ほたるいはシスイを照らす光となり得るか

君影 ルナ

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二章 六月のほたるい

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カヨside

 女生徒に手を差し伸べるシスイ様。その光景を眺めていると、昔のことを思い出す。あの、誘拐された日のことを。





 あれは曇りの日だった。あの頃は毎日シスイ様はお屋敷を抜け出して、私と公園で遊んでいた。その日も同様だったのだ。

 あの頃の私はまだシスイ様のことを『いじめられていた私を救ってくれた王子様』として見ていた。実に夢見がちな少女だったと思う。まあ、それが変わったのもその日だったのだが。




 その日は二人で鬼ごっこをしていた。そこまではいつもの日常だった。

 しかしその日、黒い服を着た見知らぬ人が三人やって来たのが始まり。

『明鏡 茨水だな。』
『……お父様のお知り合い?』
『まぁそんなもんだ。お父様が呼んでるから付いてきてもらう。』
『分かりました。』

 あの頃は私もシスイ様もおかしいと思わなかった誘い文句──今聞けばよくある誘拐犯のそれだったと思う──にシスイ様が了承してしまうと、ついでと言わんばかりに私も一緒に車に乗せられた。

 そこでシスイ様は何かおかしいと気がついたようだった。シスイ様のお父様は私のことなんて視界にすら入れないようなお人だから。

『何故珈夜さんも連れて行くんですか?』
『騒がれちゃ困るからな。それなら子供が一人増える方が面倒は少ない。』
『……』

 多分シスイ様はこの時にようやく『誘拐』の文字を頭に浮かべたのだろう。サァッと顔を青ざめさせていた。

 私はこの時まだ状況をよく分かっていなかった。






 私達は暗く狭い、ジメジメした小部屋に放り込まれた。もちろん、手足は縛られて。

『珈夜さんだけでも帰してあげて! 用があるのは私でしょう!』
『下手に騒がれちゃ困るっつったろ。』
『でもっ!』

 バタン!

 シスイ様のお言葉を聞くことなく、誘拐犯は小部屋唯一の扉を閉めていった。

 窓すらない小部屋はとてもとても暗く、寒々しい場所だった。
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