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第十七話 フィンの魔獣討伐
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◇◆◇
「そろそろオーレス子爵領の街か」
フィンと四人の三つ星スキルを保有する魔法剣士が、馬車に揺られている。
「魔獣に街を乗っ取られるなんて、本当にひ弱な貴族ですね」
「ああ、さっさと片付けて、父上に褒美もたくさん貰おう」
部下の一人が嬉しそうに話す。
「へへ、そうしましょう。今、狙っている娼館の娘がいるんですよ」
「此度の報酬で身請けできるんじゃない?」
「やはりフィン様は最高です! 一生ついていきます」
「あはは。それがいい。すぐに僕がホワイトス公爵家の家督を継ぐことになるしね」
ご機嫌なフィンは、鼻高々にふんぞり返る。
「そんなに早くホワイトス公爵はご隠居なされる気なのですか?」
「ああ、最近、魔獣のスタンピードが多発してて、周辺貴族から責め立てられているんだ」
「そうみたいですね。最近の魔獣の多さは、私達魔法剣士部隊の間でも話題になっております」
「気丈に振る舞って入るけど、相当参っているはずさ」
元はフィンの父、ロイド・ホワイトスに尻尾を振っていた部下たちは、下心からフィンに鞍替えしたのであろう。
「かつて戦場の英雄と呼ばれたホワイトス公爵も、政治には弱かったということですね」
「うん。その点、僕ならば、周りの貴族なんて黙らせちゃうからね。力尽くでね」
「フィン様は、ホワイトス公爵と手合わせをしたことはあるのですか?」
「うん。子供の頃はこてんぱんに痛めつけられたよ」
幼少期、父との手合わせの話をする。
あの頃は、兄ライカばかりを贔屓し、フィンには辛く当たっていた父への憎しみを思い出したのだろう。
「壮絶ですね」
「絶対零度の四つ星レアスキルを授かってからは、一度も手合わせしてないけどね。きっと負けるのが怖かったのさ」
「そりゃそうですよ! フィン様の絶対零度に勝てるものなどおりません」
「はっはっは。そりゃそうか」
一行は、オーレスの街へと到着する。
「さあ、魔獣のスタンピードなんてさっさと片付けて、凱旋しよう」
「はい! 作戦はいかがしましょう」
「作戦なんていらないよ。いつも通り、ただ潰していく。それだけだよ」
「さすが、次期公爵様の器です」
日頃から、ホワイトス領付近の魔獣を討伐しているフィンたちは、慢心していた。
フィンたち一行は、馬車で街に入っていく。
街の大通りを進んでいくが、魔獣と遭遇しない。
「なんだ。魔獣はもう去ってしまったのか。つまらないなぁ」
フィンの考えは的外れであった。魔獣の群れは、建物の影や、屋内に息を潜め、逃げることができない場所まで誘い込んでいたのだ。
突然、二体の魔獣が、飛びかかり、馬車を引く馬たちの喉笛に咬み付く。
魔獣を振り払おうと暴れる馬は、馬車を激しく揺らす。
「襲撃か! お前たち!外に出ろ! 応戦するぞ」
フィンの放つ絶対零度の氷の刃は軌道上の魔獣全てを貫く。
それに続く、部下たちの放つ炎や真空の刃も魔獣を骸と変えていく。
フィンたちを取り囲む魔獣は一瞬のうちに駆除されていのであった。
「ははは。魔獣に申し訳なくなるくらい楽勝だな」
それからも、第二波、第三波と、魔獣の群れが襲いかかるが、同じように蹴散らしていく。
◇◇◇
「おい、いつまで続くんだ……もう一時間以上戦いっぱなしだぞ」
第二五波を超えた頃、遂に転機が訪れる。
「『絶対零度』氷の刃!」
……。
遂に、フィンが魔力切れを起こしたのだ。
「くっ」
「フィン様、我らの魔力も限界です。一時撤退しましょう」
「うん、村の出口に走るぞ!」
御者は既に魔獣に食いちぎられ、絶命している。
その亡骸を飛び越え、村の出口へと駆けていくフィンたちは焦りの表情を見せる。
それを逃がすまいと追いかける魔獣の群れは、じわりじわりと獲物を追い詰めるように追随した。
「出口が見えてきたぞ」
「フィン様、だめです。出口を魔獣の群れが塞いでいます……」
「くそ! こっちだ」
フィンたちは、進路を変更し、街の東南にある、広場へと向かった。
「広場のあの建物に逃げ込んで、魔力回復をしよう」
しかし、それは叶わない。
待ち伏せしていた魔獣たちに挟まれ、広場中心あたりで、一〇〇体以上の魔物に囲まれてしまったのだ。
「……なんとか、突破しよう」
「フィン様。私が囮になりましょう。その間に出口へ向かってください」
部下の一人が命を賭して活路を見出そうとする。
「ふ……ふふふ。良い心がけだ。お前の家族には一生分の報酬を与えるから、僕のために死んでくれ」
しかし、次の瞬間、二〇〇体以上の魔獣が押し寄せるのであった。
「くそーー! なぜだ! なぜにこんなに魔獣が集まってくるのだ」
満身創痍のフィンは、膝をつき、観念したかのように、絶望した表情を浮かべる。
「……こんなはずじゃなかった。こんなに惨めに死んでいくのか」
「せっかく、兄上がいなくなり、家督を継げるようになったのに……」
次の瞬間、魔獣の動きが止まり、視線がフィンたちから逸れる。
「な……どうしたんだ?」
フィンは、魔獣の群れの先に立っていた少年の放った言葉に唖然とする。
「フィ、フィン!」
「あ、兄上……なぜ」
「そろそろオーレス子爵領の街か」
フィンと四人の三つ星スキルを保有する魔法剣士が、馬車に揺られている。
「魔獣に街を乗っ取られるなんて、本当にひ弱な貴族ですね」
「ああ、さっさと片付けて、父上に褒美もたくさん貰おう」
部下の一人が嬉しそうに話す。
「へへ、そうしましょう。今、狙っている娼館の娘がいるんですよ」
「此度の報酬で身請けできるんじゃない?」
「やはりフィン様は最高です! 一生ついていきます」
「あはは。それがいい。すぐに僕がホワイトス公爵家の家督を継ぐことになるしね」
ご機嫌なフィンは、鼻高々にふんぞり返る。
「そんなに早くホワイトス公爵はご隠居なされる気なのですか?」
「ああ、最近、魔獣のスタンピードが多発してて、周辺貴族から責め立てられているんだ」
「そうみたいですね。最近の魔獣の多さは、私達魔法剣士部隊の間でも話題になっております」
「気丈に振る舞って入るけど、相当参っているはずさ」
元はフィンの父、ロイド・ホワイトスに尻尾を振っていた部下たちは、下心からフィンに鞍替えしたのであろう。
「かつて戦場の英雄と呼ばれたホワイトス公爵も、政治には弱かったということですね」
「うん。その点、僕ならば、周りの貴族なんて黙らせちゃうからね。力尽くでね」
「フィン様は、ホワイトス公爵と手合わせをしたことはあるのですか?」
「うん。子供の頃はこてんぱんに痛めつけられたよ」
幼少期、父との手合わせの話をする。
あの頃は、兄ライカばかりを贔屓し、フィンには辛く当たっていた父への憎しみを思い出したのだろう。
「壮絶ですね」
「絶対零度の四つ星レアスキルを授かってからは、一度も手合わせしてないけどね。きっと負けるのが怖かったのさ」
「そりゃそうですよ! フィン様の絶対零度に勝てるものなどおりません」
「はっはっは。そりゃそうか」
一行は、オーレスの街へと到着する。
「さあ、魔獣のスタンピードなんてさっさと片付けて、凱旋しよう」
「はい! 作戦はいかがしましょう」
「作戦なんていらないよ。いつも通り、ただ潰していく。それだけだよ」
「さすが、次期公爵様の器です」
日頃から、ホワイトス領付近の魔獣を討伐しているフィンたちは、慢心していた。
フィンたち一行は、馬車で街に入っていく。
街の大通りを進んでいくが、魔獣と遭遇しない。
「なんだ。魔獣はもう去ってしまったのか。つまらないなぁ」
フィンの考えは的外れであった。魔獣の群れは、建物の影や、屋内に息を潜め、逃げることができない場所まで誘い込んでいたのだ。
突然、二体の魔獣が、飛びかかり、馬車を引く馬たちの喉笛に咬み付く。
魔獣を振り払おうと暴れる馬は、馬車を激しく揺らす。
「襲撃か! お前たち!外に出ろ! 応戦するぞ」
フィンの放つ絶対零度の氷の刃は軌道上の魔獣全てを貫く。
それに続く、部下たちの放つ炎や真空の刃も魔獣を骸と変えていく。
フィンたちを取り囲む魔獣は一瞬のうちに駆除されていのであった。
「ははは。魔獣に申し訳なくなるくらい楽勝だな」
それからも、第二波、第三波と、魔獣の群れが襲いかかるが、同じように蹴散らしていく。
◇◇◇
「おい、いつまで続くんだ……もう一時間以上戦いっぱなしだぞ」
第二五波を超えた頃、遂に転機が訪れる。
「『絶対零度』氷の刃!」
……。
遂に、フィンが魔力切れを起こしたのだ。
「くっ」
「フィン様、我らの魔力も限界です。一時撤退しましょう」
「うん、村の出口に走るぞ!」
御者は既に魔獣に食いちぎられ、絶命している。
その亡骸を飛び越え、村の出口へと駆けていくフィンたちは焦りの表情を見せる。
それを逃がすまいと追いかける魔獣の群れは、じわりじわりと獲物を追い詰めるように追随した。
「出口が見えてきたぞ」
「フィン様、だめです。出口を魔獣の群れが塞いでいます……」
「くそ! こっちだ」
フィンたちは、進路を変更し、街の東南にある、広場へと向かった。
「広場のあの建物に逃げ込んで、魔力回復をしよう」
しかし、それは叶わない。
待ち伏せしていた魔獣たちに挟まれ、広場中心あたりで、一〇〇体以上の魔物に囲まれてしまったのだ。
「……なんとか、突破しよう」
「フィン様。私が囮になりましょう。その間に出口へ向かってください」
部下の一人が命を賭して活路を見出そうとする。
「ふ……ふふふ。良い心がけだ。お前の家族には一生分の報酬を与えるから、僕のために死んでくれ」
しかし、次の瞬間、二〇〇体以上の魔獣が押し寄せるのであった。
「くそーー! なぜだ! なぜにこんなに魔獣が集まってくるのだ」
満身創痍のフィンは、膝をつき、観念したかのように、絶望した表情を浮かべる。
「……こんなはずじゃなかった。こんなに惨めに死んでいくのか」
「せっかく、兄上がいなくなり、家督を継げるようになったのに……」
次の瞬間、魔獣の動きが止まり、視線がフィンたちから逸れる。
「な……どうしたんだ?」
フィンは、魔獣の群れの先に立っていた少年の放った言葉に唖然とする。
「フィ、フィン!」
「あ、兄上……なぜ」
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