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一章 五月の日常

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 桜も散り、若葉が生い茂る五月。まだ朝だというのに、日に日に暖かくなる風は私の髪も揺らす。それのちょうど良い温度に、ホッと息を吐き目を細める。

 この時期の風は好ましい、などと考えていると、

「シスイ様っ! おはようございますっ!」
「あら珈夜さん。おはようございます。」

 私の背後からタタタッとこちらに駆けてくる音が。振り返ってみると私の幼馴染である珈夜さんが私を見つけて駆けてきたらしいことが分かった。小さな頃から珈夜さんは私のことを『シスイ様』と呼び慕ってくださいます。

 珈夜さんは一応生物的には女性であるが、いつからか男性の装いを好むようになった。それは今も続いていて、現在もここの男子生徒の制服──白いブレザーに緑色のネクタイ、黒のズボン──をキチンと着こなしていた。更に珈琲のような黒髪もベリーショート……でしたっけ、そんな髪型だ。

 昔の女の子らしい姿も良かったが、この姿もとても格好良い。どんな装いをしても似合う人は羨ましいと思った。

「シスイ様、今日は生徒会の仕事はありますか?」
「ええと……そうでした、ありました。いつも通り放課後に集まって頂けますか?」
「もちろんです。ではグレンとミドリさんにも伝えておきますね!」
「いつもありがとうございます。」
「はいっ!」

 お礼を言うと、キラッキラな笑顔を向けてくれる珈夜さん。その笑顔がとても眩しくて羨ましくてキュッと目を細めてしまった。

「では行ってきます!」

 珈夜さんはいつも生徒会の有無を聞いてくれる。忘れっぽい私は毎回珈夜さんに連絡を頼んでしまう。

 ああ、こんな私ではいけない。私は完璧でいなければ。そう今一度気を引き締めながら、今日一日の動きを脳内で予測しておくことにした。








カヨside

 私はシスイ様の言伝を他の生徒会メンバーに伝える為に廊下を早歩きしていた。

(ああ、今日のシスイ様もお美しかった……)

 廊下の窓から入る柔らかい日差しが、シスイ様のお姿をキラキラと照らしていた。まるでスポットライトのようだと思う程。

 澄んだ水色の髪は光に当たって輝いて見え、瞳は海のような深い青で光に当たると水面のようにキラキラと反射して見える。一言で言い表わすなら、あの方は『清水』だ。

(それにしても、シスイ様は今日も忘れて・・・いらした……。私達に連絡することを。)

 シスイ様は完璧だ。しかしある一点だけを除いて、だが。

(またシスイ様は一人で生徒会の仕事をこなそうとしていらっしゃる。私だって今年は生徒会メンバーの一員になれたと言うのに、何故、何故私達を……私を使わないのです!)

 ギリ……と歯を食いしばり、遣る瀬無い思いを噛み砕く。



 シスイ様は完璧が故に、一人で全てを解決出来る力を持つ。だからか、誰かを頼ることを知らない。

 『誰かと一緒に』という言葉はシスイ様の頭の中に全く無い。そこだけは直して欲しいと常々思うのだが、はたしていつになったら直るのやら。

 私とシスイ様が二年生になった今年、シスイ様の生徒会長選挙を経て私も生徒会メンバーになってからは、そのことについて何度も言っている。だからシスイ様は表面的な意味は理解しているだろう。

 しかし本当の意味では理解出来ていない。だから今日も私が聞かなければ一人で生徒会の仕事をこなすつもりでいたのだろう。

 ああ、悔しい。私にもっと力があれば。何度も考えた願いをまた頭の中で反芻する。
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