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私のお嬢様
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何という事だ。お嬢様が攫われた。
そして今、私の目の前に寝ている。私も寝ている。
展開が早い。
お嬢様を目の前にしても不安が収まらない。また熱が上がったのだろうか。丸くなって寝ているお嬢様に擦り寄っていく。呼吸が聴こえる。でも失うところだった。
胸に顔を埋める。規則正しい鼓動が私の心を落ち着かせた。
――どうか私から離れないで――
「いいよ」
頭の上から声がした。
「お嬢様。目覚められたのですか」
「うん。胸に顔を突っ込んでくる人がいたから」
「はい。とても安心します」
ぎゅっとしがみつく。
「――――調子狂っちゃうわ」
お嬢様が背中をポンポンして下さった。嬉しい。そのままスゥっと私の意識が沈み込んでいった。
「おやすみ」
おやすみなさいお嬢様
最高の目覚めだった!
私の頭部はお嬢様の胸肉に挟まれ、手はその柔らかさを堪能していた。
どうしてこうなったのかは分からないが、これが謝罪案件なのは分かる。
「不埒な真似をしてしまい、申し訳ございませんお嬢様!」
「う~ん、申し訳ないと思っている割には全然離れないのは何故かしら」
離れる訳がない。未だベッドの上でお嬢様にしがみついている。現在進行形で私は不埒な人間だ。
「お嬢様……お嬢様…お嬢様」
「……よしよし、此処にいるからね」
お嬢様にヨシヨシされて、お肉の温かさを堪能していたら次第に落ち着いてきた。なんか私、相当と不味い事をしているような。いや、している。頭がスッと冷える。が、今更な気もするので堪能したままでも良い事としよう。
「お嬢様。私、旦那様に殺されますかね」
更に動く私の手をぎゅっとっ抓りながらお嬢様が教えてくれた。
「それは大丈夫よ。今回私を助けてくれたじゃない」
「いえ、私は倒れて屋敷を出る事も出来ませんでした……」
知らせを聞いた私は助け出そうと走り出したが、まだ熱も下がり切っておらず体力が落ちていた為、玄関ホールに倒れていたのだ。情けない。
「ギードがすぐに気付いてくれて良かったわ。でもその後私の居場所を探してくれたのはギュンターでしょ。ダウジングで」
そう、必死の私は意識を取り戻すと、クルトに地図を持ってこさせ、常に身に付けている懐中時計――ではデカい!! 今度はギードにお嬢様を連想させる金とブルートルマリンのネックレスを持ってきてもらう。
そしてダウジングによりお嬢様の居場所を突き止めた。ついでに犯人の居場所も確認。一緒にいるとは限らないからな!!
今にして思う。人間もダウジングで探せるものなんだな……。
ああ、お嬢様がご無事で、本当に良かった。
そして、お嬢様と結婚した。
展開が早い!
今日もお嬢様を腕に閉じ込めて堪能する。
「ギュンター。髪を整えてくれるんじゃなかったの?!」
「はい。じゃあ手で毛繕いしますね」
私の顔はお嬢様の髪に埋めたままだがな。
イチャイチャする時間は大幅に増えた。それは結婚したという事もあるが、お嬢様の外出機会が減ったからだ。
誘拐を指示したのは、お嬢様の人気を妬んだアンドレアだった。私のダウジングで示されたのはアンドレアの屋敷だったのだ。
その後は屋敷妖精一族得意の情報戦で、瞬く間に証拠を集めた。実際には、あの女が黒であると言う情報を元に証拠を捏造。
お屋敷大好き一族は、ありとあらゆる屋敷に伝手がある。これで暫くは我らを敵に回す愚か者は出ないだろう。
しかし友人の愚行はお嬢様の心に影を落とした。結果、他の令嬢との交友も控えられ、私から離れなくなったのだ。天国!
