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事例 壱 『コウシュ村』
捌
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懐中電灯で照らしていくと、この部屋がいわゆる居間なのだろうということが分かった。
一つ二つくらい元号が前の家であるような外観をしていた割には、洋風な家具が置いてあったりしてチグハグな印象。……いや、こんなもんか? よく分からん。
もしかしたら己は結構若い人間で、歴史なんてものもが苦手な部類だったのかもしれない。これもまた憶測でしかないが。
フッとカーテンに懐中電灯の明かりを当ててみると、刃物か何かでボロボロに切られているらしいことが分かった。
次にソファー。革がズタズタに裂かれていて、中の綿のようなものが至る所から溢れている。
その前にあるローテーブルは木製らしいが真っ二つに割れていて、足も一本無い。見事な荒れ放題だ。
「ふむ……」
この家の中は、他の家とは違って自然的な荒廃だけではないのかもしれない。どれも人為的な荒れ方に見えるから。そう冷静に居間を見る。
その時徐に床に懐中電灯を当てるとキラキラと光が反射する。
これは何だろうとしゃがんでジッと観察してみると、どうやらガラスであるらしいことが分かった。窓でも割れたのだろうか。この部屋の窓は割れていないようだけれども。
あとここには書類や本などが無く、この村に関する情報を収集するには向かないようにも見えた。ガサガサと雑に戸棚を漁るが目ぼしいモノはやはり無さそうだ。
それなら次の部屋に向かうか。そう決めて立ち上がった瞬間、窓も廊下に続く扉も閉まっているはずなのにビュウと一つ風が吹いた。
「なんだっ!?」
突如どこからか一つ吹いた風は生ぬるく、しかしゾワゾワと異様な程の寒気が全身を襲うものだったから、心臓も跳ねたしヒュッと細い息が肺に入った。
体験したことはないが……まるで幽霊が傍を通ったような、という比喩が適切だろうか。そんな気持ち悪さがその風(仮)にはあった。
今一度窓際まで駆け、窓が閉まっていることを確認する。隅々まで懐中電灯で照らしていくが、やはりどこも開いていないし隙間風すら入らない程密閉されている。この荒廃具合に似合わないくらいだ。
そして振り返って廊下に続く扉が閉まっていることも確認する。勿論風が通る隙間なんてものも、通気口すらも見当たらない。
本当は開けておいた方が良いのかもしれないが、探索中にナニカが部屋へと入ってきても、扉を開ける音で気付けると思って閉め切っていた。
まあ、その用心こそが今回、あの風(仮)の正体が『分からなくなる』原因にもなってしまったのだが。
ああ嫌だ。蠢く恐怖に対して自分を納得させる理由を作るために、以前ホラー映画をイヤイヤ見て研究した結論、『分からない=恐怖』がここで裏目に出るとは。
自分を宥めるお守りのような意味合いも持っていたそれが無効になってしまった今、恐怖に打ち勝てる策が消えた。
またそれを自覚した途端に恐怖からジョバっと冷や汗が噴き出てきた。心臓は五月蝿く鳴り、カタカタと全身が震え、手足から順にサァッと冷えていく感覚に陥ったのだった。
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