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26 涙
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「は……? 何を言っているんですか?」
「いつも笑っているヒダン嬢が一人で、しかもこんな所で、泣いていたんですよ。婚約者であるあなたに一言も言わずに。上手く行っていないなによりの証拠でしょう?」
「な……」
その言葉に私はガタッと音を立てて立ち上がる。音なんて気にしていられない。これは私の気持ちの問題なのだからラル様は悪くない。誤解だけは解いてしまいたい。
「ち、ちちち違うんです! ……あ、その、話に割り込んで申し訳ありません。しかし言わせてください! ラル様は何も悪くありません!」
「と、言っていますが?」
ラル様のその言葉にエウロパ先生は一つ溜息をついた。
「……まあ、今日はそういうことにしてあげます。しかしお二人できちんと話し合った方が得策かと。」
そう言い置いてエウロパ先生はこの場から離れて行った。引っ掻き回すだけ引っ掻き回していったエウロパ先生に少し苛立ちを覚えたが、それを早々に消し去る。私は怒ってはいけないのだから。
さてここに残ったのはラル様と私の二人。ああ、私はどうしたら……。
「……助言、感謝します。」
ぽつりと先生の後ろ姿に向けて呟いたラル様。それを私はぼーっと見ていた。
「よし、マリー、話そう。」
ラル様はくるりとこちらを向き、私の目を見てそう仰った。しかし一体何を話すというのでしょう。
ラル様に促されるまま椅子に座り、隣に座ったラル様は私をじっと見つめる。その視線に居心地が悪くなり目を逸らす。
「マリー、泣いていたのは何故だ?」
直球だね。しかし何故って……ラル様への恋心を自覚した瞬間に失恋だと理解したからなのだが……
まさか本人に言えるわけがない。
「目、目にゴミが入って……」
私のその言葉に、ラル様はしゅんと顔を悲しげに変える。
「……私は、そんなに頼りないか?」
「ち、違っ……」
「違くないだろう。……マリーの話、聞きたいのだが。」
「でも……」
どこから話していいか分からないのだ。
この世界が物語の中のものであると知って? それの内容までは分からないけど私はライバルキャラだと分かっていて? だからラル様とは結ばれないと知ってしまって泣いていた、だなんて頭がおかしいと思われかねない。
「どんな話でも聞きたい。」
「……あまりにも突飛すぎますよ。」
「それでも構わない。聞きたい。」
……そんなに優しくされるとまた涙が出そうになる。恋しい思いが募っていき、涙として溢れてしまいそうだ。失恋だと分かっていてもなお。
「泣くのも我慢しなくていい。」
「そん、な……優しくしな、いで……く、ださ、い……」
ゆらゆらと視界が揺れていく。涙で前が見えないとはこのことか。
「ああ、マリーの泣いている顔、初めて見れたな。」
この場に合わない少し嬉しそうな声が聞こえたと共に私の目からは涙が零れ落ちた。
「いつも笑っているヒダン嬢が一人で、しかもこんな所で、泣いていたんですよ。婚約者であるあなたに一言も言わずに。上手く行っていないなによりの証拠でしょう?」
「な……」
その言葉に私はガタッと音を立てて立ち上がる。音なんて気にしていられない。これは私の気持ちの問題なのだからラル様は悪くない。誤解だけは解いてしまいたい。
「ち、ちちち違うんです! ……あ、その、話に割り込んで申し訳ありません。しかし言わせてください! ラル様は何も悪くありません!」
「と、言っていますが?」
ラル様のその言葉にエウロパ先生は一つ溜息をついた。
「……まあ、今日はそういうことにしてあげます。しかしお二人できちんと話し合った方が得策かと。」
そう言い置いてエウロパ先生はこの場から離れて行った。引っ掻き回すだけ引っ掻き回していったエウロパ先生に少し苛立ちを覚えたが、それを早々に消し去る。私は怒ってはいけないのだから。
さてここに残ったのはラル様と私の二人。ああ、私はどうしたら……。
「……助言、感謝します。」
ぽつりと先生の後ろ姿に向けて呟いたラル様。それを私はぼーっと見ていた。
「よし、マリー、話そう。」
ラル様はくるりとこちらを向き、私の目を見てそう仰った。しかし一体何を話すというのでしょう。
ラル様に促されるまま椅子に座り、隣に座ったラル様は私をじっと見つめる。その視線に居心地が悪くなり目を逸らす。
「マリー、泣いていたのは何故だ?」
直球だね。しかし何故って……ラル様への恋心を自覚した瞬間に失恋だと理解したからなのだが……
まさか本人に言えるわけがない。
「目、目にゴミが入って……」
私のその言葉に、ラル様はしゅんと顔を悲しげに変える。
「……私は、そんなに頼りないか?」
「ち、違っ……」
「違くないだろう。……マリーの話、聞きたいのだが。」
「でも……」
どこから話していいか分からないのだ。
この世界が物語の中のものであると知って? それの内容までは分からないけど私はライバルキャラだと分かっていて? だからラル様とは結ばれないと知ってしまって泣いていた、だなんて頭がおかしいと思われかねない。
「どんな話でも聞きたい。」
「……あまりにも突飛すぎますよ。」
「それでも構わない。聞きたい。」
……そんなに優しくされるとまた涙が出そうになる。恋しい思いが募っていき、涙として溢れてしまいそうだ。失恋だと分かっていてもなお。
「泣くのも我慢しなくていい。」
「そん、な……優しくしな、いで……く、ださ、い……」
ゆらゆらと視界が揺れていく。涙で前が見えないとはこのことか。
「ああ、マリーの泣いている顔、初めて見れたな。」
この場に合わない少し嬉しそうな声が聞こえたと共に私の目からは涙が零れ落ちた。
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