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番外編
桃のバースデー
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卒業式も終わったので一つ上の先輩方が卒業していった。そして一、二年生は春休みとなったこの日。
「ねえねえ! 今日は僕の誕生日だよ! りんどうくんケーキ作って!」
朝ご飯を食べ終えてさあ今日はダラダラしようと決めた時、桃さんは竜胆さんに向けてそう言った。そうか、確かに今日三月三日は桃さんの誕生日だったっけ。
言われた竜胆さんはというと目をパチクリさせていた。
「はぁ、ええと、私は万能ではないのでケーキは作ったことがないんですけど……」
「えー、そっかー。」
桃さんはあからさまにがっかりしている。そんなにケーキが食べたかったのだろうか。
「桃、急にどうしたのさ?」
藤さんも同じことを思ったらしい。
「え、だって僕の誕生日ってひな祭りと同じ日で、家だとケーキの上に雛人形の砂糖菓子が乗ってるんだもん。だから家を離れている今、まさに絶好のチャンス! 普通に誕生日ケーキを楽しみたいっ!」
ああ、イベントと同日の誕生日あるあるだね。
「その願いを叶えてあげたいところですが……茜は作れますか?」
「さあ? 知らね。作ったことねえもん。」
「そうですか……。なら誰かお菓子作れる人に聞くのが一番いいと思うんですけどね……何せ今日の今日ですから失敗も出来ませんし。」
「あ、それならいちごちゃんに聞くのはどうですか?」
前に作ったお菓子をもらって食べたらすんごく美味しかったし、適任では? と思ったんだけれども。
「ああ、それいいですね。都合が合えば、ですけど。」
「聞いてみましょうか?」
「お願いします。」
急な話なので都合が合うか分からないけど……どうかな?
文字を打つのが途轍もなく遅いのを自覚しているので電話を掛けることにした。
『はいはーい、いちごです。』
「あ、いちごちゃん? 藍だよ。」
『どしたの藍ちゃん。』
「実はかくかくしかじかで……」
『なるほど。午後からならいいよ!』
「ありがとう! お願いします!」
片手で丸を作って見せると竜胆さんはほっとした表情を浮かべた。
さて午後になり、台所にはエプロンを着けたいちごちゃんと竜胆さんがいた。
最近はずっと一年生二人がご飯担当になっているので、竜胆さんが台所に立っているのを見るのは久し振りだなあ。
「さて、材料も買ってきてもらったし、後は作るのみ! 頑張るぞ、えいえいおー!」
「お、おー……?」
いちごちゃんは気合を入れてケーキ作りに取り組み始める。竜胆さんはその空気に乗り切れていない。
……ああ、そういえば私は台所の入り口で二人の様子を窺い見ています。台所はそんなに広いわけでもないので、戦力外の私がいても邪魔になるかと思って。
「藍ちゃん、二人どんな感じ?」
「わっ、……ええと、頑張るぞ、えいえいおーって感じです。」
「うーん?」
ひょっこり現れたのは藤さん。音もなく近付いてきたのでとても驚いた。
「竜胆が台所に立ってんの見るの久し振りだねぇ。」
「ですね。」
藤さんも私同様台所を窺い見る。
「あ、今回ので竜胆がケーキの作り方を習得したら、今度の俺の誕生日にチョコケーキ作ってくれないかな?」
「それはどうでしょうね……?」
目をキラキラさせて願望を口にしていた。藤さんってチョコが好きなんだっけ。
……まあ、目玉焼きに醤油や塩じゃなくてチョコソースかけようとしていた時もあったくらいだものね。あれはやりすぎだと思うけどチョコが好きだという何よりの証拠(?)だよね。
「そう考えたらお腹空いたなー。」
「え、さっきお昼ご飯食べましたよね?」
「それでもだよ。」
「よーっす、りんはどうだ?」
「茜さん……多分順調です。」
「ふーん。」
三人で台所を覗く。
いちごちゃんに手伝ってもらってケーキは完成した……らしい。まだ見ていないからどうなってるか分からないけれども。
「空木さん、手伝っていただきありがとうございます。ということで一緒に食べていきません?」
「え、いいんですか? もちろん食べていきます!」
いちごちゃんと竜胆さんがとても仲良くなっている。前は竜胆さんも周りが怖くて威嚇する、みたいなところがあったから仲よさそうで安心した。
あれ、藤さん、少しだけ頬が膨れているような……? 気のせいか。
「ねー、食べよー!」
「食べましょう。」
竜胆さんはケーキを持ってきた。皆席に座りケーキを心待ちにする。
「わあ、美味しそう!」
その言葉は誰のものだったか。いや、多分全員の心の声が漏れ出てしまったのだろう。お店で買ってきたと言われても納得する出来だった。
お菓子作りという意味でいちごちゃんと竜胆さんのコンビは最強だと分かった。
