上 下
4 / 36
一章 五月の日常

3

しおりを挟む
カヨside

 私は生徒会メンバーの一人であるミドリさんが所属する三年四組へと向かう。その教室を覗いてみると、当の本人は席についてティータイムに勤しんでいた。彼の緑茶のように温かい緑色の髪は見つけやすいな、だなんて考えながら歩みを進める。

 ミドリさんは自前の水筒からこれまた自前のコップへと中身を移し、コクリと飲み干す。そしてホンワカと頬を緩める。それをひたすら一人で繰り返していた。中身は多分いつもと同じく緑茶だと思われる。

 私はそんなミドリさんの目の前に立ち、呼びかける。

「ミドリさん。おはようございます。」
「あ、珈夜さんだ~おはよ~。どうしたの~?」

 緩い話し方とふんわり柔らかい笑みを浮かべるミドリさんに少々癒されながら、私は要件を簡潔に伝える。

「今日も放課後に生徒会の仕事があるようです。」
「分かった~。じゃあ放課後になったらすぐ行くね~」
「そうしていただければ。では私はグレンにも伝えねばならないので、これで。」
「は~い。いつもありがとうね~」

 ミドリさんの大きく温かい手はポンポンと何度か私の頭を撫でる。それを享受しながら、私は複雑な思いを心に秘めていた。

 私にその大きな手があれば、その高い背があれば、ミドリさんのように男性であれば。そんなタラレバを考えてしまうのだ。私が男ならシスイ様の騎士としてもっと彼女を助けられるだろうに、と。

 そんな考えをミドリさんに悟られないように真顔を保ち、一度会釈をしてから教室を後にした。









 もう一人の生徒会メンバーであるグレンは三年七組。ここからは遠くて赴くのが嫌になるが、これはシスイ様からの伝言である。伝えないという選択肢はない。そんな義務感で足を進める。

 教室へと向かっていると、その手前の廊下に特徴的な濃い紅茶色の髪が見えた。あんな髪色なのはこの学校でもグレンしかいない。

「……」

 本音を言うならグレンは苦手な分類に入る。シスイ様を否定するから。だからなるべく話したくはないのだが、私もグレンもシスイ様に選ばれた生徒会メンバーである。私情で今期生徒会を壊してはいけない、とグッと怒りを抑えて話しかける。

「グレン」
「さんを付けなさい。先輩なんだから。いつも言っているだろう。」

 グレンの切れ長な目から覗く明るい紅茶あか色は私を咎めるようにスッと細くなる。それに不快感を覚えるがグッと堪え、余計なことを言わないように黙っておく。

「……」
「あーあー、本当お前さんは二年生なのに生意気だよなァ。まあ、生徒会長サマも二年生か。」
「……今日も放課後生徒会デス。」
「はいはい。……というか生徒会長サマは携帯も持っていないのか? 毎回お前さんが伝達係になっているじゃあないか。」
「……シスイ様は携帯を持たせてもらえないらしいです。」
「ふぅん? 今時珍しいな。」
「……。」
「それにしてもそこまで知っているだなんて、相変わらずお前さんは生徒会長サマの犬だな。」
「……」

 私がシスイ様の犬なのは本当だが、その嘲りが混じった声は聞こえない聞こえないあーあーあー。心の中で耳を塞いでおく。

 シスイ様のお家は前時代的なのだろうことは、シスイ様と関わっていると実感する。だが……それだけではないと思ってしまう私がいるのも事実。まあ、勘なのだが。


 何もなければいいけど……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない

めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」 村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。 戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。 穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。 夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

AV研は今日もハレンチ

楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo? AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて―― 薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...