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ライカと白虎編

第十八話 魔獣の殲滅

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 ◇◇◇

 僕たちが魔獣を広場へと追い込むと、そこには、満身創痍の弟フィンが一〇〇体ほどの魔獣に囲まれている。フィンの歪んだ顔は、怒りと恐れが入り混じっているように見える。

「フィン!」
「あ、兄上……なぜ」

 僕の呼びかけに驚いた顔は、まるで死んだ人間を見るような。
 僕とフィンの間にうごめく魔獣を薙ぎ払いながら、フィンの元へと辿り着く。

「大丈夫か! フィン」
「あ、うん。あ、兄上……なぜここに」
「よかった。魔力切れになってしまったのかい?」
「あ、ああ」
「危なかったな。でも、もう大丈夫だよフィン。あとは僕に任せろ」

 まさか、ここで弟に遭遇するとは思わなかった。しかも、窮地きゅうちの陥ったところに間に合った良かった。――と思った瞬間。
 背中に衝撃を感じた。

「ありがとう。兄上。助かったよ」

 フィンは僕を魔獣のいる方向に蹴り押した。

「な!」
「あははは。僕のために死んでくれ! 兄上」


 いつからフィンの性根は腐ってしまったのだろう。実の兄を犠牲にしてでも自分が助かろうとするなんて。
 体制を崩した僕に魔獣が襲いかかる。
 その隙に、フィンと部下たちが街の出口に向かって走り去っていった。

 僕に覆いかぶさり、喉元に咬み付こうとする魔獣は、ニャーメイドさんが、切り裂いてくれた。

「ありがとう。ニャーメイドさん」
「ライカ様なら、対処できたでしょうが、おせっかいを焼きました。スミマセン」
「ガッハッハッハ。あれがライカの弟か。面白い奴よ」

 お腹に響く図太い声は、マタタビ石を食べた白虎から発せられた。
 そして、弟フィンに対する多少の嫌悪感が湧き上がってきた。
 
「まさか弟に足蹴にされるとは思わなかったよ」
「さて、魔獣たちを片付けたら、お前の弟をつかまえて、説教してやるか」
「そうだね。この数の魔獣だけど大丈夫?」
「案ずるな。我は四聖獣の一角、白虎ぞ!」

 この後繰り広げられた、白虎対数百体の魔獣の戦いは、もはや戦いと呼ぶには、一方的過ぎた。
 白虎の進む後には、魔獣たちの死骸が細切れとなり転がっている。
 広場は魔獣たちの血で赤く染まる。

「すごいな……」
「エエ。さすがは白虎様デス」
 
 僕やニャーメイドさん、眷属の出番はどうやらなさそうだ。
 
 ものの数分のことだった。

 まるで世界が終わってしまうのではなかろうか。そんな嵐が目の前にある。

 白虎の体は、赤く染まり、牙を剥く顔は、笑っているかのように見える。
 魔獣の唸り声、白虎の咆哮は、次第に消えていく。

「ガルルル。久々に、いい運動になったぞ」
 
 静けさを取り戻した、この街の広場には、魔獣の死骸の山の上に立ち尽くす、大きな白虎の姿が、月の明かりに照らされ、逆光となって僕の目に映る。

 その影は、徐々に小さくなり小白虎へと姿を変えていく。

「ちょっと、引いちゃったよ……。小白虎」
「四聖獣たるニャレの恐ろしさがわかったか」
「うん。いつもバカにしちゃってごめんね」
「ニャハハ。よいよい。わかればよろしいのニャ」

 一〇人いた、眷属たちが崩れ去っていく。

「ああ、消えちゃった。今回は、ニャーメイドさんみたいな眷属は生まれなかったね」
「うむ。コイツは特別なのかもニャ」

 たしかに、今回の眷属は、闘争本能むき出しであり、知能、知性があるとは思えなかった。
 僕たちは、この街に居る魔獣は全て倒した。
 これで、難民キャンプの皆もこの街に戻ってこれるだろう。

 街の様子を見ると、食料は食い尽くされているが、幸い建物の損傷は少ない。
 この分ならば、復興にはそれほど時間はかからないだろう。

「さて、難民キャンプの皆の食料として、魔獣を運べるだけ運ぼう」

 街の外で待つ、料理長さんとマウラさんを呼びに行くと、呆れるような光景を目にする。
 僕を足蹴にして逃げたフィンたちは、僕らの馬車を奪うために料理長さんとマウラに剣を向けていたのだ。

「おい、フィン! なにをしてるんだ!」
「あ、兄上……貴様、なぜ生きている」
「そんなことはどうでもいい。なぜ、お前は僕らの仲間に剣を向けているんだ」
「うるせぇ! 逃げるためだ」

 開き直るフィンに呆れる。昔は、優しい子だったのに……なぜ、こんなにも、父上のようになってしまったのだろうか。表情まで父上の生き写しだ。
 
「なぁ、フィン、君が生まれたころからお世話になっている料理長さんに、よく剣を向けられるな」
「僕の命が掛かってるからね。こんな元使用人なんて」
「フィン! お前は、父上と似ているよ。相当ひねくれてしまった」
「うるさい! 無能のユニーク過ぎるが!」

 僕の中に、フィンに対する怒りがふつふつと湧き上がってくるのを実感する。
 
「このバカ弟が! ふふふ。お兄ちゃんがお仕置きをしてあげるか」
「何だ? 四つ星レアスキルの僕に勝てると思っているのか?」
「ああ、見せてあげるよ。お兄ちゃんの六つ星ユニークスキルをね」

 僕とフィンの一騎打ちが始まろうとしている。
 
「皆、手を出さないでね! これは兄弟喧嘩だから」

 フィンの部下の心配そうな顔と、小白虎たちのニヤニヤした顔が視界の端に映る。
 「こい! フィン」


☆★☆★☆★☆★☆★☆★

いつも、お読みいただき、コメントもありがとうございます。
本当にありがとうざいます。

コツコツと書いて、やっとHOTランキング3位になることができました。
本当にうれしくて。飛び跳ねてます!

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明日の話も楽しみにしてくれたら嬉しいです。

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