「では食べるその前に……」
その言葉に全員で桃さんの方を向いて口を揃える。
『ハッピーバースデー、桃(さん)!』
「ねえねえ! 今日は僕の誕生日だよ! りんどうくんケーキ作って!」
朝ご飯を食べ終えてさあ今日はダラダラしようと決めた時、桃さんは竜胆さんに向けてそう言った。そうか、確かに今日三月三日は桃さんの誕生日だったっけ。
言われた竜胆さんはというと目をパチクリさせていた。
「はぁ、ええと、私は万能ではないのでケーキは作ったことがないんですけど……」
「えー、そっかー。」
桃さんはあからさまにがっかりしている。そんなにケーキが食べたかったのだろうか。
「桃、急にどうしたのさ?」
藤さんも同じことを思ったらしい。
「え、だって僕の誕生日ってひな祭りと同じ日で、家だとケーキの上に雛人形の砂糖菓子が乗ってるんだもん。だから家を離れている今、まさに絶好のチャンス! 普通に誕生日ケーキを楽しみたいっ!」
ああ、イベントと同日の誕生日あるあるだね。
「その願いを叶えてあげたいところですが……茜は作れますか?」
「さあ? 知らね。作ったことねえもん。」
「そうですか……。なら誰かお菓子作れる人に聞くのが一番いいと思うんですけどね……何せ今日の今日ですから失敗も出来ませんし。」
「あ、それならいちごちゃんに聞くのはどうですか?」
前に作ったお菓子をもらって食べたらすんごく美味しかったし、適任では? と思ったんだけれども。
「ああ、それいいですね。都合が合えば、ですけど。」
「聞いてみましょうか?」
「お願いします。」
急な話なので都合が合うか分からないけど……どうかな?
文字を打つのが途轍もなく遅いのを自覚しているので電話を掛けることにした。
『はいはーい、いちごです。』
「あ、いちごちゃん? 藍だよ。」
『どしたの藍ちゃん。』
「実はかくかくしかじかで……」
『なるほど。午後からならいいよ!』
「ありがとう! お願いします!」
片手で丸を作って見せると竜胆さんはほっとした表情を浮かべた。
さて午後になり、台所にはエプロンを着けたいちごちゃんと竜胆さんがいた。
最近はずっと一年生二人がご飯担当になっているので、竜胆さんが台所に立っているのを見るのは久し振りだなあ。
「さて、材料も買ってきてもらったし、後は作るのみ! 頑張るぞ、えいえいおー!」
「お、おー……?」
いちごちゃんは気合を入れてケーキ作りに取り組み始める。竜胆さんはその空気に乗り切れていない。
……ああ、そういえば私は台所の入り口で二人の様子を窺い見ています。台所はそんなに広いわけでもないので、戦力外の私がいても邪魔になるかと思って。
「藍ちゃん、二人どんな感じ?」
「わっ、……ええと、頑張るぞ、えいえいおーって感じです。」
「うーん?」
ひょっこり現れたのは藤さん。音もなく近付いてきたのでとても驚いた。
「竜胆が台所に立ってんの見るの久し振りだねぇ。」
「ですね。」
藤さんも私同様台所を窺い見る。
「あ、今回ので竜胆がケーキの作り方を習得したら、今度の俺の誕生日にチョコケーキ作ってくれないかな?」
「それはどうでしょうね……?」
目をキラキラさせて願望を口にしていた。藤さんってチョコが好きなんだっけ。
……まあ、目玉焼きに醤油や塩じゃなくてチョコソースかけようとしていた時もあったくらいだものね。あれはやりすぎだと思うけどチョコが好きだという何よりの証拠(?)だよね。
「そう考えたらお腹空いたなー。」
「え、さっきお昼ご飯食べましたよね?」
「それでもだよ。」
「よーっす、りんはどうだ?」
「茜さん……多分順調です。」
「ふーん。」
三人で台所を覗く。
いちごちゃんに手伝ってもらってケーキは完成した……らしい。まだ見ていないからどうなってるか分からないけれども。
「空木さん、手伝っていただきありがとうございます。ということで一緒に食べていきません?」
「え、いいんですか? もちろん食べていきます!」
いちごちゃんと竜胆さんがとても仲良くなっている。前は竜胆さんも周りが怖くて威嚇する、みたいなところがあったから仲よさそうで安心した。
あれ、藤さん、少しだけ頬が膨れているような……? 気のせいか。
「ねー、食べよー!」
「食べましょう。」
竜胆さんはケーキを持ってきた。皆席に座りケーキを心待ちにする。
「わあ、美味しそう!」
その言葉は誰のものだったか。いや、多分全員の心の声が漏れ出てしまったのだろう。お店で買ってきたと言われても納得する出来だった。
お菓子作りという意味でいちごちゃんと竜胆さんのコンビは最強だと分かった。
「では食べるその前に……」
その言葉に全員で桃さんの方を向いて口を揃える。
『ハッピーバースデー、桃(さん)!』
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