8 / 11
お披露目しているはずだった王子様
しおりを挟む
彼女は会場に入る為踏み出した足で、ドレスを踏ん付けて転んだ。
私は思った。ピコピコを忘れてきたからだなと。勿論そんな訳はないが。
「大丈夫かい」
手を取って立たせる。介添人が慌ててチェックするが、繊細なレースの一部が破れ、衣裳は勿論、髪型も崩れている。絶望的な表情で、何とか見られるようにしようとしているが……ここでは無理だ。
「一度着替えてくるしかないだろう」
マックスの指示で周囲が慌ただしく動く。私は暫く待機かな。
「ミハイルは私達と一緒に先に入場だ。簡単な説明をしておこう。彼女が戻ったらエスコートすれば良い」
「了解」
カーシャが去る前に、一瞬だけこちらを向いた。泣きそうな顔だった。
挨拶を交わしながら婚約者を待っていると、いつの間にか斜め後ろにドレスを着たぷるぷる侍女エレーナがいた。今日は招待客として参加していたのか。まあ他に優先すべき人はまだまだ残っている。挨拶を受けた訳でもない。そのまま社交に精を出す。
「可愛らしい婚約者殿ですな」
「は?」
話していた侯爵がおかしな事を言う。すると私の腕にそっと触れてくる者が……エレーナではないか。俯向き加減で、ぷるぷる震えている。なにをやっているんだ。
「いえ、彼女は」
「エレーナと申します。どうぞよろしくお願いします」
「ハハハ! いや、実に初々しい」
「いえそんな事は……」
勝手に話を進めるな!
徐々に視線が集まるのが分かる。
焦りを隠し、侯爵を誤魔化しながら二人で会場の隅へ移動する。
「君は何を考えているんだ」
向き合えば体を強張らせてぷるぷるする。それはもういいから!
「何故誤解されるような行動をとったんだ」
「そっその、それは……あ、…の……わたし…………」
「わたし?」
「………………あ……その……ただっ……」
――――我慢だミハイル。
表情だけは優しく続きを促す。
「……………ひ…まが……って……」
うん?
「うんうん。落ち着いて。ちゃんと聞いてるよ。大丈夫。もう一度言えるね?」
「……………………………………………おうひさまが…………」
うん?
私は思った。ピコピコを忘れてきたからだなと。勿論そんな訳はないが。
「大丈夫かい」
手を取って立たせる。介添人が慌ててチェックするが、繊細なレースの一部が破れ、衣裳は勿論、髪型も崩れている。絶望的な表情で、何とか見られるようにしようとしているが……ここでは無理だ。
「一度着替えてくるしかないだろう」
マックスの指示で周囲が慌ただしく動く。私は暫く待機かな。
「ミハイルは私達と一緒に先に入場だ。簡単な説明をしておこう。彼女が戻ったらエスコートすれば良い」
「了解」
カーシャが去る前に、一瞬だけこちらを向いた。泣きそうな顔だった。
挨拶を交わしながら婚約者を待っていると、いつの間にか斜め後ろにドレスを着たぷるぷる侍女エレーナがいた。今日は招待客として参加していたのか。まあ他に優先すべき人はまだまだ残っている。挨拶を受けた訳でもない。そのまま社交に精を出す。
「可愛らしい婚約者殿ですな」
「は?」
話していた侯爵がおかしな事を言う。すると私の腕にそっと触れてくる者が……エレーナではないか。俯向き加減で、ぷるぷる震えている。なにをやっているんだ。
「いえ、彼女は」
「エレーナと申します。どうぞよろしくお願いします」
「ハハハ! いや、実に初々しい」
「いえそんな事は……」
勝手に話を進めるな!
徐々に視線が集まるのが分かる。
焦りを隠し、侯爵を誤魔化しながら二人で会場の隅へ移動する。
「君は何を考えているんだ」
向き合えば体を強張らせてぷるぷるする。それはもういいから!
「何故誤解されるような行動をとったんだ」
「そっその、それは……あ、…の……わたし…………」
「わたし?」
「………………あ……その……ただっ……」
――――我慢だミハイル。
表情だけは優しく続きを促す。
「……………ひ…まが……って……」
うん?
「うんうん。落ち着いて。ちゃんと聞いてるよ。大丈夫。もう一度言えるね?」
「……………………………………………おうひさまが…………」
うん?
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
婚約破棄が流行しているようなので便乗して殿下に申し上げてみましたがなぜか却下されました
SORA
恋愛
公爵令嬢のフレア・カートリはマルクス王国の王太子であるマルク・レオナドルフとの婚約が決まっていた。
最近国内ではとある演劇が上演された後から婚約破棄が流行している。今まで泣き寝入りして婚約していた若者たちが次々と婚約破棄し始めていた。そんな話を聞いたフレアは、自分もこの流れに沿って婚約破棄しようとマルクに婚約破棄を申し出たのだけれど……
王太子様、丁寧にお断りします!
abang
恋愛
「……美しいご令嬢、名前を聞いても?」
王太子であり、容姿にも恵まれた。
国中の女性にはモテたし、勿論男にも好かれている。
そんな王太子が出会った絶世の美女は少し変……?
「申し訳ありません、先程落としてしまって」
((んな訳あるかぁーーー!!!))
「あはは、面白い冗談だね。俺の事を知ってる?」
「はい、多分王太子殿下ではないかと……」
「……うん、あたりだね」
「じゃあ、落とし物を探して参りますので……さようなら」
「え"っ!?無礼とか、王太子殿下だ、とか考えない?」
「ワーオウタイシサマダ、ステキ……では失礼致します」
「……決めた、俺は彼女を妻にする」
「お断りします」
ちょっと天然なナルシ王太子×塩対応公爵令嬢
「私は平和で落ち着いた愛を育みたいので」
「俺は、キミと愛を育みたいよ」
「却下!」
婚約破棄寸前の悪役令嬢に転生したはずなのに!?
もふきゅな
恋愛
現代日本の普通一般人だった主人公は、突然異世界の豪華なベッドで目を覚ます。鏡に映るのは見たこともない美しい少女、アリシア・フォン・ルーベンス。悪役令嬢として知られるアリシアは、王子レオンハルトとの婚約破棄寸前にあるという。彼女は、王子の恋人に嫌がらせをしたとされていた。
王子との初対面で冷たく婚約破棄を告げられるが、美咲はアリシアとして無実を訴える。彼女の誠実な態度に次第に心を開くレオンハルト
悪役令嬢としてのレッテルを払拭し、彼と共に幸せな日々を歩もうと試みるアリシア。
【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。
帝国に奪われた聖女様は帝国の皇太子に溺愛されてます
りり
恋愛
王国に聖女として生まれたエルサ・ラ・エリサエル。
しかし、宰相の裏切りによりエルサは、おってから必死に逃げていた。
そんななか、騎士団長であるアレクドリスに助けられる。
実は……彼の正体はかつての同級生であり隣国ラーサル帝国の皇太子だった。
この物語は二人が様々な困難を超え結婚する話。
本編完結
番外編更新中
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる