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魔法学校編
5-59 ディエゴ
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レタアさんとオリウェンドがこの戦場から離脱してから二十分程経った頃。パッと目の前にいなくなったはずの二人が現れた。もう解決したのだろうか、と私が愚考している間に、辺り一面に湧いていた魔物達がパーっと去って行ったようだった。
私はオリウェンドよりも魔力を見る目が鋭いのでね、レタアさんの本来の魔力が彼女を纏い魔物を退けさせたということにはすぐ気がついた。……まあ、その魔力もその後すぐに隠されてしまいましたが。
ああ、もう少しその魔力を堪能したかった……! そんな欲を隠しながら二人に話しかけることにした。
「レタ……レットさん! オリウェンド! 無事ですか?」
向こうもこちらにやって来るようだった。それを私は出迎え、元気そうな姿を見て一安心した。
「ああ。傷一つない。」
「俺も元気です。」
「それは良かったです。」
「それでディエゴ、報告なんじゃが……」
早々に告げられた二人の言葉に、私は色んな意味で絶句することになる。
「元凶はゴル……なんとかじゃった。」
「師匠、それでは通じないのでは? あ、ええと、壁の向こうの森の奥に住む魔王が原因だったらしいです!」
「……はい?」
レタアside
「師匠はすごかった!」
ワシの通訳をしながら──どうしてもワシは言葉足らずになってしまうようでな──ワシの一挙手一投足全てを言葉にしようと父親に声をかけようとしているのを、オリウェンドの頭を撫でることで制し、報告を先に済ませてしまうことにした。
「無事元凶を封じてきた。多分暫くの間は今と変わらないかもしれないが、魔力の供給は絶ったから追々魔物の魔力は落ち着いていくだろう」
「そうですか。……しかし未だに事情を理解出来ていなくて……もう少し詳しく教えてはくださいませんか?」
「それもそうだな。」
かくかくしかじか。だいたい全ての出来事を説明し終えると、ディエゴは呆れたように息を吐いた。
「まさかそんなことが……」
「ああ。あのゴルゴンゾーラが、な……。」
「ゴルギャンディーノです。」
「ああ、そのゴル……なんとか。」
「レットさん、覚える気ないですよね」
仕方なかろう。あれの名前は覚えにくいのだから。それに、
「あんなやつの名前を覚えるくらいなら魔法の一つでも覚えたほうが有効的だからな。」
「魔王に対してそんなことが言えるのはあなたくらいですよ」
「まあ、それはどうでもいいとして。ディエゴ、あとで聞きたいことがある。いいか?」
「どうでもいいとは……ああ、いえ、ゴホン、ええ、それは勿論いいですが……」
ワシのどうでも良い発言に衝撃を受けたみたいで、吃るディエゴ。すぐに立て直したが、動揺が泳ぐ目から見てとれた。
「俺は?」
「オリウェンドはこの後すぐ学園に戻らなければならないでしょう? だから駄目です。」
レタア……いや、ラールルのことを知らないオリウェンドがいると聞きづらいことだから、というのが本心だが、馬鹿正直に本当のことも言えないからな。これで諦めてくれ、と内心祈る。
「ええー……分かりました。でも師匠! またすぐ会えますよね?」
「あーうんそうだな」
「今度は魔法を教えてください! 俺、キルグ会の先輩をも抜いてトップに立ちたいんですから! では今日はここで失礼します!」
そう言い放ってオリウェンドは他の魔術師の方へと向かっていった。
「……まずは帰りましょうか」
「そうだな。」
それを合図として、我々は魔術師団の本拠地に戻ってきたのだった。
ようやく戻ってきた。そしてそのままの足で魔術師団長室へと二人入る。
ソファーに二人対面するように座り、話し始める。
「さてレタア様、いろいろこちらも聞きたいことはありますが……まず何を聞きたいんですか?」
「そうだな、まず、五百年前の戦について、だろうか。何故わざわざ魔王城がある土地までを自国に引き込んだんだ? あそこは隣国の中でも異質な場所。そんな場所を手に入れて、我がトラント国は何の利益があったんだ?」
人間からしたら魔王なんて恐怖の対象だろうに。そんな存在が暮らす場所を引き込んで良いことなんてあるのだろうか? まず浮かんだ疑問はこれだった。
「魔王城を有するということは、世界機関から援助が入るということ。多分それ目当てでしょうね。そして魔王城を有するリスクとして有名な『魔物と人間の協定』が、あの魔王城からは被らないと踏んだのでしょう。何せかの有名なラールル氏が封じてしまわれたのだから。」
「あ、ワシのせいか」
「いえ、あえて言うならば甘い汁を啜り続けている上の者たちのせい、でしょうね。決してラールル様は悪くはありませんからね!」
「じゃが……」
言い淀むワシに、ディエゴはキッパリと言い放つ。
「いいですか? あなたは自分が生み出した魔法で人が傷つかないように上のもの者たちを契約で縛っていたでしょう? それをあなたの死後、反故にしたのはあっちですよ。」
