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二章 六月のほたるい
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シスイside
あまりの雨の強さに、停電してしまったらしい。一瞬で暗くなった室内。外を振り返り見ると、辺り一帯が暗闇に包まれているのが一瞬で確認出来た。
「皆さん大丈夫ですか?」
「ああ、なんとかな」
「僕も~」
紅蓮さんと緑さんからは返事が戻ってきた。が、もう一人、珈夜さんの声は聞こえない。ああ、いけない。珈夜さんは暗い所が駄目なんです。何故いち早く気がつかなかったのだろう、と一瞬悔やみ、行動を起こす。
この間の思考は暗くなってから五秒くらいの出来事である。
「紅蓮さん、緑さん、明かりは手元にありますか?」
手探りで珈夜さんの元へ移動しながら口は動かす。二人の手元に明かりがあれば付けてもらう。無ければ……
「あ、無いな。携帯は鞄の中だ。」
「僕も~」
もちろん私も無い。持ち歩くことも無かったから。
二人の光源の在りかである鞄は部屋の隅に置かれている。そこに移動するまでに二人が怪我をしてはいけない。さてどうするべきか。
と、頭をフル回転させている間に珈夜さんの背中らしきものが手に当たり、私はそれをさする。ああ、すごく冷たくなっている。それに震えが酷い。
「……分かりました。珈夜さん、ほんの少し待ってください。」
私はなんの躊躇いもなく涙を流すことにした。普通じゃないと怖がられるのでは、という思考はこの時一切なかった。
ジワリと滲んで頬を伝い、顎から水分が重力に従って落ちると、ちゃんといつも通り光へと変化する。フヨフヨと浮かぶそれを珈夜さんの前に集めると、ほんの少しだけ震えが小さくなった。
いつもより三割増しで勢いよく涙を流し続けると、二分後にはもう二人、紅蓮さんと緑さんの顔も見えるまで明るくなった。
「珈夜さん、どうですか? まだ明るいとは言えませんが、少しマシにはなりませんか?」
「っ……、」
ゆっくり、ゆっくり首を縦に振る珈夜さん。だんだん震えも小さくなっていき、呼吸も穏やかになりつつあった。もちろん、この間もずっと涙は流しっぱなしだ。
「大丈夫、大丈夫、私がいますから。」
珈夜さんは一度、私と一緒に誘拐されたことがある。その時から珈夜さんは暗い場所が駄目なのだ。
それを知っているからこそ、生徒会の仕事もほどほどにして明るい時間に帰って良いといつも言っているのに……素直に聞き入れてくれはしない。いつも大丈夫だと言って無理をする。
「もう少し涙出していた方が良いですかね。」
今は珈夜さんの恐怖を少しでも減らすのが先決だ、と私は他には何も考えずにそう言った。
この光景を目の当たりにして、息を飲んでいた人がいたなんて知らずに。
あまりの雨の強さに、停電してしまったらしい。一瞬で暗くなった室内。外を振り返り見ると、辺り一帯が暗闇に包まれているのが一瞬で確認出来た。
「皆さん大丈夫ですか?」
「ああ、なんとかな」
「僕も~」
紅蓮さんと緑さんからは返事が戻ってきた。が、もう一人、珈夜さんの声は聞こえない。ああ、いけない。珈夜さんは暗い所が駄目なんです。何故いち早く気がつかなかったのだろう、と一瞬悔やみ、行動を起こす。
この間の思考は暗くなってから五秒くらいの出来事である。
「紅蓮さん、緑さん、明かりは手元にありますか?」
手探りで珈夜さんの元へ移動しながら口は動かす。二人の手元に明かりがあれば付けてもらう。無ければ……
「あ、無いな。携帯は鞄の中だ。」
「僕も~」
もちろん私も無い。持ち歩くことも無かったから。
二人の光源の在りかである鞄は部屋の隅に置かれている。そこに移動するまでに二人が怪我をしてはいけない。さてどうするべきか。
と、頭をフル回転させている間に珈夜さんの背中らしきものが手に当たり、私はそれをさする。ああ、すごく冷たくなっている。それに震えが酷い。
「……分かりました。珈夜さん、ほんの少し待ってください。」
私はなんの躊躇いもなく涙を流すことにした。普通じゃないと怖がられるのでは、という思考はこの時一切なかった。
ジワリと滲んで頬を伝い、顎から水分が重力に従って落ちると、ちゃんといつも通り光へと変化する。フヨフヨと浮かぶそれを珈夜さんの前に集めると、ほんの少しだけ震えが小さくなった。
いつもより三割増しで勢いよく涙を流し続けると、二分後にはもう二人、紅蓮さんと緑さんの顔も見えるまで明るくなった。
「珈夜さん、どうですか? まだ明るいとは言えませんが、少しマシにはなりませんか?」
「っ……、」
ゆっくり、ゆっくり首を縦に振る珈夜さん。だんだん震えも小さくなっていき、呼吸も穏やかになりつつあった。もちろん、この間もずっと涙は流しっぱなしだ。
「大丈夫、大丈夫、私がいますから。」
珈夜さんは一度、私と一緒に誘拐されたことがある。その時から珈夜さんは暗い場所が駄目なのだ。
それを知っているからこそ、生徒会の仕事もほどほどにして明るい時間に帰って良いといつも言っているのに……素直に聞き入れてくれはしない。いつも大丈夫だと言って無理をする。
「もう少し涙出していた方が良いですかね。」
今は珈夜さんの恐怖を少しでも減らすのが先決だ、と私は他には何も考えずにそう言った。
この光景を目の当たりにして、息を飲んでいた人がいたなんて知らずに。
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