ほたるいはシスイを照らす光となり得るか

君影 ルナ

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一章 五月の日常

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シスイside

 昼休みになり、私は一人生徒会室にいた。いつ誰が相談や雑談をしに来ても良いように、と。

 誰かが来るまでは仕事を少し進めていましょうか、などと考えていると、カチャリ……と申し訳なさげに扉が開いた。そしてそこからひょこっと覗く顔を見て、それが誰なのかを判別する。

 茶色の長い髪はフワフワと動きに合わせて揺れ動き、同色の瞳は不安そうだ。……ええと、確か二年一組の……蘭さん、でしたね。

「茨水様、相談……良いですか?」
「ええ、もちろん。どうぞ入ってくださいな。」

 仕事は後回しにして、蘭さんに生徒会室にある対面ソファーを勧める。私は併設された簡易キッチンにて二人分の緑茶を淹れる。




 それをコトリと蘭さんと私の目の前に置き、話を聞く体勢を整えた。緊張を解くためにも私が率先して緑茶を一口飲む。

 蘭さんはそれを見て同じように一口含み、ホッと息を吐く。温かいものを摂取して少しでも緊張が解けたのなら良いのだけれども。そう願いながら、蘭さんの話が始まるまでジッと待つ。威圧を与えないように、微笑みを浮かべながら。

「……あの、私、双子の妹がいるんです。」
「存じ上げておりますよ。凛さん、ですよね?」
「はい。それで……」

 そこまで言い、蘭さんは口を噤む。余程言いづらいことなのだろうと予測をしながら次の言葉をジッと待つ。

「……私と凛は双子で、双子っていうことはほとんど同じで、だから……」

 くしゃりと顔を歪め、まるで泣きそうな表情を浮かべる蘭さん。辛い、悲しい、助けて……そんな声なき声が聞こえてきた気がした。

「……私がいなくても、凛がいるから別に良いかなって……思って……最近そんなことばかり考えてしまって……毎日泣いてしまいます。」
「そうでしたか。確かに自分の代わりがいるなら、と考えたことは私もあります。でも蘭さん。」

 微笑みを消してスッと真面目な顔を作る。威圧を与えない程度に。

「……はい」
「あなたの名前をもう一度教えてください。」

 蘭さんは私が何を言いたいのか分からないようだった。ほんの少し首を傾げ、取り敢えず言われた通り名前をもう一度教えてくれた。

「蘭……」
「そうですね、あなたは蘭さんです。では、妹さんの名前は?」
「凛……」
「お二人の名前は同じですか?」
「……いいえ。」
「なら、それが答えですよ。」
「……?」

 私がニッコリと笑ってそう言うと、まだ私が言いたいことに気がつかない蘭さんは首を傾げた。
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