44 / 45
44 マリーの独白(最終話)
しおりを挟む
私は今世でも前世でも、周りの人間から『陽だまりのような癒し』という位置づけをされていた。
もちろんそれは悪いことでもない。皆さんから好かれ、争い事も私の周りでは少ない方。平和、とはまさにこのことなのではないかと思う。
しかしその反面で、私の『イメージ像』が一人歩きしていく。
「陽だまりのような癒し的存在」
そのイメージ像に私自身が縛られて、失望されたくないとイメージ像通りに振舞ってしまう。
そしてそのことでまたイメージ像は勝手にどこかへ歩いていく。その繰り返し。
本当の私は顔を出すことなく、ずぶずぶと沼の底に堕ちていく。表面だけが良い、薄っぺらい人間になってしまったと自分でも思ってしまう。
自分の首だけがギリギリと締まっていく。
沼の底に堕ちていく。
苦しい
辛い
心から笑えない
『誰か助けて……』
そんなこと、何度思ったか。誰にも相談など出来ないし、失望されたらと考えるとそんなことも出来ず。一人部屋の中で泣いたこともあった。
だから前世でも今世でも私は独りなのだと思っていた。本当の私が顔を出したらきっと失望される。それだけは怖くて避けたかった。それなのに……
「貴方だけは……繕わない私を見ても傍にいてくれました……」
そのことが私にとってどれくらい救われたか、ラル様は分かっているのだろうか。
笑顔のまま一粒の涙が零れ落ちた。
「もちろんだ。笑顔のひまりも、そうじゃないひまりも、愛しくて仕方ないからな。」
ふっとラル様の口元が緩む。それを見てまた一粒涙は零れた。
「だからもう、これは必要ないな? 私といる時はこんなもの要らない。」
「え?」
そう言ってラル様は私の顔に貼り付いているものを剥がす。
カラン……
私の笑顔という仮面はラル様が外し、そしてそれはそのまま地面に落ちていったのでした。
end
もちろんそれは悪いことでもない。皆さんから好かれ、争い事も私の周りでは少ない方。平和、とはまさにこのことなのではないかと思う。
しかしその反面で、私の『イメージ像』が一人歩きしていく。
「陽だまりのような癒し的存在」
そのイメージ像に私自身が縛られて、失望されたくないとイメージ像通りに振舞ってしまう。
そしてそのことでまたイメージ像は勝手にどこかへ歩いていく。その繰り返し。
本当の私は顔を出すことなく、ずぶずぶと沼の底に堕ちていく。表面だけが良い、薄っぺらい人間になってしまったと自分でも思ってしまう。
自分の首だけがギリギリと締まっていく。
沼の底に堕ちていく。
苦しい
辛い
心から笑えない
『誰か助けて……』
そんなこと、何度思ったか。誰にも相談など出来ないし、失望されたらと考えるとそんなことも出来ず。一人部屋の中で泣いたこともあった。
だから前世でも今世でも私は独りなのだと思っていた。本当の私が顔を出したらきっと失望される。それだけは怖くて避けたかった。それなのに……
「貴方だけは……繕わない私を見ても傍にいてくれました……」
そのことが私にとってどれくらい救われたか、ラル様は分かっているのだろうか。
笑顔のまま一粒の涙が零れ落ちた。
「もちろんだ。笑顔のひまりも、そうじゃないひまりも、愛しくて仕方ないからな。」
ふっとラル様の口元が緩む。それを見てまた一粒涙は零れた。
「だからもう、これは必要ないな? 私といる時はこんなもの要らない。」
「え?」
そう言ってラル様は私の顔に貼り付いているものを剥がす。
カラン……
私の笑顔という仮面はラル様が外し、そしてそれはそのまま地面に落ちていったのでした。
end
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる