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1章 いざ、花学へ!

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「……各自の部屋は二階にある。」

 階段を上ったところで福寿さんはそう教えてくれた。確かにそこにはいくつもの扉があった。その扉は全部で七つ。寮生は私含めて六人なので、あと一つは空き部屋なのかな。

「……花蘇芳は左奥だ。」

 教えられた場所の扉を開けると、机とベッドとクローゼットが既にそこに置かれていた。私の荷物は最低限しか持ってこなかったので少し心配していたが、これなら何不自由なく暮らせそう。部屋に荷物を置いたところでさらに福寿さんが教えてくれた。

「……俺は隣の部屋だから、何かあればいつでも来い。」
「ありがとうございます。」

 ここ、と教えてくれた扉の先が福寿さんの部屋らしい。よし、覚えた。

「ちょっとつばっちー! どこ行ったかと思ったじゃん!」

 ドタドタと階段を上ってきたのは桃さん。つばっちって福寿さんのあだ名……なのかな。椿だからつばっち? ゆるキャラとかにいそうな名前だね。

「……桃、つばっちはやめろといつも言ってるだろ。」
「えー? 駄目ー?」
「……駄目だ。」
「でもこれはつばっちの怖いイメージ払拭のための第一歩なんだよ!」

 怖いイメージ? 怖い雰囲気はあるかもしれないが、私は福寿さんが怖いと思ったことないけど……。まあ、今日出会ったばかりなのでなんとも言えないかもしれないが、今のところ一度も怖いと思ったことはない。福寿さんはどっちかといえば優しくて癒しキャラではないだろうか。髪色とか目の色とか親近感が湧くし。

「それよりもさあ、僕あの場に居られなくて逃げてきちゃったから、こっちでお喋りしない?」
「……それがいい。花蘇芳、いいか?」
「あ、はい。」

 特に拒否する理由もないのでその通りにする。

「あいさんの部屋まだ何もないから僕の部屋来る? 座布団くらいなら出せるし。」
「いいんですか?」
「もちろん!」

 ということで私の部屋を出たのだが、桃さんは急に立ち止まる。

「あ、そうだつばっち、皆の部屋がどこか教えた?」
「……俺のは教えた。」
「自分のだけかい!」
「……ああ。」
「じゃあ僕が教える! ここがりんどうくんでその隣がふじくん、その隣があかねくん。で、その目の前が僕! 一番奥は誰も入ってないよ!」

 教えてくれた通りであるならば、

 山吹 藤 柊木
藍       空き
 福寿 階段 桃  (敬称略)

となる。ふむふむ、覚えた。

「じゃあ僕の部屋へレッツゴー!」

 レッツゴーと言うくらい距離は離れていないけどね。福寿さんの後に続いて桃さんの部屋に入る。

「失礼します。」

 全体的に赤やオレンジのような暖色で纏められた部屋だった。ここにいるだけで体が先程よりも温かくなった気がする。冬場とか特に気分的にも暖かくなりそう。

「ああもう畏まらないでよ! さっきも言ったけど僕達あいさんの一つ下なんだよ? だから敬語も要らない!」

 今までずっと背負っていた黒い物──細長い布製の袋だった──を机に立て掛けながら話し始める桃さん。

「ですが……」
「……無理にとは言えないが、タメ口で話してくれた方が嬉しい。」
「そう、なんですか……?」
「……ああ。」
「そうだよう! 敬語口調だとちょっと距離を感じちゃうもの。りんどうくんのも直してくれると嬉しいんだけどねー。」

 ここまで言われてしまうと直さないといけない気がする。

「が、頑張ってみま……頑張る。」
「うん!」






「ねえ、そういえばさー、つばっちとあいさんって顔見知りなの?」
「……? どういうこと?」

 何度も言うが福寿さんとは今日初めて会ったのだが、何故知り合いだと思われているのだろう。

「つばっちって極度の人見知りというか、人嫌いというか。初対面の人とは全くと言ってもいいほど話せないんだよ。だからなんで今日あいさんと何事もなくお喋り出来てるのか分からないんだ。」

「へ、へえ……」

「僕達でさえも出会って最初の数ヶ月はほとんど喋らなかったんだよ? 首振ったりとかで意思疎通は出来たけど、声を聞いたのは花学入ってから二、三ヶ月は経ってからだった!」

「え……」

「だからつばっちとあいさんはどこかで会ったことがあるから今日普通に話しているのかなって。」

 ……あれ、どこかで会ったっけ? そこまで言われると考えてしまう。いやしかし会ったことなどないはず。銀髪で桜鼠色の目で黒マスクしている人とか一回見れば忘れない。ならば初対面で合っているはず。

「……何となく、花蘇芳は怖くないと思った。」
「つばっちに限ってそんなことあるー?」
「……あるから今こうやって花蘇芳と話している。」

 何故私は大丈夫なのかな。見た感じいい人っぽかったのだろうか。……今までは嫌われてばかりいたけど……。

「ほんとびっくりだよねー。」
「ふぉっ!? ふじくん!? どうしてここに!?」
「普通に扉少し開いてたからねえ。ってことで俺も混ぜてよ。」

 私と福寿さんは扉の方向を向いていたので、驚いたのは桃さんだけ。いい驚きっぷりで面白いです。

 藤さんは私の隣に座り、手を広げる。

「もうあの二人の相手するの疲れたから藍ちゃん癒してー。」
「いや、私に癒しを求められても……。」

 こんな可愛げのない私に癒しを求めるほど疲れているのだろうか。それは大変です。

「福寿さん、藤さんに頭ポンってしてください! きっと藤さん癒されますよ!」

 さっき体験したから分かる。福寿さんの手には癒しの力があると。私が黒い何かに飲み込まれそうになった時に福寿さんにポンってされたら、すっと気が楽になった。

「嫌だよ。なんで椿に頭を撫でられなきゃいけないのさ。」
「……俺もやりたくない。」

 それは藤さんも同じなのでは、と思っての発言だったが双方嫌そうな表情。

「ってか、癒しは椿じゃなくて俺だよねー。」
「……ならば自分で自分を癒せばいいだろう。」
「分かってるくせに。俺のは傷にしか効かないって。」
「……分かってて言ってる。」

 皆さん何の話をしているのだろうか。なんか別次元の話をしている気がする。ここは黙って様子を見ようと思う。

「ってことで藍ちゃんが癒してよ。」

 傍観していた私に急に話題を振られる。えー、やりたくない。なんか恥ずかしいじゃない。

「ええと、では桃さんがやればいいと思います。可愛いですし。」
「えー、僕可愛いー?」
「桃に頭を掴まれたら骨折れそう。」
「……確実に折れるな。」

 どんな馬鹿力だよ。頭掴んだだけで骨折れるとか。怖い。

「えー、そこまで言われると折らないといけなくなるよねー!」

 にっこり、満面の笑みでそう宣う桃さん。背筋が凍ったのは私だけではないはず。

「あは、今元気になったよ。ということで桃は何もしなくていいからね。」

 身の危険を感じたらしい藤さんは顔を青ざめながらやんわり断った。多分その行動は正解です。

「あ、そう? 分かったー。」

 桃さんを除く三人で顔を見合わせ、ほっと息をつくのだった。
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