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20 鬼ごっこ

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 授業中もずっと視線を感じました。それも十中八九クラインさんのものですね。射殺さんばかりに視線が私に刺さって痛いです。

 しかし授業が終わる度にクラインさんは教室を出て行くので、その間だけは視線が刺さることもなく一息つけます。

 あと一科目授業を受ければお昼ご飯の時間なので、そこまでの辛抱です。今日のご飯はなんでしょうか。そのことを考えて乗り切りましょう!
















 お天気がいいのでいつも通りの場所でほっと一息つきます。お弁当を開け……

「マリー! 匿って、くれ!」

 お弁当を開けた所でラル様が走ってきました。ここまで焦ったラル様は初めて見た気がします。匿って、と言うくらいなのですから、何かから逃げているのでしょうか。

「ええ、ええ、もちろんどうぞ。」

 ここは私専用というわけではなく、あくまで学園のものですから。拒否する理由などありません。

「助かる。」

 そう言ってラル様はベンチの後ろに隠れました。前はベンチに、後ろは大木によって認識され辛い場所になっていますからね。隠れるにはうってつけです。

 ずっと走ってきたのでしょう。少し上がった息を何とか落ち着かせているようでした。

 何故走って隠れているか気になる所ではありますが、まずは息を整えてからですね。

「お弁当、食べていてもよろしいでしょうか。」
「構わ、ない。」
「ありがとうございます。ではいただきます。」

 もし誰かから逃げているのならば、私はお昼ご飯を食べていた方が自然ですからね。

 さて、今日のポテトサラダも美味しいですね。頬がゆるゆるに緩みます。

「悪役令嬢! 月光様知らない?」

 その時たたたっと小走りでやってきたのはクラインさん。……ああ、なんとなく理解しました。ラル様が逃げていた対象はクラインさんですね。

「さあ……今日は朝にお会いしてからは見ていません。」
「えー、そんなぁー。じゃあどこ行ったのよ!」

 と怒られてしまいましたが、どう返事をしていいのやら。

 ベンチの後ろは絶対気にしないで考えなければですね。気にした時点で勘づかれる可能性がありますから。

「教室に戻ってらっしゃるのでは?」
「やっぱりそうかー。ってかなんで月光様は逃げるのよ! こんなに可愛いヒロインがいるのに!」

 ぷりぷりとクラインさんは一人怒ります。

 へえ、クラインさんがヒロインで私が悪役令嬢、ですか。そんな話見たことはないですねえ……。

 見たことがあれば何かしら対策を取れたとは思いますが、まあ仕方ありません。見たものに対しての対処だけはきっちりしないといけませんね。

「もう! 無駄足だったじゃない!」

 そう言って小走りで戻っていきました。まるで嵐のような人ですね。

「……すまない。マリーに嫌な役をやらせてしまった。」
「ラル様……。いいんです、嫌だとは思っておりませんから。それよりもラル様の方が大変ですね。」
「……ああ。」

 ひょこっとベンチの後ろから出てきたラル様の顔には疲れが見えます。その疲れ具合を見て、今の時間だけの疲れではないと推測出来ました。

「もしかして今日半日休み時間はずっとクラインさんに追いかけられていたのでは?」

 クラインさん、休み時間になる度にどこか他の所へ行っていたようですし。

「さすがマリーだな。そうだ。今日は変人がずっと私に付きまとって五月蝿かった。」

 ラル様はすとんとベンチに座り、背もたれに背中を預ける。

「はあ……」

 相当心身共にお疲れのようです。私に何か出来ればいいのですが……
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