「……そう、だ……な……」
まだ全てに納得することは出来なかったが、そう言ってもらえるとほんの少しだけ、ほんの少しだけだが気が楽になったような気がした。
私はオリウェンドよりも魔力を見る目が鋭いのでね、レタアさんの本来の魔力が彼女を纏い魔物を退けさせたということにはすぐ気がついた。……まあ、その魔力もその後すぐに隠されてしまいましたが。
ああ、もう少しその魔力を堪能したかった……! そんな欲を隠しながら二人に話しかけることにした。
「レタ……レットさん! オリウェンド! 無事ですか?」
向こうもこちらにやって来るようだった。それを私は出迎え、元気そうな姿を見て一安心した。
「ああ。傷一つない。」
「俺も元気です。」
「それは良かったです。」
「それでディエゴ、報告なんじゃが……」
早々に告げられた二人の言葉に、私は色んな意味で絶句することになる。
「元凶はゴル……なんとかじゃった。」
「師匠、それでは通じないのでは? あ、ええと、壁の向こうの森の奥に住む魔王が原因だったらしいです!」
「……はい?」
レタアside
「師匠はすごかった!」
ワシの通訳をしながら──どうしてもワシは言葉足らずになってしまうようでな──ワシの一挙手一投足全てを言葉にしようと父親に声をかけようとしているのを、オリウェンドの頭を撫でることで制し、報告を先に済ませてしまうことにした。
「無事元凶を封じてきた。多分暫くの間は今と変わらないかもしれないが、魔力の供給は絶ったから追々魔物の魔力は落ち着いていくだろう」
「そうですか。……しかし未だに事情を理解出来ていなくて……もう少し詳しく教えてはくださいませんか?」
「それもそうだな。」
かくかくしかじか。だいたい全ての出来事を説明し終えると、ディエゴは呆れたように息を吐いた。
「まさかそんなことが……」
「ああ。あのゴルゴンゾーラが、な……。」
「ゴルギャンディーノです。」
「ああ、そのゴル……なんとか。」
「レットさん、覚える気ないですよね」
仕方なかろう。あれの名前は覚えにくいのだから。それに、
「あんなやつの名前を覚えるくらいなら魔法の一つでも覚えたほうが有効的だからな。」
「魔王に対してそんなことが言えるのはあなたくらいですよ」
「まあ、それはどうでもいいとして。ディエゴ、あとで聞きたいことがある。いいか?」
「どうでもいいとは……ああ、いえ、ゴホン、ええ、それは勿論いいですが……」
ワシのどうでも良い発言に衝撃を受けたみたいで、吃るディエゴ。すぐに立て直したが、動揺が泳ぐ目から見てとれた。
「俺は?」
「オリウェンドはこの後すぐ学園に戻らなければならないでしょう? だから駄目です。」
レタア……いや、ラールルのことを知らないオリウェンドがいると聞きづらいことだから、というのが本心だが、馬鹿正直に本当のことも言えないからな。これで諦めてくれ、と内心祈る。
「ええー……分かりました。でも師匠! またすぐ会えますよね?」
「あーうんそうだな」
「今度は魔法を教えてください! 俺、キルグ会の先輩をも抜いてトップに立ちたいんですから! では今日はここで失礼します!」
そう言い放ってオリウェンドは他の魔術師の方へと向かっていった。
「……まずは帰りましょうか」
「そうだな。」
それを合図として、我々は魔術師団の本拠地に戻ってきたのだった。
ようやく戻ってきた。そしてそのままの足で魔術師団長室へと二人入る。
ソファーに二人対面するように座り、話し始める。
「さてレタア様、いろいろこちらも聞きたいことはありますが……まず何を聞きたいんですか?」
「そうだな、まず、五百年前の戦について、だろうか。何故わざわざ魔王城がある土地までを自国に引き込んだんだ? あそこは隣国の中でも異質な場所。そんな場所を手に入れて、我がトラント国は何の利益があったんだ?」
人間からしたら魔王なんて恐怖の対象だろうに。そんな存在が暮らす場所を引き込んで良いことなんてあるのだろうか? まず浮かんだ疑問はこれだった。
「魔王城を有するということは、世界機関から援助が入るということ。多分それ目当てでしょうね。そして魔王城を有するリスクとして有名な『魔物と人間の協定』が、あの魔王城からは被らないと踏んだのでしょう。何せかの有名なラールル氏が封じてしまわれたのだから。」
「あ、ワシのせいか」
「いえ、あえて言うならば甘い汁を啜り続けている上の者たちのせい、でしょうね。決してラールル様は悪くはありませんからね!」
「じゃが……」
言い淀むワシに、ディエゴはキッパリと言い放つ。
「いいですか? あなたは自分が生み出した魔法で人が傷つかないように上のもの者たちを契約で縛っていたでしょう? それをあなたの死後、反故にしたのはあっちですよ。」
「……そう、だ……な……」
まだ全てに納得することは出来なかったが、そう言ってもらえるとほんの少しだけ、ほんの少しだけだが気が楽になったような気がした。
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