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11章 冬休み その二

70 竜胆side

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「ん……」

 とてもよく眠れたようで、目覚めた瞬間から頭がスッキリしているのが分かった。今は何時だろう。

「五時半……」

 まあ、いつも通りと言えばいつも通りの時間か。でもまあ家にいるうちは母さんがご飯作ってくれるし、もう少し寝ていても……

「……ん?」

 私、抱き枕持ってたっけ? いつもはない違和感に、視線をそれに向ける。

「藍さん……?」

 すぅすぅとまだ眠る藍さんを眺めていると、昨日のやり取りを全て思い出した。

「っ……!!!」

 藍さんにあんなみっともないところを見せてしまった挙句、一人は嫌だと駄々をこねる。エトセトラ、エトセトラ……。恥ずかしくて顔が熱くなる。

 昨日の自分はどうにかしていた。父さんに少し言われたくらいであんなにも気落ちしてしまうなんて。

 藍さん、私のこと面倒くさい人間だと思ったはず。ああ、過去に戻れるなら戻りたい。こんな格好悪い私を見られたくはなかった。好きな相手には格好つけたかったのに……

 今からでも取り返せるかな。……いや、無理だろう。あああ、どうしよう。

「竜胆さん? 大丈夫ですか?」
「……、」

 一瞬呼吸が止まる。驚きすぎると呼吸が止まるのね。知らなかった。

「……大丈夫です。」

 その一言だけをなんとか絞り出す。はて、藍さんはいつから起きていたのだろうか。もしかして自己嫌悪に陥っていたところを見られた?

 これ以上情けないところは見せられないのに……

「……大丈夫じゃなければ、大丈夫だと言わなくていいんです。私の聞き方も悪かったですね……どうされましたか?」
「……昨日の私はどうかしていました。すみませんでした。」
「何故謝るんですか? 謝るようなことは何もしていないでしょう?」
「完璧じゃない私なんて……」

 完璧ではない私を見てくれる人はいないのだ。だから完璧でないと……

「えー、完璧なのもいいですけど、そうじゃない方も人間味があって私はいいと思うんですけどね。」
「人間味……?」
「はい。人間誰しも得意なことも苦手なこともあるでしょうから、完璧にこだわりすぎない方がいいかと。」
「……。」
「竜胆さんはもう少し気楽に生きてみてもいいのではないでしょうか。」

 気楽……か。

「気楽に生きても……いいんですか? 失望しませんか?」
「もちろんしませんよ。」
「……そうですか。」

 藍さんは即答した。完璧でない私に失望しないと。

「ありがとうございます。」

 その言葉にふっと肩の荷が降りた気がした。そして肩の荷が降りたことで、藍さんへの気持ちも溢れてくる。

「……好きなんだよなあ。」
「あ! 好きなもの見つかったんですね。良かったです!」
「……、」

 ……あ、やば。口に出してしまっていた。気緩みすぎだろ、私。

 充分アピールして藍さんが私に好意を抱くまでは黙っていようと思ったのに。

 私の好き発言を聞いて嬉しそうにふにゃりと笑った藍さん。あー、これは気づいてない。その笑顔は可愛いけど。思わずジト目で見てしまう。

「ちなみに何が好きなのか、聞いても?」

 わくわく顔で言われてもなあ……。なんかここまで意識されないと分かるとイライラしてくる。ここまで私の感情が顕になるのも珍しいよね。

 というかぶっちゃけてもいいよね? 遠回しに言って意識されないよりも直球でぶつけて意識してもらう方がいいのかもしれない。よし、作戦変更。

「藍さんが好きなんですけど?」
「……………………へ? 私?」
「勿論恋愛的な意味で、ですよ?」

 藍さんは数秒考えた後、ぼふっと顔が赤くなった。ふふ、その顔も可愛い。

「あわわわわ……」

 赤くなった顔が果物のようで。美味しそうだな、と頬に口を付ける。

「うわあああ!」

 すると、藍さんは走って部屋を出ていった。……これはどっちだ? 嫌がられた? それとも意識してくれた?

「うーん……」

 難しいや。














藍side

 私がここ何日間か泊まっている部屋に駆け込んだ。バタンと扉を閉め、その場に蹲る。

 情報過多で頭が働かなくなる。えっと、今何が起こった……?

「竜胆さんが……頬に……」

 口付けを……

「うわあああ!」

 無理恥ずかしい! 友達ですら花学に来てから初めて出来たのに、そんな私に恋愛はハードルが高すぎる。

「でも……」

 嫌、とは感じなかった。なんでだろう。

 いやいや、それよりも次竜胆さんと顔を合わせる時どうすればいいのかを考えないと……

 朝食の準備までの時間、そればかりを考えていたのだった。















「お世話になりました。」

 なんとか竜胆さんの顔を見ないように頑張り、ついに帰る時が来た。小雪さんは名残惜しそうに見送ってくれた。

「まあ、また近いうちに来るだろうし、そんなしんみりすんなや。」
「そうね。皆、また来てね。」
「はい!」


 再び寮生活が始まる──。
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