111 / 127
番外編
藍のバースデー(二年目)
しおりを挟む
あれは……確か小学生の時だったろうか。あの頃はマスターと一緒に住んでいたはず。
ちゃんと食べろ眠れとマスターに口酸っぱく言われ続けていた時代なので、一応朝まで布団の中でゴロゴロしていたんだったっけ。
そしてそうし続けていれば必然的に多少微睡むというもので。
ジリリリリと目覚まし時計が鳴り、寝ぼけ眼で時計に手を掛けようとした。もちろん布団の中からは届かない場所に毎日置いてあるので、布団の中から掴むことは出来ない。
はずだった。
「……ろくじ……」
時計が私の手に収まるようなイメージを持ってぼんやり見ていたら、それが現実になったのだ。この時は寝起き故に頭が働いていなかったから何も変だとは感じなかった。
「……あれ?」
同日。学校に行って何時間か経つと頭もようやく働き始め、朝の出来事を客観的に見ることが出来るようになった。
何故今日は布団から出ずとも目覚まし時計を手に出来たのだろう、と。
「……??」
時計を取る為に布団から出た記憶は無いし、時計を枕元に置いていたわけでもないし……
私の頭の中はハテナでいっぱいになった。そしてこの不思議な現象は何だろう、と解明したい気分になった。久し振りにワクワクしたのを未だに覚えている。
学内で一番の静けさを誇る図書室。ここなら人もまばらだろうから、検証を他人に見られることもないと踏んだのだ。
それ以外にもここを選んだ理由があった。実は読みたい本があったのだが、それが収められているのは私の遥か頭上だった。毎回毎回踏み台を持ってくるのが面倒くさく思って読むのを後回しにしていたのだ。
しかし! もし手の届かない場所にあるモノを自分の意のままに出来たのなら! 面倒が減る!
そんなものぐさ精神で検証を開始した。
「……」
どうすればいいかだなんて分からないので、取り敢えずお目当ての本に向けて手を翳し念を送ってみる。が、ピクリとも動かない。ふーむ……
押してダメなら引いてみろ、かな?
そう考えた私はその本を引き出すイメージを持ってみる。すると……
「あだっ」
見事に引き出すことが出来た。しかしその本は私の頭目掛けて落ちて来た。それも多分角。ゴッ、となかなか凄い音が聞こえた。
私はあまりの痛さに頭をさすりながらしゃがみ込む。涙もジワリと滲む。
(うぐぐぐぐ……)
ここは図書室だからなんとか声は出さないように頑張った。当たった瞬間は無意識のうちに声が漏れ出てしまったが、それ以降は踏ん張った。あの時の自分を褒めてあげたい程痛かった。
痛みが幾分かマシになってから、私は引き出した本を手に持って読書スペースへと移動した。そこに座って考えるのは今の現象のこと。
(これ、普通じゃないよね?)
小学生の頃にはもう既に普通という言葉に囚われていた。だから判断基準は全て『普通か、否か』。
(普通じゃないなら、隠さないと!)
すぐにそう決めて時が経ち、今に至る。
あの頃の自分に言ってあげたい。大切な仲間がのちに出来るよ、と。
ちゃんと食べろ眠れとマスターに口酸っぱく言われ続けていた時代なので、一応朝まで布団の中でゴロゴロしていたんだったっけ。
そしてそうし続けていれば必然的に多少微睡むというもので。
ジリリリリと目覚まし時計が鳴り、寝ぼけ眼で時計に手を掛けようとした。もちろん布団の中からは届かない場所に毎日置いてあるので、布団の中から掴むことは出来ない。
はずだった。
「……ろくじ……」
時計が私の手に収まるようなイメージを持ってぼんやり見ていたら、それが現実になったのだ。この時は寝起き故に頭が働いていなかったから何も変だとは感じなかった。
「……あれ?」
同日。学校に行って何時間か経つと頭もようやく働き始め、朝の出来事を客観的に見ることが出来るようになった。
何故今日は布団から出ずとも目覚まし時計を手に出来たのだろう、と。
「……??」
時計を取る為に布団から出た記憶は無いし、時計を枕元に置いていたわけでもないし……
私の頭の中はハテナでいっぱいになった。そしてこの不思議な現象は何だろう、と解明したい気分になった。久し振りにワクワクしたのを未だに覚えている。
学内で一番の静けさを誇る図書室。ここなら人もまばらだろうから、検証を他人に見られることもないと踏んだのだ。
それ以外にもここを選んだ理由があった。実は読みたい本があったのだが、それが収められているのは私の遥か頭上だった。毎回毎回踏み台を持ってくるのが面倒くさく思って読むのを後回しにしていたのだ。
しかし! もし手の届かない場所にあるモノを自分の意のままに出来たのなら! 面倒が減る!
そんなものぐさ精神で検証を開始した。
「……」
どうすればいいかだなんて分からないので、取り敢えずお目当ての本に向けて手を翳し念を送ってみる。が、ピクリとも動かない。ふーむ……
押してダメなら引いてみろ、かな?
そう考えた私はその本を引き出すイメージを持ってみる。すると……
「あだっ」
見事に引き出すことが出来た。しかしその本は私の頭目掛けて落ちて来た。それも多分角。ゴッ、となかなか凄い音が聞こえた。
私はあまりの痛さに頭をさすりながらしゃがみ込む。涙もジワリと滲む。
(うぐぐぐぐ……)
ここは図書室だからなんとか声は出さないように頑張った。当たった瞬間は無意識のうちに声が漏れ出てしまったが、それ以降は踏ん張った。あの時の自分を褒めてあげたい程痛かった。
痛みが幾分かマシになってから、私は引き出した本を手に持って読書スペースへと移動した。そこに座って考えるのは今の現象のこと。
(これ、普通じゃないよね?)
小学生の頃にはもう既に普通という言葉に囚われていた。だから判断基準は全て『普通か、否か』。
(普通じゃないなら、隠さないと!)
すぐにそう決めて時が経ち、今に至る。
あの頃の自分に言ってあげたい。大切な仲間がのちに出来るよ、と。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
冤罪をかけて申し訳ないって……謝罪で済む問題だと思ってます?
水垣するめ
恋愛
それは何の変哲もない日だった。
学園に登校した私は、朝一番、教室で待ち構えていた婚約者であるデイビット・ハミルトン王子に開口一番罵声を浴びせられた。
「シエスタ・フォード! この性悪女め! よくもノコノコと登校してきたな!」
「え……?」
いきなり罵声を浴びせられたシエスタは困惑する。
「な、何をおっしゃっているのですか……? 私が何かしましたか?」
尋常ではない様子のデイビットにシエスタは恐る恐る質問するが、それが逆にデイビットの逆鱗に触れたようで、罵声はより苛烈になった。
「とぼけるなこの犯罪者! お前はイザベルを虐めていただろう!」
デイビットは身に覚えのない冤罪をシエスタへとかける。
「虐め……!? 私はそんなことしていません!」
「ではイザベルを見てもそんなことが言えるか!」
おずおずと前に出てきたイザベルの様子を見て、シエスタはギョッとした。
イザベルには顔に大きなあざがあったからだ。
誰かに殴られたかのような大きな青いあざが目にある。
イザベルはデイビットの側に小走りで駆け寄り、イザベルを指差した。
「この人です! 昨日私を殴ってきたのはこの人です!」
冤罪だった。
しかしシエスタの訴えは聞き届けてもらえない。
シエスタは理解した。
イザベルに冤罪を着せられたのだと……。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
夫は魅了されてしまったようです
杉本凪咲
恋愛
パーティー会場で唐突に叫ばれた離婚宣言。
どうやら私の夫は、華やかな男爵令嬢に魅了されてしまったらしい。
散々私を侮辱する二人に返したのは、淡々とした言葉。
本当に離婚でよろしいのですね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる