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一章
七十五 アリーズ
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「マロン!」
魔物を倒したマロンは、それを眺めながらフラッと力無く倒れていった。
我輩はマロンをなんとか地面に付く前に抱き止めたが、マロンはそのことに対して文句を言うことは無かった。我輩相手なのに。
それもこれもマロンが気を失っていたからである。ぐったりと我輩に身を任せる形で眠っている。ちゃんと呼吸をしているのは確認済み。
マロンが魔物を倒したことで、周りに漂っていた大量のボースハイトも綺麗さっぱり消え去った。そのことに我輩はまず安堵する。そうしてから考えるのはやはりマロンのこと。
「……今回はさすがに少し乱暴だっただろうか。」
気を失ったマロンの頬を、空いている左手でつぅっと撫でる。その頬に付いた小さな傷に手が触れたらしく、マロンは眠りながら呻く。それを見て我輩の眉間に皺が寄るのも自覚出来た。
「回復薬を……」
我輩分の回復薬を取り出し、マロンに飲ませる。すると小さな傷も、鍛錬で出来たであろう剣だこも消えていくのが見えた。そのことに少しホッとする。が、しかし……
「……」
この討伐にマロンを参加させたのは他でもない、我輩だ。実戦を交えればマロンは今以上に成長すると考えたから。
確かにその判断は間違ってはいなかった。実際マロンは自力で魔法を剣に纏わせる方法を考え出し、結果魔物の討伐に成功したのだから。
マロンに『魔物は十二星座より弱い』とは言ったが、一般の騎士の場合、数人がかりで魔物を討伐するのが一般的──マロンに嘘は言っていない。まぁ、真実も言っていないのだが──である。それを一人で請け負い、結果討伐を完了させたのだから、マロンの強さは良く分かるだろう。
しかしマロンが物理的に強かったとしても、精神的にくるものがあったのかもしれない。魔物とはいえ生き物を殺したのだ。なんとも思わないはずがない。
マロンはそのせいで意識を失った、のだろう。多分。断定は出来ないが。
「無理、させすぎた……か。」
今回は我輩の采配ミスだ。マロンなら出来ると信じていたとはいえ、無理をさせすぎた。
「……悪いことをした。」
ぎゅ、とマロンを抱きしめる力を強めるが、マロンはそれでも尚眠り続けていた。
我輩は柄にもなく焦っていたのだろう。マロンこそがポラリスたり得る人物であるという確証を得たい、と。そして安心したかったのだろう。なんと利己的であろうか。反省しかない。
「……」
マロンは水属性を持っていない。だからポラリス候補にすらなれないはずである。
しかし我輩ら十二星座に備わっている嗅覚が伝えてくれるのだ。マロンこそが次期ポラリスであると。だからこそマロンがポラリスたり得る確証が早く欲しかった。
そして我輩はどうにかマロンがポラリスになるために抜け道がないかと調べ物をしている訳なのだが、今のところ欲しい情報は全くと言ってもいい程得られていない。それ故に焦ってしまっていた、というわけである。言い訳も出来ない。
「我ながら……余裕が無かったな。」
反省は城に帰ってから。そう決めて我輩はマロンを抱き上げ、街の中へと戻るのだった。
魔物を倒したマロンは、それを眺めながらフラッと力無く倒れていった。
我輩はマロンをなんとか地面に付く前に抱き止めたが、マロンはそのことに対して文句を言うことは無かった。我輩相手なのに。
それもこれもマロンが気を失っていたからである。ぐったりと我輩に身を任せる形で眠っている。ちゃんと呼吸をしているのは確認済み。
マロンが魔物を倒したことで、周りに漂っていた大量のボースハイトも綺麗さっぱり消え去った。そのことに我輩はまず安堵する。そうしてから考えるのはやはりマロンのこと。
「……今回はさすがに少し乱暴だっただろうか。」
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「回復薬を……」
我輩分の回復薬を取り出し、マロンに飲ませる。すると小さな傷も、鍛錬で出来たであろう剣だこも消えていくのが見えた。そのことに少しホッとする。が、しかし……
「……」
この討伐にマロンを参加させたのは他でもない、我輩だ。実戦を交えればマロンは今以上に成長すると考えたから。
確かにその判断は間違ってはいなかった。実際マロンは自力で魔法を剣に纏わせる方法を考え出し、結果魔物の討伐に成功したのだから。
マロンに『魔物は十二星座より弱い』とは言ったが、一般の騎士の場合、数人がかりで魔物を討伐するのが一般的──マロンに嘘は言っていない。まぁ、真実も言っていないのだが──である。それを一人で請け負い、結果討伐を完了させたのだから、マロンの強さは良く分かるだろう。
しかしマロンが物理的に強かったとしても、精神的にくるものがあったのかもしれない。魔物とはいえ生き物を殺したのだ。なんとも思わないはずがない。
マロンはそのせいで意識を失った、のだろう。多分。断定は出来ないが。
「無理、させすぎた……か。」
今回は我輩の采配ミスだ。マロンなら出来ると信じていたとはいえ、無理をさせすぎた。
「……悪いことをした。」
ぎゅ、とマロンを抱きしめる力を強めるが、マロンはそれでも尚眠り続けていた。
我輩は柄にもなく焦っていたのだろう。マロンこそがポラリスたり得る人物であるという確証を得たい、と。そして安心したかったのだろう。なんと利己的であろうか。反省しかない。
「……」
マロンは水属性を持っていない。だからポラリス候補にすらなれないはずである。
しかし我輩ら十二星座に備わっている嗅覚が伝えてくれるのだ。マロンこそが次期ポラリスであると。だからこそマロンがポラリスたり得る確証が早く欲しかった。
そして我輩はどうにかマロンがポラリスになるために抜け道がないかと調べ物をしている訳なのだが、今のところ欲しい情報は全くと言ってもいい程得られていない。それ故に焦ってしまっていた、というわけである。言い訳も出来ない。
「我ながら……余裕が無かったな。」
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