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第3話 義妹と俺とオーセンティックバー
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今期のアニメで放送されている、オーセンティックバーの物語。
毎日、ブラック企業で体力と精神力をすり減らし、家でアニメを観ながら安酒を煽る生活。「オーセンティックバー」なんて格好の良い響きなんだ。
「奏斗さん、普段はどこで飲まれるんですか?」
「オーセンティックバーだね」
言いたい! これ言いたい! オーセンティックバーって言いたい!
アニメを観終わるとパソコンを開き、検索を始める。
「オーセンティックバー はじめて」 「オーセンティックバー マナー」
数日間、ひらすらに調べた。これで恥をかくことも無い。
・服装は襟付きのシャツは気ておいた方が良い。
・1杯1000~2000円程度。
・荷物は足元に置く。
覚悟は決まった。こういう初体験は冒険のようでワクワクする。この冒険が俺の人生に深みを与えるのだ。
仕事が終わった金曜日、ネットで調べた地下1階にあるオーセンティックバーへ着く。渋く光る木の扉の前に立つと、深呼吸をする。この扉を空けると、何人のお客さんがいるのか。RPGのラスボスがいる扉を開けるような恐怖感と期待感が入り交じる。
店の中には1人の中年バーテンダーが凛と立っている。どうやら客は俺だけのようだ。正直ホッとした。
「いらっしゃいませ。お飲み物はいかがしましょう」
「えー。ギ、ギムレットを」
「かしこまりました」
無駄な所作がないバーテンダーのシェイク。アニメで観た通りだ。俺の前に三角形のグラスに注がれたキラキラしたお酒が出される。
「こういうバーは初めてでらっしゃいますか?」
「はは。やっぱりわかりますか?」
「なにも、恥ずかしいことではありませんよ。誰でも初めてはありますし」
「オーセンティックバーってかっこいいなと思って。色々勉強中です」
「かっこいいから入るのも、ご立派な動機だと思います」
すごい! 素直に受け入れられる。バーテンダーとの会話が心地よい。
「ギムレットって18世紀、イギリス海軍が長い航海で壊血病の予防として、ビタミンC不足を補うために飲んだことが起源とされています。」
勉強になる。かっこいい!
チリンと扉のベルが鳴る。
ふわっとした巻き髪に桜色の唇の清楚ながら妖艶な淑女が1人でこの店に入ってきた。バーテンダーに私の席を一つ空けた右の席に案内される。
「アップルロワイヤルをいただけるかしら」
そういうと、バッグから小説を取り出した。『まずはこれ食べて』表紙に描かれた目玉焼きが印象的だ。
「本、お好きなのですか?」
淑女が話しかけてくる。普段な緊張していただろうが、一杯目のギムレットが俺を高揚させている。今の俺に恐れるものはない。
「表紙の目玉焼き、美味しいそうですね」
勿論、お姉さんの方が美味しそうですよぉぉぉ。
「この本の第一章のタイトルがね、『その魔女はリンゴとともにやってきた』なの」
「だからアップルロワイヤルをご注文されたのですね」
紳士なバーテンダーの合いの手。続いてアップルロワイヤルの説明を俺にしてくれる。
「ブラーポモー・ド・ノルマンディーというカルバドスにりんごの果汁を追加して熟成したものにスパークリングワインを合わせたものです」
お姉さんのブラーの中の禁断の果実もいただきたいものですねぇ。
淑女との小説談義に花を咲かせながら、2杯目のギムレットを頼む。
私の気分は最高潮に達しております。海綿体が壊血病を患ってしまいそうです。
ビタミンCをいや、Cをいたそうじゃありませんかぁ!
「おねえさん、この後2軒目でもご一緒にいかがでしょう」
「……あなた、ギムレットを飲みながらお誘いするなんて、無粋ね」
そう言うと、淑女は席を立ち上がる。会計し店を出る時に言う。
「あなた、来週のこの時間、この店で一緒に飲みましょう。その時に改めて口説いてみてほしいわ」
ショック! スリル! サスペンス! ホワイィィィ!
呆気にとられている俺にバーテンダーが私に優しく話しかける。
「ギムレットはイギリス海軍が長い航海で飲み始めたのが起源って言いましたよね。長い航海は長い別れを意味するんです。一本取られましたね」
ネクスト・淑女ズ・ヒント!
私は、落ち込みよりも、リベンジ精神を燃やしながらBARを出た。
***
翌週の同じ時間、オーセンティックバーに向かう前にコンビニでストロングなお酒を注入した。これで饒舌モードになる。そして、この1週間、カクテルについて大学受験以上の勉強量をしてきた。
地下1階のオーセンティックバーに向かうエレベーターの前で淑女に会った。彼女と一緒に扉を開けると、隣同士の席に座る。
「アプリコットフィズをお願いします」
――「振り向いて下さい」というメッセージが込められたカクテルだ。
「ふふふ、私は……ロブロイをくださるかしら」
――「あなたの心を奪いたい」というカクテルだ!
来ました来ましたよぉ。奪って下さい、盗賊のおねえさん!
お酒が進む進む!ゴーゴーゴーでございます!
「次、ニコラシカを下さい」
――ちょっと焦らしてあげましょう。さぁさぁ、どう出てきますかー
「あら、そんな不勉強な人はいったいドイツかしら」
――ドイツのカクテルと掛けるなんて、洒落てますねぇ。このこのー。憎らしかぁぁ!
「では、スクリュードライバーを」
――「あなたに心を奪われました」のメッセージを送る。
「お上手」
――お上手。いただきましたぁ。私のドライバーであなたのお股をスクリューしてさしあげますよぉぉ。
さて、そろそろ私の棒テンダーもシェイクしたがっております。
「どうでしょう?二軒目でも」
「合 格 !」
店を出てエレベーターに乗る。2軒目は勿論ラブなホテルでございます!
***
本日の体位はオーセンティック棒でございます。
激しく淑女にアプリコット!2人はテキーラサンライズ!
あなたのマタドールに私のカウボーイを入れてしマイタイ!
いたした。
「酒に奪われたものよりも多くのものを、わたしは酒から得た。」
心のなかにウィンストン・チャーチルの言葉が響き渡る。
我は、今までにない賢者の時間を過ごし、まどろみの中に落ち、眠りについた。
薄れゆく意識の中、洗面所に向かう淑女の気配。化粧を落としているのか。水道の音が心地よい。
――朝、フロントからのモーニングコールがまた一皮剥けた俺を目覚めさせる。
傍らに眠る、名前も知らない淑女を愛でようと布団をめくる。リンゴのの香りを漂わせた梨紗がおはようという。
――梨紗?
なぜ、生まれたままの格好の梨紗がいるんだ?
くそ!淑女にも化けられるのか!
「んがぁぁっぁぁぁ! またもや義妹を抱いてしまったぁぁぁぁぁ」
翌週以降、オーセンティックバーのアニメを観ることはなかった。
毎日、ブラック企業で体力と精神力をすり減らし、家でアニメを観ながら安酒を煽る生活。「オーセンティックバー」なんて格好の良い響きなんだ。
「奏斗さん、普段はどこで飲まれるんですか?」
「オーセンティックバーだね」
言いたい! これ言いたい! オーセンティックバーって言いたい!
アニメを観終わるとパソコンを開き、検索を始める。
「オーセンティックバー はじめて」 「オーセンティックバー マナー」
数日間、ひらすらに調べた。これで恥をかくことも無い。
・服装は襟付きのシャツは気ておいた方が良い。
・1杯1000~2000円程度。
・荷物は足元に置く。
覚悟は決まった。こういう初体験は冒険のようでワクワクする。この冒険が俺の人生に深みを与えるのだ。
仕事が終わった金曜日、ネットで調べた地下1階にあるオーセンティックバーへ着く。渋く光る木の扉の前に立つと、深呼吸をする。この扉を空けると、何人のお客さんがいるのか。RPGのラスボスがいる扉を開けるような恐怖感と期待感が入り交じる。
店の中には1人の中年バーテンダーが凛と立っている。どうやら客は俺だけのようだ。正直ホッとした。
「いらっしゃいませ。お飲み物はいかがしましょう」
「えー。ギ、ギムレットを」
「かしこまりました」
無駄な所作がないバーテンダーのシェイク。アニメで観た通りだ。俺の前に三角形のグラスに注がれたキラキラしたお酒が出される。
「こういうバーは初めてでらっしゃいますか?」
「はは。やっぱりわかりますか?」
「なにも、恥ずかしいことではありませんよ。誰でも初めてはありますし」
「オーセンティックバーってかっこいいなと思って。色々勉強中です」
「かっこいいから入るのも、ご立派な動機だと思います」
すごい! 素直に受け入れられる。バーテンダーとの会話が心地よい。
「ギムレットって18世紀、イギリス海軍が長い航海で壊血病の予防として、ビタミンC不足を補うために飲んだことが起源とされています。」
勉強になる。かっこいい!
チリンと扉のベルが鳴る。
ふわっとした巻き髪に桜色の唇の清楚ながら妖艶な淑女が1人でこの店に入ってきた。バーテンダーに私の席を一つ空けた右の席に案内される。
「アップルロワイヤルをいただけるかしら」
そういうと、バッグから小説を取り出した。『まずはこれ食べて』表紙に描かれた目玉焼きが印象的だ。
「本、お好きなのですか?」
淑女が話しかけてくる。普段な緊張していただろうが、一杯目のギムレットが俺を高揚させている。今の俺に恐れるものはない。
「表紙の目玉焼き、美味しいそうですね」
勿論、お姉さんの方が美味しそうですよぉぉぉ。
「この本の第一章のタイトルがね、『その魔女はリンゴとともにやってきた』なの」
「だからアップルロワイヤルをご注文されたのですね」
紳士なバーテンダーの合いの手。続いてアップルロワイヤルの説明を俺にしてくれる。
「ブラーポモー・ド・ノルマンディーというカルバドスにりんごの果汁を追加して熟成したものにスパークリングワインを合わせたものです」
お姉さんのブラーの中の禁断の果実もいただきたいものですねぇ。
淑女との小説談義に花を咲かせながら、2杯目のギムレットを頼む。
私の気分は最高潮に達しております。海綿体が壊血病を患ってしまいそうです。
ビタミンCをいや、Cをいたそうじゃありませんかぁ!
「おねえさん、この後2軒目でもご一緒にいかがでしょう」
「……あなた、ギムレットを飲みながらお誘いするなんて、無粋ね」
そう言うと、淑女は席を立ち上がる。会計し店を出る時に言う。
「あなた、来週のこの時間、この店で一緒に飲みましょう。その時に改めて口説いてみてほしいわ」
ショック! スリル! サスペンス! ホワイィィィ!
呆気にとられている俺にバーテンダーが私に優しく話しかける。
「ギムレットはイギリス海軍が長い航海で飲み始めたのが起源って言いましたよね。長い航海は長い別れを意味するんです。一本取られましたね」
ネクスト・淑女ズ・ヒント!
私は、落ち込みよりも、リベンジ精神を燃やしながらBARを出た。
***
翌週の同じ時間、オーセンティックバーに向かう前にコンビニでストロングなお酒を注入した。これで饒舌モードになる。そして、この1週間、カクテルについて大学受験以上の勉強量をしてきた。
地下1階のオーセンティックバーに向かうエレベーターの前で淑女に会った。彼女と一緒に扉を開けると、隣同士の席に座る。
「アプリコットフィズをお願いします」
――「振り向いて下さい」というメッセージが込められたカクテルだ。
「ふふふ、私は……ロブロイをくださるかしら」
――「あなたの心を奪いたい」というカクテルだ!
来ました来ましたよぉ。奪って下さい、盗賊のおねえさん!
お酒が進む進む!ゴーゴーゴーでございます!
「次、ニコラシカを下さい」
――ちょっと焦らしてあげましょう。さぁさぁ、どう出てきますかー
「あら、そんな不勉強な人はいったいドイツかしら」
――ドイツのカクテルと掛けるなんて、洒落てますねぇ。このこのー。憎らしかぁぁ!
「では、スクリュードライバーを」
――「あなたに心を奪われました」のメッセージを送る。
「お上手」
――お上手。いただきましたぁ。私のドライバーであなたのお股をスクリューしてさしあげますよぉぉ。
さて、そろそろ私の棒テンダーもシェイクしたがっております。
「どうでしょう?二軒目でも」
「合 格 !」
店を出てエレベーターに乗る。2軒目は勿論ラブなホテルでございます!
***
本日の体位はオーセンティック棒でございます。
激しく淑女にアプリコット!2人はテキーラサンライズ!
あなたのマタドールに私のカウボーイを入れてしマイタイ!
いたした。
「酒に奪われたものよりも多くのものを、わたしは酒から得た。」
心のなかにウィンストン・チャーチルの言葉が響き渡る。
我は、今までにない賢者の時間を過ごし、まどろみの中に落ち、眠りについた。
薄れゆく意識の中、洗面所に向かう淑女の気配。化粧を落としているのか。水道の音が心地よい。
――朝、フロントからのモーニングコールがまた一皮剥けた俺を目覚めさせる。
傍らに眠る、名前も知らない淑女を愛でようと布団をめくる。リンゴのの香りを漂わせた梨紗がおはようという。
――梨紗?
なぜ、生まれたままの格好の梨紗がいるんだ?
くそ!淑女にも化けられるのか!
「んがぁぁっぁぁぁ! またもや義妹を抱いてしまったぁぁぁぁぁ」
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