××の十二星座

君影 ルナ

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一章

六十

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「はー……はー……」

 ただでさえキャンサーと手合わせして疲れているって言うのに、何故ここまで私は動けているのだろう。まあ、動かざるを得ないとも言えるが。

 アリーズに突っ込んで行った部分は確かに私の自業自得だけど、それでもそうさせる行動を先に取ったのはアリーズだ。

「降りて、来いっ!」

 アリーズを目視出来る程近付けたというのに、アリーズはそこから動く気配がない。というか大きめな銃を構えながら肩を震わせている。笑ってんじゃないよね?

 カッチーン! 頭にきたね!

 私はもう一度剣を片方アリーズに向けて……

「あ、やっば……」

 投げようと思ったら、アリーズが声を漏らし……? そこまで理解出来た瞬間、

 バッシャーンッ!

 何かが降ってきた。な、何があった……? 急な出来事に頭が追いつかない。

「へ、へ、へ、へっきし!」

 くしゃみをして数秒、頭がようやく働き始めた。どうやらアリーズと私の頭上から大量の水が降ってきたらしいことだけは分かった。

 しかし誰がこんなことを……

「アリーズ、マロン、喧嘩両成敗、ですよ。」

 犯人は誰かを考えていると、のほほんとした低音ボイスが背後から聞こえてきた。この声はパイシーズ! 帰ってきたんだ!

 声の方に振り返ると、そこには芸術品がいた。

「おうっふ……」

 私、美人耐性は付いたと思っていたけど……それを凌駕する程の美人がそこにいた。私はそのご尊顔を真正面から受けて固まってしまう。

 その美人──多分声からしてパイシーズだろう──は私が何も発さないからか首を傾げた。

「マロンさん? ……ああ、寒いですよね。はい。」

 私が何も言わないから勝手に解釈したらしいパイシーズはパチンと手を合わせる。すると体から体温を奪っていた水分が消える。これが消えるだけでも幾分マシだ。冷えた体温は戻らないけど、少し楽になった。

「マロンさん、ただいま帰りました。」
「……お、おかえり。」

 ニコーッと笑顔を振りまくパイシーズ。駄目だ、キラキラが増して目が、目がァッ!

「ちょっとパイシーズ。」
「はい。」
「何故我輩までこんな目に……」

 おっとぉ……。あんなに私の目の前に出てくるのを渋っていたアリーズがサラッとパイシーズの目の前にやってきたではないか。アリーズはパイシーズに不満を訴えながらぐいと濡れた前髪を掻き上げる。

 水浸しにされたのを怒っているようだけど、アリーズの自業自得でしょう? 何故パイシーズに怒りの矛先を向けるんだ?

「ああ、そういえばアリーズはすぐ消えたので水浸しのままでしたね。そのままが良いですか?」
「そんなわけないでしょう?」

 二人ともニコニコ笑っているようにも見えるけど、なんかバチバチと火花が散るような音が聞こえた……気がした。幻聴かな。
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