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番外編

藍のバースデー(二年目)

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 あれは……確か小学生の時だったろうか。あの頃はマスターと一緒に住んでいたはず。

 ちゃんと食べろ眠れとマスターに口酸っぱく言われ続けていた時代なので、一応朝まで布団の中でゴロゴロしていたんだったっけ。

 そしてそうし続けていれば必然的に多少微睡むというもので。

 ジリリリリと目覚まし時計が鳴り、寝ぼけ眼で時計に手を掛けようとした。もちろん布団の中からは届かない場所に毎日置いてあるので、布団の中から掴むことは出来ない。

 はずだった。

「……ろくじ……」

 時計が私の手に収まるようなイメージを持ってぼんやり見ていたら、それが現実になったのだ。この時は寝起き故に頭が働いていなかったから何も変だとは感じなかった。






「……あれ?」

 同日。学校に行って何時間か経つと頭もようやく働き始め、朝の出来事を客観的に見ることが出来るようになった。

 何故今日は布団から出ずとも目覚まし時計を手に出来たのだろう、と。

「……??」

 時計を取る為に布団から出た記憶は無いし、時計を枕元に置いていたわけでもないし……

 私の頭の中はハテナでいっぱいになった。そしてこの不思議な現象は何だろう、と解明したい気分になった。久し振りにワクワクしたのを未だに覚えている。






 学内で一番の静けさを誇る図書室。ここなら人もまばらだろうから、検証を他人に見られることもないと踏んだのだ。

 それ以外にもここを選んだ理由があった。実は読みたい本があったのだが、それが収められているのは私の遥か頭上だった。毎回毎回踏み台を持ってくるのが面倒くさく思って読むのを後回しにしていたのだ。

 しかし! もし手の届かない場所にあるモノを自分の意のままに出来たのなら! 面倒が減る!

 そんなものぐさ精神で検証を開始した。

「……」

 どうすればいいかだなんて分からないので、取り敢えずお目当ての本に向けて手を翳し念を送ってみる。が、ピクリとも動かない。ふーむ……

 押してダメなら引いてみろ、かな?

 そう考えた私はその本を引き出すイメージを持ってみる。すると……

「あだっ」

 見事に引き出すことが出来た。しかしその本は私の頭目掛けて落ちて来た。それも多分角。ゴッ、となかなか凄い音が聞こえた。

 私はあまりの痛さに頭をさすりながらしゃがみ込む。涙もジワリと滲む。

(うぐぐぐぐ……)

 ここは図書室だからなんとか声は出さないように頑張った。当たった瞬間は無意識のうちに声が漏れ出てしまったが、それ以降は踏ん張った。あの時の自分を褒めてあげたい程痛かった。





 痛みが幾分かマシになってから、私は引き出した本を手に持って読書スペースへと移動した。そこに座って考えるのは今の現象のこと。

(これ、じゃないよね?)

 小学生の頃にはもう既に普通という言葉に囚われていた。だから判断基準は全て『普通か、否か』。

(普通じゃないなら、隠さないと!)

 すぐにそう決めて時が経ち、今に至る。


 あの頃の自分に言ってあげたい。大切な仲間がのちに出来るよ、と。
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