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ライカと白虎編

第二十二話 オーレス子爵の魔法剣士部隊

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 この日、僕らの屋敷に数台の馬車が到着した。
 先日救った街の領主、オーレス子爵が感謝の意を伝えるために、僕の所へ来たんだ。

 この屋敷には、応接間が無いため、ダイニングへと案内する。

「ライカ殿、建物はご立派ですが、なんか、こう……こじんまりとした屋敷ですな」
「あはは。ホワイトス家の不要になった別荘を改築したので。それに住んでる人数も少ないので、これで十分なんです」
「さようですか。さて、この度は我がオーレスの街を救っていただき。誠にありがとうございました。ここに改めて感謝申し上げます」

 オーレス子爵は胸に右拳を当て、右足を下げながら深々とお辞儀をする。
 
「避難されてた皆さんはもう、無事街にもどれたんですか?」
「ええ、お陰様で、なんとか元の暮らしをするために日々奮闘しております」

 難民キャンプで心身ともに疲れ果ててた人たちが救われたのは嬉しい事だ。

「我がオーレス領は昔から鉱山の採掘で栄えておりまして、今回の謝礼として、貴重鉱物を持参いたしましたので、どうかお納めください」
「そんな、謝礼だなんて……」

 べつに、謝礼が欲しくて、魔獣を倒したわけじゃないんだけどな。
 もし、マタタビ石があれば嬉しいけど。
 
「屋敷の近くに、鍛冶場があるのを見ました。鉱物は普段からお使いになるのでは?」
「ああ、わしの自慢の鍛冶場よ」

 マウラが腕組みをして、自慢げに言う。オーレス子爵はマウラを見ると驚く。

「まさか、そなたはドワーフか」
「おう! よくわかったな」

「先々代の頃、ドワーフたちに採掘の仕方を指南をしてもらったという記録が残っておりまして。以来、年始めにはドワーフに感謝する祭りをしているくらい、崇めておるのです」
「なんと! それは、尻がむず痒いのう」
「すごいね!マウラさん」
「い、今、マウラと仰ったか!」

 オーレス子爵はマウラさんの名前を聞くと驚き立ち上がる。
 
「ああ。わしの名前じゃが」
「もしや、アマツドワーフの……」
「よく知っておるな。アマツのマウラはわしのことじゃ」

 オーレス子爵は驚きを隠せない。

「なんということだ。私は、マウラ・オーレス子爵と申します」

 先々代のオーレス子爵、は鉱山の採掘に画期的な革命を起こして、成り上がった貴族だった。
 若き日に出会った、ドワーフに採掘のいろはを教わったらしい。
 その尊敬の念は、マウラというドワーフの名を孫の、現オーレス子爵に付けるほどであった。

「そうか、あの小僧の孫であったか。いつもわしにくっついて来てな。頑張り屋のいい小僧じゃったわい」
「え! マウラさんって、一体、今何歳なの?」
「うーん。二〇〇歳くらいじゃったかの。数えておらんわ」

 オーレス子爵は、その場にひざまずき、マウラさんに頭を垂れる。

「そんなにドワーフにヘコヘコせんでもいいニャ。それより、人間。マタタビ石はちゃんと持ってきたであろうニャ」
「はい、へ? 猫が喋った……」
「誰が豆粒猫ニャー! 細切れにしてニャろうか」
「ライカ殿、これは一体……」

 オーレス子爵は喋る小白虎を見て狼狽うろたえている。
 
「あ……はは。実は、こいつ白虎なんです」
「白虎って……あの白虎ですか?」
「ええ、あの白虎です。数百体いた魔獣を殲滅させたのも、ほとんどこいつなんですよ」

 オーレス子爵は、それからしばらく頭を垂れ続けた後に、何度も感謝の言葉を告げ、屋敷をあとにした。

 後日、オーレス子爵領にある、全てのマタタビ石が送られてきた。
 といっても、その数は一〇個程度。

 同封された手紙によると、マタタビ石は、今や、めったに採掘できない希少鉱石になってしまったとのこと。

 手紙の最後に、僕への願いごとが書いてあった。

 ――最後に、大変不躾なお願い事で恐縮ですが、我がオーレス子爵領の魔法剣士部隊へ、魔獣討伐のご指南を賜りたく存じます。
 何卒、よろしくおねがいします。

 マウラ・オーレス子爵――


「ライカ、まさか、面倒みてやるつもりニャのか?」
「うん。また、いつ魔獣が襲ってくるかわからないし、タートリアの行動にも注意しないといけないからね」
「ほんと、ライカは、お人好しニャ。マタタビ石探しか食材探しに行ったほうがマシだニャ」

 小白虎は、不服そうに言う。
 
「元はといえば、お前が白虎の力を失ったから魔獣が増えたんだんじゃないか」
「ウニャニャ……」

 
 ◇◇◇

 ――僕が剣技を教えて、ニャーメイドさんが実践練習の相手をするのがいいかな。
 
 次の日、僕らはオーレスの街へと向かう準備をしている。
 荷物をまとめて、屋敷の外へ出ると、馬車に荷物を詰め込んでいるマウラさんがいる。
 
「あれ? マウラさんも行くの?」
「ああ、子爵が火酒を用意しておくから、いつでも来てくれと言ってたからな」
「お酒目当てなんだね」
「子爵の爺さんが昔、よく、わしにくれた火酒が美味くてな」

 マウラさんは、思い出しながらうっとりとした表情でヨダレを垂らす。
 
「もしかして、先々代のオーレス子爵に採掘のやり方を教えたのって……」
「ああ、火酒をくれるからじゃ」
「やっぱり!」

「動機は別になんでもいいじゃろう。馬車に乗っていけるんじゃ。文句言わんとけ」
 
 ずんぐりむっくり白馬のロバートは、オーレスの街に向かって、ゆっくりと進み始めた。
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