魔王様、勇者を育てる。

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プロローグ

1.魔王様、勇者を育てる。

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ここは、一面闇に染まった腐敗した土地ーー【魔界まかい】。

その中央にそびえ立つ巨大な城ーー【魔王城まおうじょう】。

その城の奥深くに禍々しいまがましい見た目をした巨大な椅子に腰かける一人の青年がいた。

漆黒しっこくに染まった黒い髪に、人間離れした美しい顔立ち、悪役同然のような衣装。

「なぁ、ベルよ・・・」

青年は暇を持て余しているように、一見いっけん誰もいないような場所へと声をかける。

青年が見ている場所には不自然な影があり、その影は山になるように盛り上がっていき、次第に人の姿へと変わっていく。

「何でしょう、魔王様まおうさま」

現れたのは、燃えるような真っ赤な長い髪をしたメイド服姿の美しい女性。

ただの女性ではないように、背中に大きなコウモリの羽のような翼を持っている。

ベルと呼ばれるその女性ーー【ベル・リット】は、人に見えて人とは違う【魔族まぞく】。

その魔族達を率いて、支配している存在が【魔王まおう】であり、青年その人だった。

「かれこれ500年になるが、一度も勇者ゆうしゃがこの城に現れていないというのはどういうことだ？」

【勇者ゆうしゃ】というのは、唯一魔王に対抗できる存在として人間の中に生まれる。

人々は勇者を見つけ、育てた末に魔王を倒す冒険へと旅立たせる。

しかし、今の魔王が生まれて500年の月日が経った今でも勇者が現れていない。

「それが・・・
報告によると確かに勇者は誕生しています・・・
しかし・・・」

「どうした？」

「勇者はことごとく魔界の入り口を守る魔族達に滅ぼされているそうです・・・」

「なんだと！？」

本来、魔王に対抗できるはずの勇者が魔族に負けるというのは考えられない。

「魔界の入り口にそんな強い魔族を配置していたのか？」

「いえ、魔族の中でも最下位の魔族ーーゴブリン族でございます」

【ゴブリン】というのは、人型をした全身緑の体色をした魔族。

数こそ多い種族だが、知性が貧しく魔族の中で、最も弱いとされている。

「ゴブリン族の長ーーゴブリン・キングの報告によると、挑んでくる勇者達は未熟な者ばかりだと・・・」

「未熟というのは、まだ育ち切っていない勇者が挑んできているということか？」

「詳しくはわかりませんが、多分そうかと・・・」

そこで魔王は考え込む。

この500年という月日の中で、魔王は勇者の到来を心待ちにしていた。

そのために、あらゆるものを生み出し、あらゆる方法での成長を試していた。

全ては勇者の育成を早めるためのプラン。

しかし、今の報告でわかったのは、どれも効果がなかったということだ。

「こうなれば仕方ない。
ーー魔王直々に勇者を育てよう」