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24 自覚

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 ああ、思い出した。何故忘れていたのだろう。図書館の奥の奥にある席に座り、素の姿真顔で頭を抱える。

「そうか、ここは『あなたのサテライト』の世界なのか……」

 桑さんが話していた月光様の名前、ムーンテラル様だった。ラル様の本名だね。

 通りで出会った時に既視感を覚えたのか。ということはクラインさんがやっぱりヒロインで、私が悪役令嬢。

 私も前世で異世界転生モノの小説を楽しんで読んでいたが、転生した悪役令嬢が主人公の話は、前世でやったゲームの記憶を使ってバッドエンド回避する話だったりしたけれども……

「私そのゲームやっていないし、内容なんて桑さんから聞いた話だけだし……」

 それも覚えていることはほとんどない。

 しかし一つだけ、クラインさんがラル様狙いであることは分かっている。あれだけ追いかけ回しているくらいだから。

「じゃあこの世界では私がラル様ルートの悪役令嬢になる……のか。」

 そういうゲーム系の話でのテンプレは、婚約者が悪役令嬢になるというもの。

 見てきた話の元となるゲームの悪役令嬢とかってバッドエンドオンリーだったし、もし私もそうなったら……

 そう考えるだけでぎゅっと胸が締め付けられるように痛む。






「……ああ。」

 その痛みで理解してしまった。私はラル様のことが好きなのだと。

 しかしバッドエンド回避の仕方とか分からない私には、バッドエンドだけが待ち構えているのだろう。オハナシはシナリオ通りに進むものだから。

 そうなると、この気持ちは後々邪魔になってくる。

 何もしない悪役令嬢とヒーローは結ばれないのだから。

「ああ、痛い……」

 辛い、辛い、辛い。ぎゅっと胸の辺りの服を掴む。

クラインさんヒロインが羨ましい。何故悪役令嬢じゃないの。

 先程のラル様の行動を思い出したことも相まって、ついに私の涙腺は決壊する。

 きっとラル様はクラインさんを意識し始めたのだろう。私に離れるなと言ったけれども、恋に落ちるのなんて理屈ではないのだから。

 悪役令嬢は大人しく退場するしかないのだろう。

 そう考えると余計に涙は溢れ出る。






 ああ、泣いたのなんていつ振りだ……? 頭の隅には変に冷静な自分がいて、そんなことを考えていた。

 人生を振り返ってみて最後に泣いたのがいつか思い出した。この世界に生まれ落ちた瞬間だ。それ以降はちゃんと陽だまりとしてずっと笑っていたのだから。

 ぼろぼろ、ぼろぼろ、涙はあり得ないくらい溢れる。なんでこんなに大量に流れ出るんだ……?

「ヒダン嬢、これ、使ってください。」
「っ……!」

 この優しい声……エウロパ先生だ。そんな、陽だまりじゃない私なんて見せては……!

「大丈夫で、す。ちょっと目に、ゴミが……入って、しまっただけで、すので……」

 そう言って声が聞こえた方とは逆方向に体ごと向く。駄目だ、涙、止まれ……

「ヒダン嬢、涙、我慢しなくてもいいんじゃないですか?」
「すみません……一人にして、ください。」

 陽だまりじゃない私なんて失望される。それだけは駄目……

「すみません。」

 エウロパ先生からの謝罪が聞こえたと思ったら、ふわりと後ろから何かに包まれた。
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