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10章 冬休み その一

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 だし巻き玉子効果で、山吹さんと話していても普通を装えるようになった。まあ、十回に一回はあの事件を思い出してぎこちなくなるけど、それでも普通を装えるようになった方だ。三人に相談して良かったと思う。

 文化祭後から寮の中では白髪を隠すこともしなくなった私は、白髪灰色目のままソファに座ってこの数ヶ月のことを振り返っていた。


 クラスメイトには──主に天部さんだが──白髪で学校来なよ、と何度も言われているのだが、未だに怖くて黒髪で学校へ行っている。まあ、いつかは白髪で行ければいいのかな、とは思い始めているところだ。


 そして期末テストも無事に終わった。いちごちゃん達も夏休み前のテスト同様に頑張り、赤点回避したらしい。私も前回同様学年二位だった。やっぱり山吹さん強い。


 と、特筆する事件も起こらず平和だった。

 後は冬休みになるのを待つだけになったので、さて、冬休みになったら何しようかな、と考えてみるが……

「……あれ、特に思いつかないや。どうしよう。このままだと暇を持て余すだけだよね。なにか無いかな……」

 夏休みは文化祭の準備を主に、何度かストレリチアに行ったりもしてたけど……

「藍さん、冬休みの予定はありますか?」

 ぶつぶつと独り言を呟きながら考えていたら山吹さんが冬休みの予定を聞いてきた。いいタイミングと言えばいいのか、悪いタイミングと言えばいいのか。

 よし、だし巻き玉子だし巻き玉子……オーケー、普通を装える。

「……全く無いです。」

 寂しい高校生だと思われてしまうかもしれないが、無いものを有るとも言えないし。仕方ないが正直に話してしまおう。

「ストレリチアにも行かないんですか?」
「まあ、何度かは行こうかと思っていますが……予定と言えるほどのものではありません。」
「そうですか。あ、泊まりとかはありませんか?」
「……? 無いです。」
「分かりました。ありがとうございます。」
「……??」

 何故お礼を言われたんだろう……? 表情に出ていたのか、その疑問に答えてくれた。

「実は……冬休みになったら家に帰ってこいと母に言われまして。しかしそうなると寮に料理出来る人がいなくなってしまうので、予定がないメンバーで我が家へ一緒に行きませんか、というお誘いをしようかと思っていました。」
「ほうほう……?」
「というか一緒に行きましょう。残ったメンバーだけだと栄養バランスのいい食事が取れないと考えるだけで夜も眠れるかどうか……」

 わあ、悩み方がお母さんだ。お母さんがここにいる。

「お母さん……」

 私にもお母さんがいればこんな感じだったのかな。母親がいた事なんてないから知らないけど。

「藍さんまでそんなこと言うんですか!?」

 心外だ、とでも言うような気迫だった。『まで』ということはもしかして他の誰かにも同じことを言われたのかな。お母さんって。

「私はそんなに母親のようなんですか……? いやでも私は普通の男子高校生ですよ……母親では……母親では……」

 ぶつぶつと独り言を呟きながら頭を抱える。あ、相当悩んでる感じだ。

 山吹さんにお母さんみたいと言うのは地雷のようだ。これからは言わないでおこう。

「す、すみません。おか……山吹さん。」

 危ない、またお母さんって言うところだった。どうしてもお母さんっぽいと思ってしまい、無意識で声に出てしまいそうになる。

「りんどうくんどうしたの?」

 ひょっこりと顔を出した桃さん。頭を抱えた山吹さんを見て心配そうにしていた。

「桃さん……私が山吹さんの地雷を踏んでしまったようです。」
「りんどうくんの地雷……あ、『お母さん』?」
「ぐふっ……」

 それで通じるのか。一応遠回しに言ったつもりだったけど。そして山吹さんは再び打撃を受けていた。そんなに悪いことでもないと思うけどなあ……

「で、なんでそんな話になったのさ?」
「かくかくしかじか……」
「ああ、りんどうくんのお家に行くやつね。」
「はい。」

 もう既に桃さんには話がされていたようで詳しい説明は不要だった。

「お母さん発言は気にしなくていいよ? 実際お母さんだし。」
「そうなんですか? まあ、お母さんなのは否定しませんが。」
「うん。それよりもあいさん行かないの? 僕達全員行くよ? 暇だし。」

 皆さんも暇だったのか……。でもどうしようかな。

「うーん、行ってもいいものかと悩んでいます。何せお泊まりは人生初なもので。」
「それも気にしなくていいと思うよ?」
「そうですか?」
「うん! あんまり気負いすぎない方がいいよ。僕なんてやったー、お泊まりーぐらいの気楽さでいるし?」
「なるほど……分かりました。山吹さん、私もお邪魔します。」
「……ああ、はい。一緒に行きましょう。」

 なんとかショックから抜け出した山吹さんはいつも通り笑って答えてくれた。

「はい!」

 お家にお邪魔するし、手土産を準備しなくては。俄然気合いが入るのだった。
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