領の魔法剣士たちに勝たなければならないという、大きな目標ではあるが、僕たちならきっと勝てる。

 そんな気がしてくる一週間だった。

 ◇◇◇
 
「教官、魔獣先輩。ご指導ありがとうございました」
「あはは、魔獣先輩で定着しちゃってる」

 恐る恐るニャーメイドさんを見ると、案の定、殺気がダダ漏れだ。

「これからも定期的に訓練に参加しに来るから、よろしくね」
「はい! 我らも訓練に勤しみます」

「あと、これ。僕からのというか、マウラさんからの贈り物」

 マウラさんが作った三〇本の剣を一人一人手渡す。

「なんと! 鍛冶神様のお作りになられた剣がいただけるなんて……」

「あれ? 一本余っちゃった」
「あ、オイラ、既に一本もってるからだ。」

 そうだった。トマスさんは既に持ってたんだ。

「まぁいいか。トマスさん。二本目あげるよ」
 
 後に双剣のトマスと言われた魔法剣士の伝説は、この瞬間にはじまるのだった。
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