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嫁になりたいだけだった

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 目前まで行って入場すら果たせなかった。予備の衣裳に着替えながら「このままここにいたいなぁ」と呟いたら、着付けを担当してくださる皆様に激怒された。

「何言ってんですか! これだけ手間暇かかってんですよ!? 披露しなくてどうすんです? 続行ですよ続行!!」

「そーですよ。生地から選んで膨大な時間をかけてここまできたんです。金かかってんです!」

「今日の主役がカーシャ様だと思いましたか!? 違いますよ! 私達のセンスを見せつける場ですよ!」

 最後のはちょっと違うと思う。

 一通り直し終わって、よし行くぞと気合を入れたら、アデリーナさんが入ってきた。

「カーシャ。あら、綺麗にしてもらったわね」

 えっへん。
 あ。気分が急上昇。我ながら単純。皆も誇らしそうだ。
 ――でもアデリーナさんの表情は冴えない。

「でも残念なお知らせよ。王妃様から、会場には来なくて良いとのお達しがあったわ」

「え? でも」
「別の女性を婚約者として発表するそうよ」

 私もこんな役目は御免なんだけどと肩を竦めて説明してくれた。

「貴女の教育が中々進まないじゃない?」

「はい……」
 一言で納得出来る説明だった。

「頑張っているのは関係者全員が知っているわ。でも、今のままじゃ結婚式には到底間に合わない」

 その通りだ。

「知ってると思うけど、ミハイル殿下は貴女に癒しを求めていたわ」

 何それ。初めて知りました。

「王妃様がね、それなら似たタイプの教養のある女性を充てがえばいいんじゃないかって……失礼な話よね」

「それじゃあミハイル殿下は……」
「今頃その癒し系伯爵令嬢とやらと婚約発表しているところじゃないかしら」

 はあ?!!

「いやいや、後日じゃないんですか!? 名前も違うし、おかしいじゃないですか!」

「正式な発表が今日でしょう? 貴女が来なかった事で、ごり押しすることにしたみたいよ」

 ここまで蔑ろにされる程、私は価値の無い人間なのだろうか。

 ふらふらと、椅子に腰を掛けた。とても立っていられなかったのだ。
 アデリーナさんが、となりに座って、肩をさすってくれた。いい匂い。鬼で天使な彼女が慰めてくれている。なのに何故か元気が出ない。
 ポトリと涙が一つ落ちた。

 みんなが全力で整えてくれたドレス、シミになっちゃう。

 ぽと ぽと

 二割り増しの化粧が崩れちゃう。

 ぽと ぽと ぽと ぽと

 誰も何も言わない。

「わっわたしっ! 凄く頑張ったんです!」
「知ってるわ」

「頭は悪いけど、毎日頑張ったんです。努力しました!! ほぼ一回しかっ、あ会った事ない王子様っでしたけど、」
「え?」
「やっやさし、そうで、私のっ夢だった、かわい、お嫁さんになれるんだって! だからっ!」

「カーシャ!!」

 勢いよく扉が開き、男性が飛び込んできた。
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