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番外編

竜胆&茜のバースデー

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竜胆side

 それは今から二日前のこと。母親からの電話から話は始まった。

「はい。母さん、どうされました?」
『りん、今年こそ誕生日ケーキを寮に送っていいかしら? 寮の皆分も送るから一緒に食べて。』
「ああ……」

 毎年恒例の電話だった。そのことで、ああ、そういえば明後日私達の誕生日だったっけ、と思い出す。でも去年まではあまり大っぴらに祝えないということでケーキを送ってもらうのは断っていたんだった。

 あ、でも一昨日も藍さんの誕生日ということでケーキ食べたんだよなあ……。

『今年も駄目かしら?』
「うーん、そうですねぇ……」
『あら? その反応は駄目ではないのね?』
「あ、えと……」
『じゃあ皆はどんなケーキがいいかしら? チョコケーキとか?』
「あの……」
『あ、でもやっぱり王道のショートケーキがいいかしら? それともチーズケーキ?』
「ちょっ、」
『あらどうしたの?』
「あ、えと……一昨日もケーキ食べたので……その……」
『一昨日も? あらどうして?』
「藍さんの誕生日でして……」
『あらあらまあまあ! そうだったのね! じゃあ後で連絡しなきゃ!』
「あ……はい。」

 いつも思っているが、我が母は勢いがある。私はそれにいつもいつも圧倒されてしまう。しかしタジタジになりながらも返事はする。

『さて、じゃあ二日後に届くようにケーキを送るわね。』
「あ、は、はい。分かりました。ありがとうございます。」
『ええ。じゃあそろそろ切るわね。あ、そうだ。皆にまた泊まりに来てねって言っておいて!』
「あ、はい。分かりました。」

 そう言い残してプツンと電話は切れる。はあ、なんか勢いに飲まれて疲れた気がした。













…………
……

 その二日後の九月十六日。母の言う通り寮生全員分のケーキが送られてきた。それを開けると、なんだなんだ、何が来た、と皆が集まってきた。

 一昨日の母からの電話があったという話をすると、皆キラキラと目を輝かせる。

「おお……!」
「一ヶ月に二回もケーキ食べるとか贅沢だね。」
「わぁ……!」
「早速食おうぜ!」

 人数分の皿とフォークを持ってきた茜は一番キラキラとした顔を見せる。確かにこれは茜が好きなお店のケーキだからね、そうなるのも頷ける。私の口角も同じ理由で上がった。

 全員分のショートケーキをそれぞれの皿に乗せ、皆席に着く。

「じゃあ食べましょうか。」
「あ、その前に! 竜胆さん、茜さん、」

『お誕生日おめでとう(ございます)!』



 皆に祝われ、気恥ずかしさと共に心がほんわりと暖かくなった。それは茜もだったようで、頬を染めながらもいつもより嬉しそうに笑っていた。
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