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二章 六月のほたるい

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「シスイ様っ!」
「はい?」
「どんな方を探します?」
「そうですねぇ……」

 私と珈夜さんは雑談をしながら並んで廊下を歩いている。その間に考えるのは隣にいる珈夜さんのこと。私は笑顔を貼り付けてお喋りもしながら考えを巡らせる。珈夜さんには悟られないように。

「やる気がある方だとこちらも気負いせずに活動出来るかと思います。」
「ふむ、ですがシスイ様とお近づきになれると知れば皆生徒会室に殺到するのでは?」
「そんなことも無いと思いますが……」

 珈夜さんが私を中心にして全ての行動を決定しているのは、多分あの誘拐事件のことを引きずっているのだろうことは容易く推測出来る。

『くらいのこわいっ!』
『ごめんなさいごめんなさいっ!わたしがいたからっ!』
『しすいちゃんっ!』
『わたしが……わたしがなんとかするからっ!』

 その誘拐は私を狙ったものだった。だから私と一緒にいなければ珈夜さんも怖い思いをしなくて良かったのに。

「シスイ様はご自分の価値を理解していらっしゃらないようですね。」
「いえ、そんなことは無いですよ。ちゃんと自分が何者か……何者、か……」

 珈夜さんは私のせいだと罵っても良い立場にいるというのに、逆に私を慕ってくれている。だが世界は広いことをもっと知って欲しいとも思う。

──私に囚われず羽ばたいていって良いのよ

 そう願っても、具体的にどうすればいいか分からず今の今まで来てしまった。

「シスイ様?」
「……え、と、はい?」
「大丈夫ですか?」

 ええと、何の話でしたっけ。……ああ、自分が何者か、でしたっけ。私は何者でもない、と即答すればよかった。変に黙ってしまい、珈夜さんに不安を抱かせてしまった。

 私はそれを吹き飛ばすように笑って力強く言葉を紡ぐ。

「大丈夫ですよ。」
「……そう、ですか。」
「私は」



「~~!」

 珈夜さんと話している途中だったが、責めるような声が微かに聞こえてきた。

「ちょ、シスイ様っ!?」

 争いでも起きたのか、と私は何も考えずにその声の方へと走り出した。
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