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魔法学校編
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「レタ……レットさん、息子も私と同じ目を持っております! 経験を積むことも加味して、是非とも連れて行ってください!」
それに、そんな柔に育てた覚えはありません! そう言い切ったディエゴ。
……ふむ、そこまで言うなら連れて行っても良いか。まあ、ワシがいながらこの子供に怪我をさせるつもりも毛頭ないがな。
「じゃあついて来い!」
「はいっ!」
ディエゴの息子と手を繋ぎ、魔力がここよりも濃い場所を目指して転移する。そこは居住地と森とを隔てる壁の真ん前だった。
今となっては意味をなさないレンガ壁の向こうから、ここよりも濃い魔力が流れてきているように感じる。
「あの、この壁の向こうにいる魔物の方が魔力多いです!」
「やはりお前さんにも分かるか。じゃあもう少し飛んでみよう。」
「あ、あの! その転移魔法はどうやって再現しているのでしょうか! その魔道具は父しか保持しておらず、また魔道具の再現もほぼ不可能。魔法自体も難解だと聞いております!」
「あー、ええと……コツを掴めばできるかも知れんぞ?」
変に希望を持たせるのは得策ではないが、言い訳が思いつかなかった、と言うのも言い訳になってしまうのだろうか。……うむ、言葉は難しいな。
「ほわわわわぁ……! では俺ももっと精進せねばなりませんね!」
キラキラと目を輝かせてワシを見やる息子。……あ、そう言えば、
「今更だが名前、聞いていなかったな。ワシはレタ……レットだ。よろしく。」
「俺はオリウェンド……オリウェンド・レンダルクです! 師匠と呼ばせてくださいレット師匠!」
「お、おおう……?」
こんな場所でなければ即断って逃げていたかもしれん。だってワシに師匠なんて務まらないのだから!
「師匠! 俺、師匠に認められるように頑張ります!」
「あ、ええと……ほどほどにな。……じ、じゃあもう一度飛ぶか。」
「はいっ!」
あからさまに話をそらしてしまったが、オリウェンドは気にせず良い返事をしてくれた。
もう一度手を繋ぎ、壁の向こうまで一気に飛ぶ。
「あー、ここら辺は……」
壁の向こうには森が広がっていると言っていたが、実はワシにとってここは馴染み深い場所だ。
「師匠! こんな人間が暮らせないような場所に小屋があります!」
そうだな、普通の人間はこんな場所では暮らせないわな。ここでワシが暮らしていたのは普通の人間じゃあないから……
「ここはかの有名なラールル氏が引き篭もっていた小屋だな。」
自分で自分のことを有名だなんて言いたかなかったが、そうでも言わないと逆に不自然だからな。内心恥ずかしながら、その言葉だけを音にする。
「ふわぁぁあ! ここが……!」
図らずとも社会科見学のようなものになってしまった感じはあるが、今回はそんな悠長なことも言ってられん。すぐさまもう一度飛ぶことにする。
「さて感心している所悪いが、ここより魔力が多いのはどこだ?」
「ここよりもっと奥の方にいる魔物が……」
そう言ってツイッと指差すのは、小屋よりも奥の奥にいた狼のような魔物。ふむ、そうか。
この小屋があるのは森の中でも真ん中ら辺。それより奥、ということは国境近くまで行くことになりそうだな。そこら辺まではまず飛んでいける。
「じゃあもう一度、だな。」
「はいっ!」
にぱっと愛くるしい笑みを浮かべてオリウェンドはワシと手を繋ぐ。
国境辺りまで一気に飛んだ。ここを越えれば隣国サルベーノに入ることになる。その一歩手前で止まり、辺りを見回す。
ここら辺も森同様人気もなく、活性化した魔物が──壁付近のものよりも三倍くらいは魔力量が多かった──満ち満ちていた。
これくらいになると空間にすら魔力が満ちるようになり、魔物の魔力増加は顕著だろうことが予測される。
これ以上進むと(腕が立つとは言え)子供には倒せない程力のある奴がゴロゴロ出てきそうだ。そう考えたワシは感知阻害魔法を解いた。
前世のワシがあんな森の中で暮らせたのも、ワシの魔力の豊富さが魔物を遠ざけたからだ。魔物は力関係がハッキリしているからな、自分よりも強い力を持つ者に挑む愚か者はごく少数なのだ。
と、内心で『これで弱い魔物は逃げていくだろう』とドヤ顔を披露していた所、隣にいたオリウェンドは驚いた表情を隠すことなくこちらに向けてきた。
「師匠の魔力が……すごい! 何故変化したんですか!」
「あ、ええと……かくかくしかじかで……」
