××の十二星座

君影 ルナ

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一章

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ここから主人公目線です。
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「あなたのお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 シーズにそう聞かれた。確かに名も知らない人間と一緒に行動なんて安心出来ないだろう。そう納得した私は、私は、私は……

「名前……名前? 私の名前は……なんだっけ?」

 自分の名前を思い出せなかった。名前を最後に呼ばれたのはそんなに昔のことではないのに。なんだっけ、なんだっけ、なんだっけ。無い頭を捻って思い出そうと奮闘する。しかし私は頭の出来が悪いので思い出せるかどうか……

 母は私のことを何と呼んでいたっけ……? 頭を捻る、首も捻る。母は……

『……ン、』

 ああ、そうだった。微かに残る母の声をギリギリ思い出せた。そうだ、そうだ。私は……

「私の名前は、マロン。」

『マロン、ほら、こっちおいで。』

 自分の名前を口にすると、優しい母の声が頭の中で蘇った。それだけで私はもう大丈夫な気がしてきた。

 私の口角がクッと上がった気がした。

「そうなんですね。ではマロンさん、改めましてよろしくお願い致しますね。」
「うん。……シーズサン、私には敬語? じゃなくて良いよ。私敬語とか分からないから。」

 です、とか、ます、とか付ければ良いんだっけ? 私って勉強とかしたことないからね。何となく聞きかじったものしか知らない。頭の出来の悪さもここから来ている。

「あ、いえ。これは小生の性分と言いますか何と言いますか……。ですから気になさらずにマロンさんは普通に話しかけてくださいな。あと、呼びにくければ呼び捨てでも構いません。」
「はあ……じゃあシーズがそれで良いならそうさせてもらうけど。リアスサンは……」
「あ、あたくしも別にどうだって良いわ。敬われるだけではつまらないもの。」
「じゃあリアスって呼ぶね。二人とも、よろしく。」

 私は口角をグッと上げて笑顔を作る。すると二人もフッと笑ったような気がした。ああ、言い忘れていたけど、私、目を常に瞑っているので二人の顔は……というか何も見えていないんだ。そもそもあまり目も良くないから、どうせなら瞑っちゃえ! というわけなのだ。

「あ、それで二人とも、早く森を抜け出したいでしょ? ちょっと待ってて。」

 なるべく早く森を抜け出したいのはこちらも一緒。だから早々に行動に移す。

 そこら辺の木にスルスルと登り、木のてっぺんまで来た。ここには誰もいないので目を開けて街の明かりを探す。あ、ここから北の方角に明かりが見えるようだ。ぼんやりと明るいものが見える。

 方角を確認した私はまたパチッと目を閉じて下に降りる。

「ここから北方向に明かりが見えた。そっちに行けば多分着くよ。」
「ありがとうございます。小生らは体育会系ではありませんから、助かります。」
「マロン、あなた意外と運動出来る方なのね。見直したわ。」
「えへへ?」

 褒められたのはいつぶりだろう。褒められるって嬉しいんだね。でも照れるというか何というか……。

 私は頬をかいて照れを紛らわせる。
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