上 下
28 / 45

28 生きる価値

しおりを挟む
「笑うことしか出来ない……?」
「そのままの通りですよ。失態を晒してしまった後だとしてもちゃんと笑っていないと、陽だまりでいないと……私の存在意義が無くなってしまいます。だから笑わないと……」

 笑わないと、笑わないと、笑わないと……

「マリー……」

 私を呼ぶ声が聞こえたと思ったら、体が引き寄せられる感覚の後ふわりと抱きしめられました。

 先程のエウロパ先生に対して感じた嫌悪感などは全く無く、その暖かさに心地よさすら感じ、もう一粒涙が零れた。

「笑わなくていい。笑わなくてもマリーはマリーだ。」

 何故こうもラル様は欲しい言葉をくださるのでしょう。本当にこれは現実でしょうか。夢なら覚めなければいいのに。

「そんなことない、です。私は笑っていないと生きている価値もないんです。だから……」
「そんなこと、誰が言ったんだ?」

 す、と体が離れていき、目線が合う。ラル様は怒ったような顔と声でそう聞きます。

 誰、か……。ああ、お母さんが笑顔でいろと私を怒鳴る声も思い出してしまい、ふっと俯く。

「……お母、さん。」

 真顔でいる私に笑顔を強要した前世のお母さん。あの言葉が今でも私の中に確固たるものとして存在しています。

「……ヒダン侯爵夫人は何を考えているのだ。これは……」
「ち、違います! お母様ではありません!」
「何? どういうことだ?」
「あ……えと……」

 今世のお母様はとても良くしてくれています。だから違うのです。

 しかしこれを話すには前世の記憶についても話さなければならなくなります。安易に話して頭のおかしい人だと思われたくはないので……どうしましょう。視線を右に左に彷徨わせる。

「……話して欲しい。どんなに突飛な話でも信じよう。」

 先程の私の言葉を覚えていたらしい。

「でも……」
「聞きたい。駄目か?」
「っ……」

 そんな風に言われたら……話したくなるじゃないですか。

 口を開き、閉じ。それを二、三回繰り返した後、決心して話し始める。

「わ……私は……私には、前世の記憶があります。」

 その一言に、ラル様が息を飲んだのが分かりました。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

あなたの愛が正しいわ

来須みかん
恋愛
旧題:あなたの愛が正しいわ~夫が私の悪口を言っていたので理想の妻になってあげたのに、どうしてそんな顔をするの?~  夫と一緒に訪れた夜会で、夫が男友達に私の悪口を言っているのを聞いてしまった。そのことをきっかけに、私は夫の理想の妻になることを決める。それまで夫を心の底から愛して尽くしていたけど、それがうっとうしかったそうだ。夫に付きまとうのをやめた私は、生まれ変わったように清々しい気分になっていた。  一方、夫は妻の変化に戸惑い、誤解があったことに気がつき、自分の今までの酷い態度を謝ったが、妻は美しい笑みを浮かべてこういった。 「いいえ、間違っていたのは私のほう。あなたの愛が正しいわ」

どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。  しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。  だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。 ○○sideあり 全20話

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

王子様と過ごした90日間。

秋野 林檎 
恋愛
男しか爵位を受け継げないために、侯爵令嬢のロザリーは、男と女の双子ということにして、一人二役をやってどうにか侯爵家を守っていた。18歳になり、騎士団に入隊しなければならなくなった時、憧れていた第二王子付きに任命されたが、だが第二王子は90日後・・隣国の王女と結婚する。 女として、密かに王子に恋をし…。男として、体を張って王子を守るロザリー。 そんなロザリーに王子は惹かれて行くが… 本篇、番外編(結婚までの7日間 Lucian & Rosalie)完結です。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

処理中です...