××の十二星座

君影 ルナ

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一章

十七

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 今日は一日中、暗くなるまで部屋でぼーっとしていた。何もする気になれなくてね。無気力というわけではないけれども何故かそうなってしまった。部屋が真っ暗になるまでベッドに座ってそうしていたらしい。

 ハッと気がついた頃にはもう既に夜だった。しかし部屋は真っ暗なのに、窓の辺りは明るかった。外から入ってくる煌々とした光が部屋に入ってきているからのようだ。

 私は何故かそれがやけに気になった。ああ、一人の時は目を開けているから一応は見えているよ。だからこそ余計に気になったのだ。

 私は目を開けたままバルコニーに出てみると、月が出ているのが見えた。今日はどうやら満月のようだ。それの光が煌々と入ってきていたのだ。成る程。



 私はその満月から目が離せなくなってしまった。そして白とも黄色とも取れる満月の光に、あるはずもない赤色がかぶって見える気がする。もちろん、気のせいであるはずなのだが。

「……ああ、嫌だ。」

 月を見ると嫌な記憶が頭の中で何度も何度も再生される。それはあの日からずっと。

 あの日も母の背後に大きな満月があり、それがやけに印象に残っていた。だから満月は特に嫌なのだ。だってあの後すぐに……






「っ……」

 月に気を取られて、私は近づいてきた人の気配に気がつけなかった。まあ、殺気がこちらに向けられなかったからというのが理由の大半だろうけど。

 驚いて無意識的にその方を振り向かないように自分を律し、まず目を閉じる。そうしてから、気配の方を向く。

「あ、マロン……」

 声でリアスだと分かった。知り合いだったから良かった……かな? まあ、別に良いも悪いも無いけど。

「マロン、どうしたの?」
「何が?」
「……月を眺めるあなたの顔が、どこか悲しそうな、辛そうなものだったから。」
「そう? 見間違いだよ。今日は満月だから綺麗だなーって見てただけ。」

 嘘だけど。『何故悲しそうだったの?』などと詮索されるのを防ぎたかったからね。

「そう……」

 リアスも何かを感じ取って、それ以上は詮索しては来なかった。ありがとう。その優しさに甘えるね。

 私はこの話はおしまいと言わんばかりに話を変えてみる。

「あ、そうだリアス。港まではあと何日くらいかかるの?」
「そうねぇ……確かあと二日程だったかしら?」
「そうなんだ……。結構遠いんだね。」

 成る程、あと二日は船の旅を続けるということか。

「で、その港から目的地まではどれくらいかかるの?」
「そうねぇ、行きは馬車を手配して三日だったかしら。」
「へぇ……。」

 馬車を使っても三日かかるのか。探し物のためにそんな遠くまで来るなんて、相当大事な探し物なのだろうことが分かった。

「随分遠いところからリアス達は来たんだね。」
「そうね。でもあたくし達側からすれば島国に行くのが遠い、というイメージね。」
「ほわー……そう聞くとリアスって都会っ子なんだね。」
「まぁね。この世界で一番栄えている場所にあたくし達は住んでるから、都会っ子というのも強ち間違いではないわね。」

 私は生まれも育ちもあの島国だった。だからこそ未知の世界である都会とやらにこれから行けると思うと、期待で胸が弾んだ。



 先程まであんなに怯えていた嫌な記憶のことなんて、もう既にこの時には頭の片隅に追いやられていた。私は実に現金な人間である。
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