上 下
98 / 127
番外編

七夕

しおりを挟む
滑り込みセーフ!七夕は昨日だなんて聞こえない聞こえない(笑)

─────



「今日は七夕だぁー!」
「素麺素麺!」
「お願い事何にするー?」

 いつものように皆揃ってのんびり登校していると、生徒玄関付近に人だかりが出来ていた。いつもは無いそれに私は驚いてしまう。どうしたんだろう。

 しかしここから少しだけ見えたものから、何故人だかりが出来ているのかは理解した。今日は七夕だから、あれは……

「あ、毎年恒例のアレだな。」
「ですね。生徒からすればある意味行事みたいなものですから。」
「僕もお願い事書いてこよー!」

 てててー、と桃さんは人だかりに向かって駆けて行った。桃さん以外の皆はやっぱりのんびり歩いている。まあ、私もそうだけど。

「龍彦さんも良くやるよね、毎年。あの笹はどっから持ってくるんだろう。」
「本当にさ。」
「……その話の流れからして、もしかしてあの笹を持って来ているのは学園長……ってことですか?」
「そうだよー。」

 なんと! また驚いてしまったではないか! 驚きすぎて『おお……!』と声まで出てしまったではないか!

 学園長直々に毎年笹を生徒玄関に置いているだなんて誰が想像出来ようか。いや、出来ない!

「藍さんも願い事書きます?」
「願い事……そうですね。書きます!」

 願い事はある。二つ。欲張りかな?

「じゃあ行くべ。」
「俺も書こうっと。チョコをたくさん食べられますようにって。」
「俺はどうすっかなぁ……」

 ゆっくりと生徒玄関まで近づくと、人だかりの後ろの方にいた人達は私達に気がついた。

「ひぃっ!」

 あー、私達音霧はまだ怖がられているのかー。クラスの皆が優しいからすっかりそのことを忘れていた。まだ怖がられているという事実に少し悲しくなってしまった。あ、もし願い事書くのに数の制限が無いのなら、もう一つ追加だな。













「ようやく順番が回ってきましたね。」
「だねー。」

 しばらくの間並んでいるとようやく私達の順番が回って来た。笹を目の前にすると、遠目で見て想像していたよりも随分大きかったらしい。見上げる程の大きさに感嘆の声を上げる。

「わぁ……!」

 この大きさなら願い事も叶いそう! ワクワクしながら願い事を取り敢えず二つ書く。もう一つは後で一人の時に書きに来ようと思う。

 簡易テーブルにたくさん置かれた短冊を二枚取り、サラサラと願い事を書いていく。

『皆との楽しい日常がこれからも続きますように』
『私達音霧メンバーが怖がられなくなりますように』

「よし。」

 書けたそれを手が届く範囲に吊るす。うんうん、上手く書けた。吊るされた短冊を見て満足気に口角を上げる。

「藍さん、書けました?」
「書けました!」
「それは良かったです。」
「なんて書いたんだ?」
「教えたら叶わなくなりそうなので言いません。」

 茜さんに聞かれたけれどもサッと背中で短冊を隠す。願いは叶って欲しいからね。

 ゴーン、ゴーン

「あ、皆さん早く教室に行きましょう! 遅刻しちゃいます!」
「そうだねぇ。」

 じゃあ行こー、と茜さんとつーくん以外の三人は校舎内に入っていく。

 鐘の音のおかげで話をそらせたことに安堵し、私の短冊を未だに見ようとする茜さんとつーくんの背中を押して校舎に入る。何ちゃっかりつーくんも見ようとしてるのさ。恥ずかしいから見ないで欲しいのに。

「ほらほら、二人とも遅刻しますよ!」

 ぐいぐいと能力も使いながら二人の背中を押す。













 さて、ただ今昼休みなり。一人で笹の前に来ております。トイレに行くと言って音霧の皆さんを撒いてきました。

「この願いをもし見られたら、きっと……気を遣われるものね。」

 サラサラと短冊に願い事を書く。

『お母さんと和解出来ますように』

 生まれてからずっとお母さんに嫌われてきた。だからこそ仲良く……まではいかなくても、何気ない話を交わせる仲になりたいとずっと思っていたのだ。

「お願い、叶いますように……」

 能力を使って笹の一番上に短冊を結ぶ。その願いが叶う日は来るのだろうか。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

コミュ障な幼馴染が俺にだけ饒舌な件〜クラスでは孤立している彼女が、二人きりの時だけ俺を愛称で呼んでくる〜

青野そら
青春
友達はいるが、パッとしないモブのような主人公、幸田 多久(こうだ たく)。 彼には美少女の幼馴染がいる。 それはクラスで常にぼっちな橘 理代(たちばな りよ)だ。 学校で話しかけられるとまともに返せない理代だが、多久と二人きりの時だけは素の姿を見せてくれて── これは、コミュ障な幼馴染を救う物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!

神桜
ファンタジー
小学生の子を事故から救った華倉愛里。本当は死ぬ予定じゃなかった華倉愛里を神が転生させて、愛し子にし家族や精霊、神に愛されて楽しく過ごす話! 『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!』の番外編を『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!番外編』においています!良かったら見てください! 投稿は1日おきか、毎日更新です。不規則です!宜しくお願いします!

ヤンデレ騎士団の光の聖女ですが、彼らの心の闇は照らせますか?〜メリバエンド確定の乙女ゲーに転生したので全力でスキル上げて生存目指します〜

たかつじ楓*LINEマンガ連載中!
恋愛
攻略キャラが二人ともヤンデレな乙女ーゲームに転生してしまったルナ。 「……お前も俺を捨てるのか? 行かないでくれ……」 黒騎士ヴィクターは、孤児で修道院で育ち、その修道院も魔族に滅ぼされた過去を持つ闇ヤンデレ。 「ほんと君は危機感ないんだから。閉じ込めておかなきゃ駄目かな?」 大魔導師リロイは、魔法学園主席の天才だが、自分の作った毒薬が事件に使われてしまい、責任を問われ投獄された暗黒微笑ヤンデレである。 ゲームの結末は、黒騎士ヴィクターと魔導師リロイどちらと結ばれても、戦争に負け命を落とすか心中するか。 メリーバッドエンドでエモいと思っていたが、どっちと結ばれても死んでしまう自分の運命に焦るルナ。 唯一生き残る方法はただ一つ。 二人の好感度をMAXにした上で自分のステータスをMAXにする、『大戦争を勝ちに導く光の聖女』として君臨する、激ムズのトゥルーエンドのみ。 ヤンデレだらけのメリバ乙女ゲーで生存するために奔走する!? ヤンデレ溺愛三角関係ラブストーリー! ※短編です!好評でしたら長編も書きますので応援お願いします♫

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

棘を編む繭

クナリ
青春
|鳴島シイカは、高校二年生。 小さい頃から人との触れ合いが苦手だが、自分でもその理由が分からない。 シイカはある日、登校途中に寄った町で|御格子《みごうし》クツナという和服姿の青年と出会う。 彼はケガを負った小鳥の傷を「繭使い」によって治した。 そして、常人には見えないはずの繭使いを見ることのできるシイカに、クツナはある誘いを持ちかける。 クツナと共に繭使いとして働くことになったシイカだが、彼女には同時に、不可解な影が忍び寄ってきていた。 彼らを導く運命は、過去から連なり、やがて、今へと至る。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...