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ライカと白虎編

第十六話 スタンピード

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「これから向かう、オーレス子爵領は採掘で栄えた場所なんだ」
「ああ、あの鉱山がある辺りか。わしも若い頃、ドワーフの仲間たちと堀りに行ったわい」

 長命のドワーフであるマウラさんの「若い頃」って一体、何年前のことなんだろう。
 
「街に貯蔵してある鉱石に混じって、マタタビ石があるのかもね」
「ウニャ。ニャんとしても、街を救わニャければニャ。お礼にマタタビ石を全部もらうニャ」

 難民キャンプを歩き回っていた料理長さんが、僕らの所へ戻ってきた。
 
「ライカ坊っちゃん、避難民に聞いて回ったところ、どうやら魔獣の数は三〇〇体をゆうに超えるらしいですよ」
「うわぁ、そんな数、倒せるのかな」
「マタタビ石があるから余裕ニャ」

 自信満々の小白虎は、楽観的な態度で、地面に寝そべっている。
 
「建物とか壊さないようにしてね」
「ウニャ……それは約束できないニャ。白虎の身体はでかいからニャ」

 白虎の強さはわかっているけど、建物を壊されたら復興に時間がかかってしまう。
 僕は、そっちのほうが心配であった。
 
 ◇◇◇

 「作戦の確認をしよう」

 街の東側にある入口を入ったら、遭遇する魔獣を蹴散らしながら、一直線に街の一番奥にまで突っ切る。

 そこで、マタタビ石を食べた白虎が眷属を創って各自、街の南北に十二ある大きな通りを、東に向かって、倒しながら進む。

 最後に街の南東にある広場に追い詰めたところで、再度、白虎に変身し、殲滅する。

「この作戦でいくから、しっかりと覚えてね」
「がってんニャ」
「一番大きい通りはワタシにお任せくだサイ」

 
「そろそろ、オーレスの街が見えてきます。私とマウラさんは、ここで待機しております」
「うん、難民キャンプに食料として魔獣を運ばないといけないからね」
「それでは、ライカ坊っちゃん、猫さん、ニャーメイドさん、御武運を」

 僕たちは、馬車から降りて、街の入口に立つ。
 
「さて、マタタビ石のためニャ」
「うん! 行くよ」

 ニャーメイドさんが疾走する後ろを、僕は小白虎を頭に乗せ追いかける。
 魔獣が少ない通りを進んでいるはずだが、所々にいる魔獣の数は、いかに、このスタンピードの規模が大きいかを想像させた。

 僕たちを見つけると、飛び掛かって来る魔獣を瞬殺していくニャーメイドさん。
 その戦い方は、流石、白虎の眷属だ。白虎を彷彿ほうふつとさせる。

 ニャーメイドさんは、ここに来るまでに、既に一〇体以上の魔獣を倒している。

「ハァハァ。街の一番西まで着いたね。」
「よし、ニャレの出番ニャ。マタタビ石をよこすんニャ」

 さぁ、これから、遂に決戦の始まりだ。

 ゴゴゴゴゴゴゴ……。

 「さあ、我の眷属たちよ! 気合いれるのだぞ」

 白虎の毛から生まれた眷属たちは、毛を逆立て牙を剥くと、各自の持ち場へと、疾走していく。
 眷属の創造で魔素が切れた小白虎は、定位置である僕の頭に飛び乗るのだった。

 「さぁ、行くにゃ!」

 
 僕の進む通りは、民家が立ち並ぶ。少し、狭い通りであった。
 精肉店や飲食店が並ぶ通りに比べると、魔獣が少ない持ち場だけれど、それでも、多くの魔獣の姿がが目に映る。

 民家から引きりだしてきた、食材を複数の魔獣が食い漁っている。
 僕は、これらを倒すか、追い詰めなければならない。
 だが、僕のダウンジングは、一対多数の戦闘には向いていない。

 剣を、手から離れないように魔力を調整して、剣に、その魔力を纏わせる。
 急所への軌道が修正される程度の出力にするのだ。

「うん! 戦えるぞ」

 自力の剣技の補正でしかないけれど、闘うには十分だ。
 今のところは、順調に計画が進んでいる。目的地まで、あと半分くらい来たところか。

 ――よし、この調子でやり切るだけだ。

 次の瞬間! 背中に燃えるような熱さを感じだ。次第に、その熱は痛みへと変わっていく。

 ――くっ! やられた……。民家に潜んでいた魔獣を見逃してしまったのか。

 僕の背中から流れているであろう血は、足まで伝うころには、冷たくなり不快感に変わる。

「おいライカ! 大丈夫かニャ! 随分と傷が深そうニャ」
「うん、興奮してるからかな。痛みは無いんだ」

 僕は、ダウジングで剣を飛ばし、僕に一矢報いた魔獣を仕留めると同時に、よろめいた。

「おい、しっかりするニャ」

 ああ、血を流し過ぎてしまったのか、僕の意識は朦朧としている。
 その後も、僕は、失いかけた意識の中で、魔獣たちを蹴散らしていく。
 その様子をみた、他の魔獣は、逃げるようにきびすを返し、東側へと向かう。

 ――あの、角を越えれば……

 ――あと、一〇〇歩……

 ーーあと五〇歩……

「ああ、やっとだ。やっとここまでたどり着いた」

 ――僕は、やるべきことを、やりきった。

 僕に追われた魔獣たちは、僕の仲間たちに追われて来た魔獣たちと合流する。

 結果、街の東南にある広場には、追い詰められた魔獣たちがうごめくように黒い大きな塊となった。

 ここまでくれば、あとは簡単に片付くであろう。、白虎化した小白虎が一掃するだけだ。
 伝説の四聖獣の力が、この魔獣たちをじゅうりんするのであろう。

 しかし、そこに広がる光景は、僕の予想の範疇を超える。
 僕は驚愕することになるのだ。
 
「フィ、フィン!」

「あ、兄上……なぜ……」
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