既に妻となったお嬢様ではあるが、不安がない訳ではない。
あの憎き社交に励まれていた期間、沢山の紳士と交流されていた。煌めく金細工よりも大事に大事に愛しんでいるが、私よりももっとふさわしい人物がい、る訳ない! いる訳はないが、お嬢様が心惹かれた輩がいたかもしれない。『あっちが良かったかも』なんて想像だけでも耐えられない……!!
「ねえ、ギュンター」
少し沈んだ気持ちになりながらはむはむしているとお嬢様が、うっとりと目を細めながら言った。
「私、ギュンターとグスタフのお陰で、沢山御呼ばれしてたでしょう?」
あの×××××の期間ですね。
「社交界でも人気の伯爵に観劇に誘われて行ったんだけど……」
覚えている。流行りの演目だった為、お嬢様も嬉しそうに出ていく後ろ姿を覚えている。地位も金もある伯爵と! その日はお嬢様の部屋の隅にジッと座り込んでいたのも覚えている。嫌な記憶だ。くんくんお嬢様の首筋の匂いを嗅いで心を慰める。うん。温かくていい匂い。
「その中でね、薔薇の花を見てこう言うのよ。『キャベツやオタマジャクシって呼んでも、薔薇には変わりないのよ』って」
いやそんな台詞じゃなかったはずですよお嬢様。
「伯爵は『貴女の事ですね』って言ったんだけど、どうせ私はキャベツみたいに何にでも合わせられないし、長持ちもしそうにもないわよ。でも面と向かって言わなくても良いじゃない! この人とは合わないと思ったわ」
ズレてる! ズレてますよお嬢様!!
一本道でも道に迷うお嬢様。
でもそれは、私に向かって逸れてしまうから……
な訳はないけれど、私の居場所は貴女の隣。
一緒に歩いて行きましょう。
「――――今日はキャベツ料理にしましょうか」
「出来ればお肉でお願い」
そういう所も大好きですよお嬢様。
(おしまい)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
お読みいただき、ありがとうございました。
引き篭もり視点で状況がサッパリでしたので(深く反省しております)、ハイデマリーによる屋敷の外での話も投稿予定です。
そして今、私の目の前に寝ている。私も寝ている。
展開が早い。
お嬢様を目の前にしても不安が収まらない。また熱が上がったのだろうか。丸くなって寝ているお嬢様に擦り寄っていく。呼吸が聴こえる。でも失うところだった。
胸に顔を埋める。規則正しい鼓動が私の心を落ち着かせた。
――どうか私から離れないで――
「いいよ」
頭の上から声がした。
「お嬢様。目覚められたのですか」
「うん。胸に顔を突っ込んでくる人がいたから」
「はい。とても安心します」
ぎゅっとしがみつく。
「――――調子狂っちゃうわ」
お嬢様が背中をポンポンして下さった。嬉しい。そのままスゥっと私の意識が沈み込んでいった。
「おやすみ」
おやすみなさいお嬢様
最高の目覚めだった!
私の頭部はお嬢様の胸肉に挟まれ、手はその柔らかさを堪能していた。
どうしてこうなったのかは分からないが、これが謝罪案件なのは分かる。
「不埒な真似をしてしまい、申し訳ございませんお嬢様!」
「う~ん、申し訳ないと思っている割には全然離れないのは何故かしら」
離れる訳がない。未だベッドの上でお嬢様にしがみついている。現在進行形で私は不埒な人間だ。
「お嬢様……お嬢様…お嬢様」
「……よしよし、此処にいるからね」
お嬢様にヨシヨシされて、お肉の温かさを堪能していたら次第に落ち着いてきた。なんか私、相当と不味い事をしているような。いや、している。頭がスッと冷える。が、今更な気もするので堪能したままでも良い事としよう。
「お嬢様。私、旦那様に殺されますかね」
更に動く私の手をぎゅっとっ抓りながらお嬢様が教えてくれた。
「それは大丈夫よ。今回私を助けてくれたじゃない」
「いえ、私は倒れて屋敷を出る事も出来ませんでした……」
知らせを聞いた私は助け出そうと走り出したが、まだ熱も下がり切っておらず体力が落ちていた為、玄関ホールに倒れていたのだ。情けない。
「ギードがすぐに気付いてくれて良かったわ。でもその後私の居場所を探してくれたのはギュンターでしょ。ダウジングで」
そう、必死の私は意識を取り戻すと、クルトに地図を持ってこさせ、常に身に付けている懐中時計――ではデカい!! 今度はギードにお嬢様を連想させる金とブルートルマリンのネックレスを持ってきてもらう。
そしてダウジングによりお嬢様の居場所を突き止めた。ついでに犯人の居場所も確認。一緒にいるとは限らないからな!!