そうだった、この子は魔力を見る目を持っていたんだった。うっかりうっかり。
まあ、この見た目は偽りのものだし話してもいいか、と大体の事情を話したのだった。
それに、そんな柔に育てた覚えはありません! そう言い切ったディエゴ。
……ふむ、そこまで言うなら連れて行っても良いか。まあ、ワシがいながらこの子供に怪我をさせるつもりも毛頭ないがな。
「じゃあついて来い!」
「はいっ!」
ディエゴの息子と手を繋ぎ、魔力がここよりも濃い場所を目指して転移する。そこは居住地と森とを隔てる壁の真ん前だった。
今となっては意味をなさないレンガ壁の向こうから、ここよりも濃い魔力が流れてきているように感じる。
「あの、この壁の向こうにいる魔物の方が魔力多いです!」
「やはりお前さんにも分かるか。じゃあもう少し飛んでみよう。」
「あ、あの! その転移魔法はどうやって再現しているのでしょうか! その魔道具は父しか保持しておらず、また魔道具の再現もほぼ不可能。魔法自体も難解だと聞いております!」
「あー、ええと……コツを掴めばできるかも知れんぞ?」
変に希望を持たせるのは得策ではないが、言い訳が思いつかなかった、と言うのも言い訳になってしまうのだろうか。……うむ、言葉は難しいな。
「ほわわわわぁ……! では俺ももっと精進せねばなりませんね!」
キラキラと目を輝かせてワシを見やる息子。……あ、そう言えば、
「今更だが名前、聞いていなかったな。ワシはレタ……レットだ。よろしく。」
「俺はオリウェンド……オリウェンド・レンダルクです! 師匠と呼ばせてくださいレット師匠!」
「お、おおう……?」
こんな場所でなければ即断って逃げていたかもしれん。だってワシに師匠なんて務まらないのだから!
「師匠! 俺、師匠に認められるように頑張ります!」
「あ、ええと……ほどほどにな。……じ、じゃあもう一度飛ぶか。」
「はいっ!」
あからさまに話をそらしてしまったが、オリウェンドは気にせず良い返事をしてくれた。
もう一度手を繋ぎ、壁の向こうまで一気に飛ぶ。
「あー、ここら辺は……」
壁の向こうには森が広がっていると言っていたが、実はワシにとってここは馴染み深い場所だ。
「師匠! こんな人間が暮らせないような場所に小屋があります!」
そうだな、普通の人間はこんな場所では暮らせないわな。ここでワシが暮らしていたのは普通の人間じゃあないから……
「ここはかの有名なラールル氏が引き篭もっていた小屋だな。」
自分で自分のことを有名だなんて言いたかなかったが、そうでも言わないと逆に不自然だからな。内心恥ずかしながら、その言葉だけを音にする。
「ふわぁぁあ! ここが……!」
図らずとも社会科見学のようなものになってしまった感じはあるが、今回はそんな悠長なことも言ってられん。すぐさまもう一度飛ぶことにする。
「さて感心している所悪いが、ここより魔力が多いのはどこだ?」
「ここよりもっと奥の方にいる魔物が……」
そう言ってツイッと指差すのは、小屋よりも奥の奥にいた狼のような魔物。ふむ、そうか。
この小屋があるのは森の中でも真ん中ら辺。それより奥、ということは国境近くまで行くことになりそうだな。そこら辺まではまず飛んでいける。
「じゃあもう一度、だな。」
「はいっ!」
にぱっと愛くるしい笑みを浮かべてオリウェンドはワシと手を繋ぐ。
国境辺りまで一気に飛んだ。ここを越えれば隣国サルベーノに入ることになる。その一歩手前で止まり、辺りを見回す。
ここら辺も森同様人気もなく、活性化した魔物が──壁付近のものよりも三倍くらいは魔力量が多かった──満ち満ちていた。
これくらいになると空間にすら魔力が満ちるようになり、魔物の魔力増加は顕著だろうことが予測される。
これ以上進むと(腕が立つとは言え)子供には倒せない程力のある奴がゴロゴロ出てきそうだ。そう考えたワシは感知阻害魔法を解いた。
前世のワシがあんな森の中で暮らせたのも、ワシの魔力の豊富さが魔物を遠ざけたからだ。魔物は力関係がハッキリしているからな、自分よりも強い力を持つ者に挑む愚か者はごく少数なのだ。
と、内心で『これで弱い魔物は逃げていくだろう』とドヤ顔を披露していた所、隣にいたオリウェンドは驚いた表情を隠すことなくこちらに向けてきた。
「師匠の魔力が……すごい! 何故変化したんですか!」
「あ、ええと……かくかくしかじかで……」
そうだった、この子は魔力を見る目を持っていたんだった。うっかりうっかり。
まあ、この見た目は偽りのものだし話してもいいか、と大体の事情を話したのだった。
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