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12章 冬休み その三

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 色々あった次の日。自室でさしみをぎゅっと抱きしめながらベッドにごろん、と寝転がる。

 今日は冬休み最終日なので特にどこかに出掛ける用事もない。だからだらだらしていようと思う。色々と心を落ち着ける時間も整理する時間も欲しいし。

 昨日は『計画』について知ってあまりの衝撃で死に急いでいたが、もう少し冷静になれていれば茜さんにも竜胆さんにも迷惑を掛けなかっただろうに。反省しかないね。

 それと花蘇芳の花言葉を気にせずいつも通り関わってくれる皆さんに感謝だよね。今日皆さんに花蘇芳の花言葉についてと離れた方がいいだろうことを伝えてみたら、『それが何? 離れる理由にはならない』と言ってくれた。

 皆さんの為にも花蘇芳の私は一人になった方がいいだろうが、人と共にいることに慣れてしまった今、もう独りには戻れない。多分寂しさに押し潰されるだろう。だから有難かった。この縁を大切にしないといけないよね。


 記憶を思い出してからはずっと疑問に思っていた『計画』のことで頭がいっぱいになっていて冷静を保てていなかったように思えるし、それの中身を知ってからもその計画に囚われ過ぎた。

 学校が始まる前に一呼吸置いておこう。

 実際に一度深呼吸し、気持ちを落ち着ける。

『悲しんでいるあなたを愛する。』

 落ち着けた所で昨日の竜胆さんの言葉をふと思い出してしまった。ぼふ、と顔が熱くなる。

「ああああ愛だなんて……」

 さしみのお腹に顔を押し付ける。

 告白されるのも人生初だからどうしていいのか分からない。もう今までのように竜胆さんと話すのも難しいだろう。

 朝ご飯の時だって顔を見ただけで私の顔が熱くなってドキドキしてしまったのだから。さっきはすぐ顔を逸らしたけど、毎回そうもいかないだろうし……。

「でもちゃんと考えて答えを出さないとだよね……」

 ……あれ、考えるとは言ったけど、何から考えればいいのかな……?

「んんー……?」

 そもそも恋とは何ぞ。……調べてみるか。

「スマホの……どれが調べるやつだっけ。」

 私は本当に現代人なのだろうか、と疑問に思う程に機械音痴だった。さて、これはどうしよう。

「図書館にでも行ってみるかな。」

 スマホの使い方が分からないのなら辞書を使えばいい。後は恋愛物の小説とかもあれば何か分かるかもしれない。そうと決まれば行動あるのみ。

 花学の図書館には行ったことがないし、この機会に行ってみよう。














 玄関で靴を履いていたら、誰かが二階から降りてくる足音が。

「……あーちゃん? どこに行くんだ?」

 足音の正体は大きめのトートバッグを持った福寿さんだった。福寿さんもどこかに用事かな?

「少し学内の図書館に。」
「……偶然だな。俺も今から行こうと思っていた。俺も一緒に行ってもいいか?」
「あ、はい。もちろん。」

 もしかしてそのバッグに本が入ってるのかな。見た感じ一冊二冊ではなさそうだ。

 外へ出ると寒さに一度肩が震える。福寿さんは大丈夫だろうか。

「福寿さん寒くないですか?」
「……大丈夫だ。」
「そうですか。」

 それならよかった。

「……今日は何か本を読みに行くのか?」
「はい。それと調べ物を少し。」
「……そうか。」

 それ以降は特に話すこともなくぽてぽてと学内を歩く。言葉は少ないけど福寿さんの近くにいるだけで癒される。これはつーくんとのやり取りを思い出したからなのだろうか。分からないや。















「……じゃあ俺は本を返してくる。」
「はい。では私も彷徨いてみます。」
「……ああ。」

 福寿さんと別れ、まずは辞書を探す。少し歩くと棚の上の方に辞書があるのを見つけた。

「届かない……」

 何故辞書がこんな上の方に置かれているんだ。学校なんだから余計取りやすい場所に置いておくべきでしょう。……どうしようかな。

 辺りをキョロキョロと見回して誰もいないことを確認する。

「よし。」

 ふわりと辞書に能力を使って私の手元に置く。私の能力便利なり。後は恋愛小説を……

 近くにあった小説を取ろうとすると肩を叩かれる。振り返って見てみると、肩を叩いたのは福寿さんだったようだ。

「……もしかして恋愛小説探してるのか?」
「はい。」
「……それならこっちの方が主人公の心情が細やかに書かれているからオススメだ。」

 と、隣の棚から一冊取り出した。

「そうなんですね。ではこれを読んでみます!」
「……ああ。」
「福寿さんは本が好きなんですね。」

「……ああ。普段生活している上で感情を出さないようにしているが、本の中では思いっきり感情を出しながら読んでも大丈夫だからな。だから本は好きだ。」
「大丈夫……ですか?」
「……ああ。何度も試したが大丈夫だった。だから安心して本に集中出来る。」
「そ、そうなんですね。」

 ちょっと福寿さんの言わんとしていることが分からない。何が大丈夫なのだろう。

『普段感情を出さないようにしている』

 とはどういうことなのだろう。

「感情を出してはいけないのですか?」
「……ああ。俺は感情というものを殺さないといけないからな。」
「そう、なんですか……」

 それ以上は聞けなかった。福寿さんが醸し出す雰囲気的に。













 辞書と小説を借り、寮に戻ってきた。さて、と辞書を鞄から取り出そうとしたその時、マスターから電話が掛かってきた。どうしたのかな。

「もしもし?」
『おお、藍か。……えっと、その……』
「どうしたの?」

 歯切れの悪いマスター。本当にどうしたのかな。

『すー……はー……。藍、よく聞け。鈴が……お前の母親が……目を覚ました。』
「え、お母さんが……?」

 どういうこと? 目を覚ました? 死んだ訳ではなかったということ?

 疑問と不安が次から次へと溢れ、更に手も足も震える。

『実はあの日から今まで昏睡状態だったんだ。それが急に目を覚まして……な。』
「そ、そうなんだ……。」

 そっか、生きていたんだ。

『見舞いには行かない方がいいと思う。鈴はお前と心中するくらいだ。また同じことを繰り返さないとも限らないからな。』
「分かった。」

 嫌いにはなれなくても、やっぱり怖いもの。マスターにそれを悟られないように話すので精一杯だ。声、震えてないよね?

『その方がいい。まあ、それを伝えたかっただけだ。じゃあまた。近々ストレリチアにも来いよ?』
「うん。」

 電話が切れた瞬間かくんと足に力が入らなくなり、その場に崩れる。

  怖い、怖い、怖い……
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