今にして思う。人間もダウジングで探せるものなんだな……。
ああ、お嬢様がご無事で、本当に良かった。
そして、お嬢様と結婚した。
展開が早い!
今日もお嬢様を腕に閉じ込めて堪能する。
「ギュンター。髪を整えてくれるんじゃなかったの?!」
「はい。じゃあ手で毛繕いしますね」
私の顔はお嬢様の髪に埋めたままだがな。
イチャイチャする時間は大幅に増えた。それは結婚したという事もあるが、お嬢様の外出機会が減ったからだ。
誘拐を指示したのは、お嬢様の人気を妬んだアンドレアだった。私のダウジングで示されたのはアンドレアの屋敷だったのだ。
その後は屋敷妖精一族得意の情報戦で、瞬く間に証拠を集めた。実際には、あの女が黒であると言う情報を元に証拠を捏造。
お屋敷大好き一族は、ありとあらゆる屋敷に伝手がある。これで暫くは我らを敵に回す愚か者は出ないだろう。
しかし友人の愚行はお嬢様の心に影を落とした。結果、他の令嬢との交友も控えられ、私から離れなくなったのだ。天国!
既に妻となったお嬢様ではあるが、不安がない訳ではない。
あの憎き社交に励まれていた期間、沢山の紳士と交流されていた。煌めく金細工よりも大事に大事に愛しんでいるが、私よりももっとふさわしい人物がい、る訳ない! いる訳はないが、お嬢様が心惹かれた輩がいたかもしれない。『あっちが良かったかも』なんて想像だけでも耐えられない……!!
「ねえ、ギュンター」
少し沈んだ気持ちになりながらはむはむしているとお嬢様が、うっとりと目を細めながら言った。
「私、ギュンターとグスタフのお陰で、沢山御呼ばれしてたでしょう?」
あの×××××の期間ですね。
「社交界でも人気の伯爵に観劇に誘われて行ったんだけど……」
覚えている。流行りの演目だった為、お嬢様も嬉しそうに出ていく後ろ姿を覚えている。地位も金もある伯爵と! その日はお嬢様の部屋の隅にジッと座り込んでいたのも覚えている。嫌な記憶だ。くんくんお嬢様の首筋の匂いを嗅いで心を慰める。うん。温かくていい匂い。
「その中でね、薔薇の花を見てこう言うのよ。『キャベツやオタマジャクシって呼んでも、薔薇には変わりないのよ』って」
いやそんな台詞じゃなかったはずですよお嬢様。
「伯爵は『貴女の事ですね』って言ったんだけど、どうせ私はキャベツみたいに何にでも合わせられないし、長持ちもしそうにもないわよ。でも面と向かって言わなくても良いじゃない! この人とは合わないと思ったわ」
ズレてる! ズレてますよお嬢様!!
一本道でも道に迷うお嬢様。
でもそれは、私に向かって逸れてしまうから……
な訳はないけれど、私の居場所は貴女の隣。
一緒に歩いて行きましょう。
「――――今日はキャベツ料理にしましょうか」
「出来ればお肉でお願い」
そういう所も大好きですよお嬢様。
(おしまい)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
お読みいただき、ありがとうございました。
引き篭もり視点で状況がサッパリでしたので(深く反省しております)、ハイデマリーによる屋敷の外での話も投稿予定です。
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