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二章
十六・二 アリーズ
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「さて、待ってもらって悪かったね。」
「ん……」
それからしばらくして。やっと仕事に一区切りついたところで資料に落としていた目線を上げると、マロンは頭をユラユラと揺らし船を漕いでいたのが見えた。返事はもはや意味あるものですら無いのかもしれない。
それら全てから眠いのを我慢しているサマを見せつけられたようで、待たせてしまった申し訳なさに駆られる。
……いつも嫌味やら何やら毒吐いているくせにと言われそうだが、マロンが嫌いなわけではないのだ。むしろその逆。
十二星座としての本能というか、よく分からない力のようなものが『マロンこそがポラリスである』と言っているから。まあ、それが無くともマロンの一生懸命な所は好感が持てるし。
だから我輩が出来ることといえば『どうすればマロンをポラリスの座に就かせられるか』を考え、実行するだけ。
「ほらマロン起きてー」
その過程で発破をかける意味で言いすぎる自覚はあるのだが。しかし己がマロンから嫌われることと、マロンがポラリスになれないこと。この二つを天秤にかけたら後者の方が苦痛だ。だから鬼にでもなんでもなってやる。
「……仕方ないね。」
誰に言うでもないそんな内心などおくびにも出さずに、返事はしたものの立ち上がることもなくカクカクと船を漕ぎ続けているマロンを抱き上げて己の部屋へと向かうことにする。
マロンをベッドへと寝かせ、自分も眠る準備をしていく。サッとシャワーを浴び、ラフな格好に着替え、その他細々とした準備をも今終えたところだ。鏡に映る強い外ハネの青髪を忌まわしげに睨みながら。
いつもは外ハネになりすぎないように毎朝髪をセットしているのだが、まあ、それは置いておいて良い。何故って言われても、今どんなに足掻いても生まれは変わらないのだから。
さて、と気を切り替えて自分もマロンの隣へ潜り込む。我輩の仕事柄、いつでも身体をベストな状態にする義務がある。いつこの世界に何が起こっても対応できるように。だからソファーで眠るだなんてことは一ミリも考えなかった。
それに同性だから良いだろう。そう考えて眠ったのを後悔するだなんて、この時の我輩は思いもよらなかった。
「アリーズちゃん! 起きてる!? マロンがいなくなったの!」
バァンと叩きつけるように開いた自室の扉と、焦ったようなトーラスの大声で目を覚ました。
「ん……トーラス、どうした……」
「マロンと一緒に朝食を摂ろうと思って部屋に行ったんだけ、ど……キャーー!!!?」
寝惚けている間にもトーラスはペラペラと一人で喋り続け、その後野太い悲鳴を上げた。我輩は思わず耳を塞ぐ。
「五月蝿っ」
「ちょっとアリーズちゃん!? ななな何故マロンと……!?」
「むにゃ……?」
トーラスの悲鳴やら大声やらでマロンも目覚めたらしい。しかしトーラスは何かよく分からないことばかり音にしていて、マロン共々頭にハテナを浮かべ続ける。
「ええと、ええと……リーブラちゃん!!」
そしてトーラスはその後すぐに何故かリーブラの名前を呼んで部屋を出ていった。ええ、当事者(仮)なのに状況が掴めないんだが……。
「……取り敢えず、朝の支度をするか。」
「うぃっす。」
マロンも同じように混乱しているらしく、とにかく我輩の言葉に肯定するしか出来なかったようだった。
「ん……」
それからしばらくして。やっと仕事に一区切りついたところで資料に落としていた目線を上げると、マロンは頭をユラユラと揺らし船を漕いでいたのが見えた。返事はもはや意味あるものですら無いのかもしれない。
それら全てから眠いのを我慢しているサマを見せつけられたようで、待たせてしまった申し訳なさに駆られる。
……いつも嫌味やら何やら毒吐いているくせにと言われそうだが、マロンが嫌いなわけではないのだ。むしろその逆。
十二星座としての本能というか、よく分からない力のようなものが『マロンこそがポラリスである』と言っているから。まあ、それが無くともマロンの一生懸命な所は好感が持てるし。
だから我輩が出来ることといえば『どうすればマロンをポラリスの座に就かせられるか』を考え、実行するだけ。
「ほらマロン起きてー」
その過程で発破をかける意味で言いすぎる自覚はあるのだが。しかし己がマロンから嫌われることと、マロンがポラリスになれないこと。この二つを天秤にかけたら後者の方が苦痛だ。だから鬼にでもなんでもなってやる。
「……仕方ないね。」
誰に言うでもないそんな内心などおくびにも出さずに、返事はしたものの立ち上がることもなくカクカクと船を漕ぎ続けているマロンを抱き上げて己の部屋へと向かうことにする。
マロンをベッドへと寝かせ、自分も眠る準備をしていく。サッとシャワーを浴び、ラフな格好に着替え、その他細々とした準備をも今終えたところだ。鏡に映る強い外ハネの青髪を忌まわしげに睨みながら。
いつもは外ハネになりすぎないように毎朝髪をセットしているのだが、まあ、それは置いておいて良い。何故って言われても、今どんなに足掻いても生まれは変わらないのだから。
さて、と気を切り替えて自分もマロンの隣へ潜り込む。我輩の仕事柄、いつでも身体をベストな状態にする義務がある。いつこの世界に何が起こっても対応できるように。だからソファーで眠るだなんてことは一ミリも考えなかった。
それに同性だから良いだろう。そう考えて眠ったのを後悔するだなんて、この時の我輩は思いもよらなかった。
「アリーズちゃん! 起きてる!? マロンがいなくなったの!」
バァンと叩きつけるように開いた自室の扉と、焦ったようなトーラスの大声で目を覚ました。
「ん……トーラス、どうした……」
「マロンと一緒に朝食を摂ろうと思って部屋に行ったんだけ、ど……キャーー!!!?」
寝惚けている間にもトーラスはペラペラと一人で喋り続け、その後野太い悲鳴を上げた。我輩は思わず耳を塞ぐ。
「五月蝿っ」
「ちょっとアリーズちゃん!? ななな何故マロンと……!?」
「むにゃ……?」
トーラスの悲鳴やら大声やらでマロンも目覚めたらしい。しかしトーラスは何かよく分からないことばかり音にしていて、マロン共々頭にハテナを浮かべ続ける。
「ええと、ええと……リーブラちゃん!!」
そしてトーラスはその後すぐに何故かリーブラの名前を呼んで部屋を出ていった。ええ、当事者(仮)なのに状況が掴めないんだが……。
「……取り敢えず、朝の支度をするか。」
「うぃっす。」
マロンも同じように混乱しているらしく、とにかく我輩の言葉に肯定するしか出来なかったようだった。
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