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13章 テラス団

82 藍side

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※流血注意

─────



 あれからずっと考えているが、どうやって音霧メンバーをここから遠ざけるか、いい案が出ない。頭が働かないのだ。

「ほう、もうここまで来たのか。」

 私の背後に立っているAは関心したような声を出す。耳を澄ませると扉の外からバタバタと足音が複数聞こえてきた。どうしよう、どうしよう。こっちに来ちゃ駄目……!

「ってことはここだな!」

 バタン、と大きな音を立てて開いたこの部屋唯一の扉。その先には音霧の皆さんがいた。

「藤! りんの手当を!」
「了解!」
「お前達、こいつがどうなってもいいのか?」

 背後にいたAが私の首に何かを当てる。ナイフか何かなのだろう、ピリッとした痛みが首を走る。

「お前っ……!!」
「皆さん、竜胆さんを連れて逃げてください! お願い早く!」

 全員に聞こえるように叫ぶ。しかし皆さんはここから出ていく気配はない。

「そうはさせない! こいつらもテラス団に入れてやる!」
「っ……!」

 絶対首の皮切れてるよ。つ、と首を何かが伝う。

「あーちゃん目を塞げ!」
「え……?」

 福寿さんが叫ぶ。

「……っ、仕方ないなっ!」

 一瞬の間の後、耳元から聞こえてきたザシュッと何かが切れる音と、液体が吹き出る音。更にはAの断末魔。何が起きている……?

 音がした方を恐る恐る見てみると、Aの腕がすっぱり切断されていた。

「え……?」

 一体何が起きている……?

「ぐぅぁあああ!!」
「今のうち!」

 ドゴォ、と桃さんが持っていた木刀でAを吹き飛ばす。

 ……今何が起きている? あまりの展開の早さに頭が追いつかない。

 というかテラス団という能力を使って仕事するエートス集団より音霧の皆さんの方が強いとか……すごいね。あまりの驚きに語彙力は消え去った。

「あーちゃん、あーちゃん……」

 福寿さんが縛られていた私の手を解放してくれる。縄は刃物か何かで切ったような断面だった。

「よし、りんと藍を救出したからさっさと出るぞ。桃、お前はりんを持ってくれ。藍は走れるか?」
「そ、それは大丈夫です。」

「待って、藍ちゃんの首の切り傷治してからじゃ駄目?」
「ああ、そうだった。頼む。」
「茜ったらせっかちなんだからー……はい、治療完了っと。」
「ありがとうございます。」

 私の首の切り傷を藤さんに治してもらう。

「……この屋敷を出れば助かる。学園長が応援を呼んで来てくれたみたいだからな。」

 茜さんは未来を見たのかな? 断定しているということは。

「えー、もうほとんど俺達(?)が倒しちゃったじゃん。龍彦さん遅ーい。」
「いや、早い方だな。見たところ警察のような人達もいる。だが『エートス』っつう存在を取り締まれるもんなのかどうか……」

「大丈夫じゃない? テラス団は誘拐紛いのことをやらかしたんだから。こっちは軽くだけど傷は治したんだし正当防衛ってことで何も言われないでしょ。」
「そうだな……」

 その言い方だと一時正当防衛以上の怪我を負わせたって聞こえなくもないような……?

「つばっち強すぎるんだもん! 仕方ないよ!」
「福寿さんが……?」

 (馬鹿力の)桃さんに言われるとは……福寿さん何をしたんだろう?

「……。」

 福寿さんは福寿さんで黙りこくっちゃってるし。それも深刻そうな顔で。

「福寿さん……?」
「……………………。」

 ふいっと目線が外れる。なんか一人で抱え込んでるなー。一体何があったんだろう。

「椿、後でゆっくり話を聞かせてくれ。俺達は皆仲間なんだ。もちろんお前もその中の一人だからな。だから心配すんなや。」
「……。」

 茜さんのその言葉に福寿さんは返事をすることなく歩き始めた。

「ま、取り敢えずこっから出ようぜ!」









 結果から言えばテラス団は今回のことで、今までこなしてきた犯罪紛いの依頼のことも暴かれ、捕まった。世間にはエートスのマイナスイメージが着いてしまっただろう。私達がより一層居づらくなることになるかもしれない。
















 さて、所変わって私達は今病院にいる。外傷は藤さんが治したけど、それでも尚竜胆さんが目覚めないのだ。

 竜胆さんの病室に音霧メンバー全員と学園長が集まった。

「で、今回の依頼主は誰か聞いてない? テラス団が動くということは依頼人がいるということ。もし情報を持っていれば提供して欲しい。」
「え、ええと……」

 学園長にそう聞かれるが、どう答えればいいかな。でも身内の出来事に皆さんを巻き込んでしまったのだから素直に話さないとだよね。

 一度深呼吸する。よし、話して謝ろう。

「ええと、私の母です。」
「え?」
「マジ?」
「死んだんじゃなかったの?」

 皆さんの反応はごもっともです。まずはそこから話そう。

「実は冬休み最終日の夜、マスターから電話があったんです。」
「龍二からかい?」
「はい。そしてその内容は私の母が目を覚ましたというものでした。」
「目を覚ました?」

「はい。今までずっと昏睡状態だったらしいのですが、急に目を覚ましたらしくて。そして目を覚ました母はテラス団に私を殺すように依頼した、というのがこの件の真相です。多分。」

 聞いた情報を集約するとこんな感じ。多分合っているだろう。あの母親だ。何をしでかすか分からない。

「すみませんでした。身内のことに皆さんを巻き込んでしまって。」

 立ち上がって頭を下げる。皆さんを危険に晒してしまったのだから。

「……花蘇芳さんが謝ることはない。その話が本当ならむしろ私の方が謝らないといけなくなる。」
「……え?」

 学園長は何を言っているの?

「私の妹がすまなかった。今回の件だけでなく、幼少の頃から妹は君に酷い仕打ちをしていたと後々になってから聞いた。止められなくてすまない。」
「え、ちょっと龍彦さんどういうこと?」

 この中の誰一人として学園長の言うことが分からないでいた。

「……君のお母さんの花蘇芳 鈴は、旧姓杜若 鈴。私の妹だ。」
「え、」

『えええええー!!?』

 学園長以外の全員の声が室内に響き渡った。それくらい衝撃的な事実だったのだから。もちろん私も叫んでしまった。

「龍彦さんの妹が藍ちゃんのお母さん……あれ、じゃあストレリチアのマスターとは?」
「龍二とは従兄弟だよ。」
「なるほど、だから龍彦さんとマスターの雰囲気が似てたのか。」

「……ってことは学園長が私の伯父さん!?」
「そうなるね。」
「えー、じゃあなんで姪の藍ちゃんがその事実を知らないわけ?」

「いやぁ、深い訳はないんだけれどもね。鈴は花蘇芳家との結婚を親から反対されて駆け落ちのように家を出て行ってしまってね。私達もあまり触れないように鈴のことは一時放っておいたんだ。だから鈴が言わない限り私達のことは知りようがなかったんだ。まあ、言い訳だね。」

 そうだったのか……。あまりにも衝撃的な事実に頭が上手く働いてくれなかった。

「だから花蘇芳さん……いや、藍ちゃん。これからは伯父である私を頼ってくれてもいいんだからね。」
「あ、えと、ありがとうございます。」
「まあ、だいたいの事柄は分かったし、そろそろ帰るかな。皆も一度寮に帰るんだよね?」
「帰るよー。面会時間は限られてるからね。」
「そうかい。じゃあ皆も気をつけて帰るんだよ。」
「はーい。」

 じゃあお先にね、と学園長は一足先に帰っていった。
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