ほたるいはシスイを照らす光となり得るか

君影 ルナ

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一章 五月の日常

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カヨside

『やっぱり……茨水様に相談して良かった……! ありがとう、ありがとうございます!』

 生徒会室へ続くドアを開けようとドアノブに手を置いた時に聞こえてきた声。

 いつものようにシスイ様の元へ相談しに来た人のものだとすぐに気がついた私は、生徒会室に入らず来た道を戻る。相談役であるシスイ様以外の人間がいては話しづらいこともあるだろう、そんなちょっとした気使いで、だ。

「昨日のテレビ見た~?」
「あいつまじウザいと思わない?」
「あのコスメ可愛いよねー!」
「蛍涙病って知ってる?」

 昼休み特有の喧騒を聞き流し、周りから冷たいと太鼓判を押された無表情で廊下を歩き続ける。その間考えるのはもちろんシスイ様のこと。

「……」

 シスイ様はお優しい。どんな人にも寄り添い、時には手を差し伸ばして引っ張り上げてくれる。どこからその隣人愛が出てくるのか不思議なくらい誰に対してもお優しい。

『双高の生徒は、生徒会長である私が守らないといけませんから!』

 とはシスイ様のお言葉だ──ああ、双高とは我が校、双葉高校の略称である──。実に逞しいお言葉だが、実際は双高の生徒でない人間も皆保護対象という認識らしい。皆に優しく出来なければ完璧ではない、と。

 この間は道端で蹲っていたお婆さんを助けていたし、その何日か前は道に迷っている人に話しかけて案内していたし、私が幼い頃いじめられていた時も体を張って助けてくれた。

 あとは私達が誘拐された時も……

 嫌なことを思い出してしまい、無意識のうちに眉間の皺が寄っていたらしい。周りにいた生徒の肩が恐怖で震えたのを視界の端に捉え、いけないいけないと寄った皺を指で解す。

 ふー、と息を吐き、生徒会室とは真逆の場所まで歩いてきていた。

 だから私も、誰もかも、相談者が帰った後に呟かれたシスイ様の独り言には気がつけなかった。







「やっぱり……他の家で××というのは……ああいうものなのですね……」
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