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ライカと白虎編

第十二話 洞窟の男

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「あぁ昨日のコカトリスは美味しかったなぁ」
「ウニャ、まさか、あそこまで美味いとは思わなかったニャ。あの料理長、只者ではニャいニャ」
「ワタシも感動しまシタ。胃袋掴まれまシタ」
「そう言っていただけると、料理人冥利につきますな」
 
 僕たちは、昨日の料理の余韻に浸りながら、談笑している。
  
「そういや、最近、全然マタタビ石の反応が無いんだよね」
「ウニャ。剣をダウジングの媒介にしてるから効率が悪いニャ」
「前も、そんなこと言ってたね。じゃぁ、何を使えばいいのさ」
 
 前、羽ペンを媒介にしてダウジングを行った時、剣とは違う不思議な感覚だった。
 戦闘で無い時は、ああいう物の方がダウジングに向いているのかもしれない。
 
「ニャレの爪が、一番いいのだがニャ……加工できる奴なんて、まだいるのかニャぁ」
「そんなに難しいんだ。お前の爪って。あ、そうだ。小白虎、他に美味しい魔獣って何かいる?」
「そうだニャぁ、イビルボアってやつニャな。あいつの肉は、柔らかくてうまいニャ」

 たしか、豚みたいなでっかい魔獣だったな。昔、父上が討伐したと自慢してたヤツだ。
 
「よし! 獲りにいこうよ」
「ウニャ。でも、アイツの突進にだけは気をつけるニャ。牙で両足がもげるからニャ」
「え、怖っ」

 僕たちの話を聞いている料理人さんは目を輝かせている。
 
「イビルボアですか。これはまた、超高級食材を……。私、興奮してまいりましたぞ。」
「どうやって食べるのが美味しいかなぁ」
「うーん。寒くなってきたので、ぼたん鍋なんて良いですね」

 鍋か。想像しただけで、ヨダレが出てきそうだ。
 僕の中に、なんとしても獲るという気持ちが固まる。
 出かけ際、料理長さんが、昼食にとお弁当を作ってくれた。
 
「ライカ坊っちゃん。これ、パンを焼いたので、昨日のコカトリスのサンドイッチです」
「わぁ、ありがとう。料理長さん」

 イビルボアを探し、森を進んで行く、僕ら。

「はぁん♥」
「ちょっと、ニャーメイドさん、いきなりお弁当食べないでよ」
「スミマセン。ワタシ我慢できなくて……」

 その気持はわからないでもない。僕だって、お昼をたのしみにしているのだ。
 
「今日の朝言ってた、小白虎の爪ってさ、そんなにすごいの?」
「当たり前ニャ。白虎様の爪ニャぞ。まぁ、爪を折るのは嫌ニャがニャ。痛いし。血でるしニャ」
「え……痛いんだ」

 爪を折るんだもんな。いくら白虎でもそれは痛いか。
 でも、小白虎曰く、次の日には生えてくるらしい。可愛そうだなとは思っていたが、それならいいか。
 
「クンクン……クンクン。この魔獣臭……イビルボアだニャ」

 小白虎が臭いを嗅ぎながら、キョロキョロとしている。
 
「ウニャ! あっちの方向ニャ」

 泥浴びをしている、イビルボアを発見した。
 しかし、僕たちの気配に気付いたのか、急に走って逃げ出す。
 すぐに、追いかけるが、とにかく逃げ足が速かった。

「速いニャ……見失ってしまったニャ」
「あそこの洞窟ににげたのかなぁ」

 イビルボアの逃げた先の岩壁に、洞窟の入口を見つけた。
 一見、小さな洞窟に見えるけど、取り敢えずダウジングで確認してみるか。
 
「『ダウジング』イビ……」

 その瞬間、洞窟から、ずんぐりむっくりの男が大慌てで飛び出してきた。
 
「わ! びっくりした。」
「助けてくれー。イビルボアが、わしの住処に……」

 ――やっぱりあの中か。

「よし! 追いかけよう」
「待て、女子供がどうこうできる相手じゃないぞい」

 僕らは洞窟へと入っていく。
 洞窟の割にはジメジメしていなく、割とカラってしていた。
 
「随分、奥が深い洞窟だなぁ」
「明かりがあって良かったニャ。ニャレは暗くてもみえるがニャ」

 松明が所々にあるおかげで、苦労せずに進める。
 さっきのずんぐりむっくりの男が居住していたからであろう。

「注意しながら進もう。両足がもげるなんて嫌だからね。って、なんか……いい匂いしない?」
「ウニャ、肉の焼ける美味そうな匂いニャな」

 一番奥にたどり着くと、すこし広い空間がある。
 この空間、汗が吹き出るほど暑い。
 辺りには、たくさんの鉱石や、鉄、金槌などが散乱していている。

「暑っつ。何なんだ、この部屋は」
「白虎様、ライカ様、あソコをみてくだサイ」
 
 レンガでできた、炉のような物が崩れ、炭が煌々とオレンジ色に光っている。
 イビルボアは、それに突進したのだろう。
 既に息絶えて、パチパチと焦げ始めている。

「ああぁぁぁ。丸焼きになっちゃう……」
 これでは、料理の幅が狭くなってしまう。
 僕とニャーメイドさんで、焦げ始めているイビルボアを炭から下ろす。

 その様子を、洞窟での通路から、ずんぐりむっくりの男が、覗いている。

 「ああ。わしの工房が……めちゃくちゃじゃ」
 
 男は、膝から崩れ落ち、絶望している。

「おまえ、もしかしてドワーフかニャ?」
「あわわ。猫が喋った!」
「猫とは失礼ニャ……ニャレは白虎ぞ! この土地の守護獣ニャぞ」

 男はドワーフだった。
 ドワーフ。人間に近い種族だけど、亜種といったほうが正しい。
 その数は、減少していて、森の何処かに集落をつくりひっそりと暮らしている。と、家庭教師の先生に昔、教わったな。

「一人でこの洞窟に住んでいたの?」
「ああ、色々とあってな……」
 
 洞窟に住んでいる経緯を聞く。
 この洞窟から遠く離れた森に、鍛冶仕事を生業とするドワーフの集落があったらしいが、近年、魔獣が増え集落が襲われた。
 ドワーフたちは、散り散りに逃げることになった。このドワーフのおじさんも、一人で逃げ延びて、なんとかこの洞窟に隠れ住んでいたのだとか。

「お前らのせいで、仕事ができなくなってしまったじゃないか。どうしてくれるんだ!」
「ご、ごめん」
「ごめんで済んだら、金槌はいわんわい!」
「ニャぁ、ドワーフ。お前、ニャレたちの屋敷に来ないか? 工房も建ててやるニャ」
「なんと! 本当か!」
「うん! それがいいよ。鍛冶仕事なら、農機具とか欲しい物がいっぱいあるし」

 こうして、ドワーフが僕らの屋敷に来ることとなった。
 これが、僕のダウンジングスキルに革命を起こすことになる。
 
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