上 下
110 / 127
番外編

藤のバースデー(二年目)

しおりを挟む
二年目のバースデー小説はそれぞれの能力開花話でしたが、藤は本編で話出てたよなぁ~……というわけで、今回は『藤の日常』回です

──


 俺は学校がある日で暇な時は保健室にいることが多い。何故って? だって俺は治癒のエートスなんだからさ、ここにいれば怪我の手当が出来そうじゃん?

 俺がこの能力だったのにも何か意味があったりしそうだし、これを生かして人助けをしたい。と、常々思っている。

 だからたっちゃん先生から応急処置を教えてもらったり、実際怪我して保健室に来た人の手当をしてみたりしている。まあ、だいたいは断られるんだけどね。俺が音霧だから。

 ただ最近は怖がられる頻度が減ってきたし、俺もずっとニコニコしてるから手当させてくれる人もちらほら出始めた。だから手当しながらほんの少しだけバレない程度に能力使って痛みを軽減させようと頑張ってる所だ。この加減が難しいんだよねー。


 もぐもぐとお弁当を保健室で食べながらそんなことを考える。

「藤、あなたまたここに居座って……」

 たっちゃん先生はそう言って呆れたように溜息をついた。最近はエートスが近くにいる嬉しさよりも、俺に友達がいないのではと心配する気持ちの方が大きいらしい。良いじゃん、音霧の皆と寮で話したりするからボッチではない。心配されることにはなっていないよ。

 それよりも俺の能力を人のためにたくさん使いたい。そんな気持ちの方が俺は大きいのだ。

「先生~膝擦りむいたから絆創膏ちょうだ……げっ」

 見知らぬ生徒Aが保健室にやってきて俺を見るなり『げっ』って声を上げて……

 まあ、こんな反応だよねー。前よりはマシだけど、それでもまだ音霧は怖がられる。特に音霧寮生がいないクラスの人間からは。

「まーまー、俺が手当てしてあげようじゃないか。」
「え、いや、いいです。絆創膏貰えば。」
「まーまー、そんなこと言わずにさ~」
「ひぃぃいいいっ!?」

 せっかく傷をほんの少しだけ治してあげようと思ったのに……見知らぬ生徒Aはドタドタと怯えた声を出しながら走って逃げていった。

「……ちぇっ」

 こんなのばっかりだから能力使う機会がなかなか無いよなぁ~……なんかいい手はないだろうかな~……

 そんなことを考えながら俺は椅子にドカッと座る。あー暇暇暇暇暇!

「あ、あのぅ……」

 暇を持て余していると、また新たな来客が。藍ちゃんの友達、空木ちゃんだった。

「どした?」
「あ、えっと、ちょっと……指を切っちゃって……」
「ちょ、見せて見せて。ついでに治してあげる。そこ座って。」

 この子は俺達音霧を怖がらないし、俺が治癒のエートスだと知っている。だから素直に椅子に座った。

 俺は空木ちゃんに傷口見せてと言うと右手を出した。

「あー、ちょっと血出てるね。傷口に触っても?」
「え?」
「ほら、傷を治すためには触れないといけないからさ。」
「あ、ああ……はい。良いですよ。」
「あんがとー」

 本人の了承も貰えたので、傷口、右手中指に触れる。するとアポステリオリの代償である熱を傷口から感じる。あ、これ見た目より深く切れてるかも。熱の感じ方でそこまで分かった。

 それならこれくらいの力を使えば……



 すぅっ……と傷口の熱が引いていくのが俺も分かった。

「い、痛くなくなった……」
「でしょ。……ほら。」

 傷口に触れていた手を離すと、そこにはもう傷など一ミリも残っていなかった。

「わぁーお。」
「そうだ、怪我した時、他に人いた?」
「え? あ、はい。いました。敦子ちゃんが。」
「あー、あの子か。……他には?」
「いません。」
「そ。ならカモフラージュしなくてもいいかな?」
「……?」

 空木ちゃんは俺の言わんとすることが分かっていないらしい。首を傾げた。

「ほら、俺の力を知っている人だけならいいけど、知らない人が見て『傷が一瞬で治った!』だなんて言われちゃうとあとあと大変だからね。そんな時は数日カモフラージュとして絆創膏貼ってもらうんだけど。」
「成る程。じゃあ今回は大丈夫そうですね。」
「うん。」
「酸漿さん、ありがとうございました!」

 空木ちゃんはそう言って笑った。

「いえいえ~、人の役に立てたならそれで充分だよ。」

 その笑顔を見て、俺の能力をもっといろんな人のために使いたい。改めてそう思った一日だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

七年間の婚約は今日で終わりを迎えます

hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

夫の不貞現場を目撃してしまいました

秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。 何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。 そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。 なろう様でも掲載しております。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

夫は魅了されてしまったようです

杉本凪咲
恋愛
パーティー会場で唐突に叫ばれた離婚宣言。 どうやら私の夫は、華やかな男爵令嬢に魅了されてしまったらしい。 散々私を侮辱する二人に返したのは、淡々とした言葉。 本当に離婚でよろしいのですね?

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...